48.富士の樹海探索 2.8日目
人型の女が出現させたG型の最後の1体が、仲間を喰らい進化し、蒼い炎を纏った姿は、なかなか迫力のある姿だ。
「あれは、炎は全く効かないよな。やっぱり…」
賢也は、G型に蒼い炎を当ててみたが、全く効果が無かった。炎を纏っているから当然といえば当然なのだが。
G型の触覚が縦に揺れる。動きが妙に速い。
「優!横に跳べ!」
賢也は、優を押すように横に跳ばせ、自分自身も優とは反対に飛ぶ。その横をヒュッと風を切る音が過ぎて行く。
後ろの離れた木が倒れる音がする。
「あいつ、触覚振って鎌鼬を放てるのか」
「おいおい。冗談じゃないぞ」
G型が触覚をブンブン振り回し始めたのだ。その1回1回に鎌鼬が発生している。
流石に力也もセンも正気を取り戻しており、賢也達は飛燕で鎌鼬を迎え撃つが、それだけで精一杯だった。
「このぉぉぉ!」
「きりがない!」
「ノッコ!あいつの顔に霧を!」
ノッコは賢也に言われた通りにG型の顔を霧で包み込み、視界を遮る。その瞬間に賢也達は、移動すると、飛燕をG型に放つ。4人の飛燕がG型に命中したが、全く効いていなかった。
「何だ?飛燕は命中したはずだぞ」
「あの炎か?あれでガードされているのか?もしかすると」
「なら、これでどうだ。飛燕・水!」
賢也が放った飛燕・水が命中する直前で、G型が上に飛んだ。
「躱された!水はやっぱり嫌なのか!?」
賢也は、飛び上がったG型に向け、更に飛燕・水を放つ。水の刃は、G型の吐き出した蒼い火球で相殺される。
「ちっ。直接斬るしかないか」
賢也は、力也の円月輪を横目で見ると、使っていた【銀狼】を異空間に仕舞い、名付けをしていない片手剣を取り出した。
「梶さん。すみません。使います。水!刹那!」
賢也の剣を水が包み込み、刹那で身体能力を極限まで強化した賢也は、ジャンプし飛んでいるG型の側へ一瞬で近付くと、剣を振り下ろす。刹那によって強化された賢也の攻撃は、G型を真っ二つに斬り裂くと同時に剣が威力に耐えきれず砕け散った。
賢也は、着地すると異空間から新しい太刀を取り出す。その太刀は、美しい日本刀だった。ただ、刀身は、鋼ではなく骨を削り上げた物だった。
「さあ、今度こそお前達の番だ!この【屠竜】で斬る!」
賢也は、取り出した新しい刀を女達に向ける。
「我々を斬るだと?クククッ。笑わせるな。今の虫程度に苦戦しておいて、よく言うわ。お前達ごとき、こいつで十分だよ」
そう言うと女は再び異空間の穴を出現させた。さっきのG型の時よりもでかい穴だ。
「お前達の世界は面白いな。娯楽の中に色々な化け物が出てくる。こいつは、その中の1体を参考にさせてもらったよ」
異空間から出て来たのは、異形の怪物だった。体は、蠍?ハサミと尻尾は明らかに蠍の物だが、その胴体から生えているのは蜘蛛の足のようだ。あの毛の生え方はタランチュラか?そして、背中には蜻蛉の羽のような物が付いている。体も5m位の巨体だ。
「いや、これは何を参考にしたら出てくるんだ?」
「キマイラとか言う異質同体の化け物がいるじゃないか。あれのように、色々と混ぜてみたのだよ。まぁ、せいぜい頑張るのだな」
女達はそう言うとその場から再び消えて行ってしまった。
「くそ!また逃げられた!」
「龍崎、あいつらは後回しだ。こいつをやるぞ」
「はい。皆、やれるな?」
「ああ、さっきは不甲斐ない所を見せたからな、名誉挽回させてもらう」
「私達は、サポートに徹底的に回るわ」
「すみません。僕は、空間切断は暫く使えそうにないです」
櫻翔は、G型との戦いで体力をかなり消耗したらしい。
「櫻翔さんは、2人の護衛をお願いします」
「分かりました」
櫻翔達3人は、少し離れた位置に移動を始めると、虫型キマイラも動き出した。櫻翔達に向けて、白い球のような物を口から吹き出す。それは、空中で広がりながら櫻翔達を包み込む。
「うわっ。ベタベタして動けない!」
「蜘蛛の糸か!」
虫型キマイラが櫻翔達に向けて、飛び出した。巨体に似合わず素早い。
「「きゃぁぁ!」」
「うわぁっ!」
優、ノッコは悲鳴を上げる。櫻翔は、何とか糸を斬ろうともがいているが斬れない。尻尾に付いた巨大な毒針を櫻翔達に向けて、突き立てた。
ガチィッ!
センの剣が櫻翔に当たる前に尻尾を受け止めた。
「くぅ。何てパワーだ。押される…」
センの力でも耐えきれず、少しずつ尻尾の先に付いた針が櫻翔に近付いていく。
賢也と力也も虫型キマイラに攻撃を仕掛ける。
「はぁっ!」
力也は、円月輪を双剣に切り替え、斬りつけるが、硬い甲殻に弾かれる。
「ちぃ!硬い!」
「なら、これは!」
賢也の攻撃を虫型キマイラは、鋏でガードし、もう一方の鋏でセンを殴り飛ばすと、後ろにさっと後退した。
「ぐぅっ…。強烈だ」
「セン!大丈夫か!?」
センは、軽く手を振る。まだ余裕はありそうだ。賢也達は、虫型キマイラに剣を向け、一斉に飛燕を放つ。
見えない斬撃を躱す事なく、全て甲殻で防ぐ虫型キマイラ。動じる様子も無く、力也に向けて糸球を吹き出した。
「はっ。ネタバレの攻撃は当たらないぞ」
力也は、糸が広がる前に、突進して、躱す。
すると、その行動を読んでいたかの如く、虫型キマイラが力也の目の前に突進して来ていた。
「何!かはっ…」
虫型キマイラの突進が力也に直撃し、体をくの字に折り曲げ倒れた。そこに尻尾の針を力也に突き刺す。
「がぁっ…。しくじった…」
「力也さん!」
賢也がすぐに力也の元へ駆け寄ろうとすると、虫型キマイラは、賢也に向け糸球を吹く。
「舐めるな!」
賢也は、蒼い炎で糸を燃やすと、虫型キマイラを斬る。双頭竜の丈夫な骨を研ぎ、刀身として作った【屠竜】の斬れ味は抜群で、力也の剛力すら弾いた甲殻はいとも容易く尻尾を斬り落とす。
「凄い斬れ味だ。はぁっ!」
賢也は、追撃をするが、虫型キマイラは、飛び上がり離れた。
「力也さん!大丈夫ですか?力也さん!」
賢也は、力也の傷を見る。幸い、突き刺さったのは、右足だったため、致命傷ではなさそうだったが、傷口の周りが紫色に染まり、じわじわと広がっていた。
「毒か!やっぱり。まずい。すぐに優の所に!」
賢也は、蜘蛛の糸で身動きの取れない優の元へ、力也を連れて行く。
「優、力也さんの治癒を頼む。毒を受けたみたいだ」
賢也は、糸を燃やし、優達の拘束を解くと、力也を置いて虫型キマイラに向かって駆け出す。優は、すぐに力也の治癒を始めた。
「おらぁ!お前の相手は俺だよ!」
賢也が力也を優に預けている間、センは、剣を斧に切り替え、虫型キマイラの注意を引き付けていた。
勢いよく振った横斬りが左前足に当たり、切断した。
虫型キマイラは、センを鋏で叩き付ける。センは地面に打ち付けられ、吐血した。
「がはっ!このやろう…」
「セン!大丈夫か?」
「ああ、何とかな…」
センは、大丈夫と言っているが、立つのもやっとといった感じだ。そして、センは、賢也に告げる。
「賢也、あいつの注意頼む。デカイの一発ぶちかましてやるよ…」
賢也は、頷くと虫型キマイラの鋏を狙って斬りつける。
鋏の硬度は、尻尾よりも硬く、斬れなかったが、自分に注意を向ける事には成功した。
「さあ、センの用意が出来るまでは、俺がお前の相手だ!」
賢也は、再び斬り掛かる。虫型キマイラは、口から唾のような物を賢也に向けて、吐き出した。
賢也は、それを躱すと、賢也の後ろでジュウッという何かが溶ける音が聞こえた。
「溶解液か!危なっ」
溶解液を躱し、体勢を崩された賢也に、虫型キマイラは、鋏を突き付けた。これを賢也は、弾き返す。反撃をしようとしたその時、
「賢也ぁ!ぶちかますぞ!」
センが賢也に自分の準備が出来た事を告げる。ならば、賢也は、センの一撃が当たり易いように体勢を崩そうと追撃をしようとしたその時、虫型キマイラが空に飛び上がり、賢也の横を通り抜け、センに向かって一直線に突っ込んでいく。
「しまった!セン!行ったぞ!」
「任せろ!うぉぉぉぉっ!」
センは、斧を真上に掲げ、虫型キマイラが突っ込んで来るタイミングに合わせて振り降ろす。
「鳴神・ヴァンジャンス!」
センの異能であるダメージカウンターで強化した鳴神が虫型キマイラの頭部に直撃。斧の破壊力と異能で強化した強烈な一撃は、硬い甲殻を砕き、戦闘は終了した。
「やったな、セン。それよりも何だ今の技名は?」
「はぁっ、はぁっ…。格好いいだろ。ヴァンジャンス、フランス語で復讐って意味さ」
「フランス語って、お前に似合わないよ」
「ほっとけ」
賢也とセンは、皆の元へと戻る。辺りはもう明るくなってきていた。
「優、力也さんの具合はどうだい?」
賢也は、力也の治療をしている優に具合を尋ねる。
「とりあえず、傷は塞がって、毒も何とかなったけど、暫くは動かないで、安静にしておいた方がいいと思う」
「そうか。皆、疲れてるだろうし、センもキマイラを倒したとはいえ、ダメージが大きいから、今日は探索は中止して、体力回復に専念しよう」
あの女達が言った事が本当なら、向こうに黒死竜が隠れている。慌てて向かうより、しっかりと傷を癒し、疲れを取ったベストの状態で向かうべきだ。
「よし、皆はテントで休んで。俺は見張りをするから」
こうして、樹海探索の長い2日目は終わり、3日目は休養を取った。来る黒死竜との戦いに備えて…。




