43.四候闘剣術の幕引き
剣十郎の四候闘剣術を閉じるという言葉を受け入れる事の出来ない大河と剣十郎が闘う事となった。
賢也は、センに聞いた。
「大河さんって、前にも櫻翔さんと揉めたけど、自分の思い通りにいかないとすまない性格なのか?」
「うーん。普段は、面倒見もいいし、実力もあるから皆に一目置かれている人だけど、そうだな。少し、そういう所もあったかもしれないな」
成る程。突然の四候闘剣術の幕引きに反対と、跡継ぎ失格の烙印を焼き付けられて、腹を立てたか。
「それで、剣技はどこまで修得してるんだ?」
「大河さんは、剣技は一通り修得していたな。奥義は、冬の型だけだったかな?確か」
その程度の実力で跡を継ごうと思っていたのか…
剣十郎と大河を道場の中央に残し、他の者は壁まで下がると、
「では、始めるぞ」
剣十郎の声で闘いが始まった。大河が剣十郎に向かって走り出す。剣十郎は構えを取る事もなく、ただ立っている。
大河が竹刀を振り上げ、斬りつけようとした時、剣十郎が動く。
「遅い!」
後に動いた剣十郎の斬り上げが大河の顎に直撃する。
「ぐぅっ」
顎を打たれた大河が後ろに下がる。
「どうした?真剣なら今の一撃でお前は死んでいるぞ」
大河は踏みとどまると、
「うるさい!まだ俺は倒れていないぞ」
怒鳴ると同時に再び剣十郎に向かって走る。
「これで!氷雨!」
大河が氷雨の初擊を放ち剣十郎へ届く前に、剣十郎が放った突きが大河に当たる。
「だから、遅いと言っている」
大河は剣十郎の突きをまともに受けたが、何とか持ち堪えた。
「師匠の力が落ちている?手を抜かれているのか?前までなら、今の突きで気を失っている気がするのに。俺が強くなった?そうだ。そうに違いない。やっぱり俺は師匠より強くなったんだ」
大河がぶつぶつと呟いている。剣十郎は変わらず、構えを取らず、ただ立っているだけだ。
「カウンターなんか出来ない攻撃をしてやるよ」
大河が構えを取り、竹刀を振り上げる。
「飛燕!」
そのまま、弧を描くように剣十郎に向かって走り出した。剣十郎は、大河の放った飛燕を竹刀で薙ぎ払う。そこに大河が突っ込んできた。
「おらぁ!」
大河の一撃を剣十郎は受け止めると、受けた腕が痺れて動かない。
「くくく。麻痺攻撃が通じたな。やっぱり俺は師匠よりも強い!」
大河の覚醒能力の麻痺は、万能ではなかった。自分よりも強い者には、一切効果がない。強いの定義は、気の量に影響していた。覚醒する事で、剣十郎よりも気の量が大きくなった事で、大河の麻痺が通じたのだ。
「さぁ、ここからは俺の独壇場だ」
腕が動かない剣十郎に向かって斬りつけようと竹刀を振り上げ、振り下ろそうとした時、竹刀が動かなくなった。
「邪魔をするなよ」
大河の後ろに賢也が立って、大河の竹刀を握っていたのだ。
「そこまでだ。本来、真剣で闘っていたら、あんたは二度死んでいる。そもそも、師匠はもう闘えるような体じゃないんだ。そんな師匠に負けていて、まだ跡を継ごうなんて言うのか?」
賢也は握っていた竹刀を離すと、大河に言った。
「これ以上まだやると言うなら、俺があんたに引導を渡す」
賢也の言葉に、大河は聞き返す。
「師匠が闘えない体だと?嘘だ。負けを認めたく無いからだろう!」
「本当さ。嘘を言ったってしょうがない」
剣十郎が皆を集める2日前の夜、道場には、剣十郎と賢也、そして優の姿があった。
「優さん、すまんね。今日はこんな夜に来てもらって」
剣十郎は、優にも来てもらうように賢也に頼んでいた。
「いえ、大丈夫です。でも、どうして私がここに呼ばれたんですか?」
優は、剣十郎に尋ねた。
「貴方の癒しの力が必要なのだよ。今から、私と賢也が技を出し合う。恐らく、どちらか、もしくは二人共に大怪我を負うだろう。その傷を癒して欲しいのだ」
優は驚いた。大怪我をすると分かっていて、技を出し合う必要はないはず。
「そんな。賢也さんが技を見せるだけじゃ駄目なんですか?」
剣十郎は首を横に振る。
「これは、この技の宿命。教える事が出来ない故に、賢也が盗み、それが正しいものか、身をもって知る必要がある。型だけは、昨日、賢也は全て見る事が出来た。この世に朱雀は二羽存在する事は無い」
剣十郎は、賢也を見る。賢也は、剣十郎の言いたい事を理解した。
「優、俺からも頼むよ。師匠、始めましょう」
賢也は、優を道場の端に行くように合図すると、竹刀を取り構えを取る。
それに合わせて剣十郎も構えを取る。
「行くぞ」
二人が同時に飛び上がる。
ドンッ!
二人の空中を蹴る音が道場に響く。
互いの剣先がぶつかり合う。衝撃で道場が揺れた。すぐに右回転の回し斬りに移る。これも二人の剣がぶつかり合う。そして再び飛び上がる時に斬り上げを放つがこれは二人共当てる事が出来なかった。飛び上がりは賢也の方が剣十郎よりも早く、高く上がった。そして、最後の斬り下ろしが剣十郎に直撃する。直撃を受けた剣十郎の体が床に叩きつけられる。剣十郎は、全身からは血が流れ、気を失っている。
「優、頼む!」
賢也は、優に剣十郎の傷を癒すように頼む。
「は、はい」
優は急いで剣十郎の元に行くと治癒を始めた。
「傷がひどい…」
優の治癒の力で傷が塞がり、出血が止まった。傷が癒えるのと同時に剣十郎の意識が戻った。
「優さん、すまない。もう良いよ」
剣十郎はゆっくりと起き上がり、
「賢也、見事だった。これで私も思い残す事は無い。今いる弟子達には悪いが、隠居させてもらうとするかな」
剣十郎の言葉に賢也は驚いた。
「ありがとうございます。でも、隠居ってどういう事ですか?」
「今の朱雀で私の体はぼろぼろなんだよ。傷は癒えたが、骨には罅が入っているな。筋繊維もぼろぼろだ。剣を振る事は出来ても、剣技等の技はもう無理だ。手本を見せる事すら出来なくなったのだ」
賢也は、愕然とする。
「そんな…。俺のせいで…」
自分を責める賢也に剣十郎は言った。
「お前のせいでは決して無い。これは私が望んでした事だ。お前が気にする事ではない」
賢也の落ち込んだ顔を見ながら剣十郎は続ける。
「今度、皆を集めて四候闘剣術を閉める事を告げる。恐らく何人かは、受け入れる事が出来ず反対する者も出てくるだろう」
賢也は、大河の事を思い出した。
「大河さんとか言ってきそうですね…」
「あいつは、四候闘剣術の後継者は自分だと信じているからな。私と闘うなどと言ってくるかもしれん。だが、その時は闘う事は断らぬよ。技を使えずとも、まだまだ大河達には負けぬ。だから、その時は黙って見ていてくれ」
剣十郎は、静かに目を閉じ、続ける。
「だが、怪物の力、覚醒を使ってくれば、殺す気で闘う必要が出てくるだろう。私は、弟子を手にかけたくはない。その時は、賢也、頼む。お前が止めてくれ」
賢也は、剣十郎に頼まれていた通り、大河が覚醒し、剣十郎と闘い始めたため、闘いを止めた。
「たとえ師匠が闘えない体であったとしても、一度闘い始めたんだ。今更、「はい、そうですか」なんて言うと思うのか?」
大河が賢也に向かって怒鳴る。
「怒鳴ったって無駄だ。だから、納得がいかないなら俺が代わりに闘ってやると言っているんだ」
まだ納得のいかない大河は、賢也を更に睨み付けると、
「だったら、やってやるよ!俺が勝ったら、四候闘剣術の跡継ぎは俺と認めてもらうからな!」
賢也は剣十郎を見てから頷くと、
「お前が勝ったら、好きにするがいいさ。勝てたらな」
賢也は、優に目で合図を送り、剣十郎にかかった麻痺を解かせる。
「じゃあ、始めようか!」
賢也は、竹刀を持つと、剣十郎と同じように構えを取らず、ただ立っている。
「お前も俺を馬鹿にするのか!」
大河は、最初から覚醒すると賢也に向かって正面から突っ込む。
「死んでしまえ!氷牙突!」
覚醒した大河の突進は、剣十郎との闘いの比にならない位のスピードだった。更に氷牙突という奥義を使い、常人なら竹刀でも死んでしまう程の攻撃だった。
だが、大河の竹刀が賢也に当たる前に、賢也の体が揺らいだと思った時には、大河は床に倒れて、気絶をしていた。
10分程経った。大河は床から飛び起きる。
「何だ?何が起きた?」
状況が掴めない大河は、周りから冷たい視線を感じずにはいられなかった。
そんな大河にセンが話す。
「大河さん。あんたは賢也の攻撃を受けて気絶してたんだよ」
「何だと?」
「しかも、覚醒していない賢也の攻撃でだ。そんなあんたが師匠の跡を継ぐなんて誰も認めてくれないぜ。諦めなよ」
センの言葉を聞き、周りの視線が冷たい理由を大河は理解した。
「くそっ。分かったよ。諦めるよ!諦めれば良いんだろ!」
大河は、皆の後ろへと下がって行った。
「さて、他に納得出来ない人はいるかな?」
賢也が皆に尋ねるが、誰からも返事は帰って来なかった。
剣十郎が再び皆の前に立つ。
「本当にすまんな。この道場も閉める。寂しくなるが、皆帰り支度を頼むよ」
剣十郎が頭を下げると、
「今まで、稽古を付けて頂き、ありがとうございました。お世話になりました!」
それぞれが剣十郎に礼を言った。
こうして、四候闘剣術は四聖神冥流から派生して、この日に幕を引く事になる。だが、その技は、賢也達へと確かに伝わり、引き継がれていった。




