38.四候闘剣術門下生、覚醒へ
賢也は、自分の道場の前で待っていた。剣十郎の元へ修行と黒死竜討伐の仲間を探す為に向かうのだが、一緒に行く事にしたノッコと優がまだ集合場所である賢也の道場に現れないのだ。
「遅いなぁ」
「もう、女性の準備は色々あるんだから、慌てないの」
見送りに来ている綾乃が賢也に呆れた顔で見ている。
すると、1台のタクシーが道場の前に止まった。中から、ノッコと優が出て来た。
「ごめん。遅くなっちゃった」
「すみません。用意に時間が掛かりました」
タクシーから荷物を下ろしている優を見て、賢也が言った。
「優、服、着替えて。スカートはまずい…」
「え?スカート駄目ですか?」
「うん。見えちゃうから…」
「???」
優は賢也が何を言っているのか分からなかった。綾乃もノッコも首を傾げている。
タクシーが帰って行った後に、賢也は言った。
「師匠の所までどうやって行くと思ってる?」
「え、飛行機じゃないんですか?」
「うん。違う。乗り物は使わないよ」
「え、まさか歩くつもり!」
ノッコが驚いた。
「秋田まで歩く訳ないだろ…。空を飛ぶんだよ」
「いや、ですから、飛行機なんじゃ」
優は飛行機に乗らずどうやって飛ぶのかと首を傾げた。
「こういう事」
賢也が空を飛んで見せる。
「えー!」
「凄い!賢也さん、空を飛んでる!」
賢也は、静かに降りると、
「これで分かったかな。着替えてくれ」
「はい!すぐに」
優は道場に入り、ズボンに履き替えて来ると、
「よし、じゃあ出発だ。綾乃、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
綾乃に見送られ、3人は、空へと飛び上がって行った。
「本当に、空を飛んでる…」
ノッコは、空を飛んでいる自分が信じられなかった。ゲームの中でも、まだ空を飛ぶというものはやった事が無かった。噂では、鳥になって空を飛ぶというフルダイブのVRゲームもあるらしいが。
「まぁ、でも、気持ちが良いというより、怖いね。これは」
ノッコは隣で飛んでいる、優に話し掛ける。
「そうですね。少し怖いですね」
優もノッコに相槌を打つ。飛行機と違い、どんどん景色が過ぎ去っていく。このまま落ちたらと思うと、ゾッとしない。
賢也は、二人に声を掛けた。
「あと少しで着くから、もう少し我慢してくれ」
「はい。すみません」
優が申し訳なさそうに返事をする。ノッコも頷いた。
それから、暫く飛び続け、漸く剣十郎の道場のある山に辿り着いた。
「よし、着いたぞ。降りるよ」
3人は、道場の前へと降りると中へと入って行った。
道場の中では、20人程の弟子達が修行に励んでいた。弟子の中の一人が賢也達に気付く。
「あ、龍崎さん。師匠から話を聞いています」
賢也達に気付いた男が走ってきた。
「師匠は、今、皆さんの部屋を準備しに離れの方に行ってますよ。こちらです」
男は、離れに賢也達を案内した。
「離れとか有ったかな?」
「あ、俺達が寝泊まりする所が足らなくて、建ててくれたんです」
道場から少し離れた所に、それは建っていた。
「うわ、デカいな」
「100人位住めるように娘さんが建ててくれたそうですね」
娘さんが…。ああ、武闘会の賭けか。確か、お礼言われてたな。
下手なマンションより大きい建物を見ていると、
「女性の方は、一番上の階です」
男が案内をしていた時、剣十郎が建物から出て来た。
「来たか。丁度、お前達の部屋の用意が出来た所だ」
「師匠、またお世話になります」
賢也が礼をするとノッコと優も礼をする。
「宜しくお願いします」
「お世話になります」
剣十郎は頷くと、
「では、部屋に案内するから、付いてきなさい」
ふと、剣十郎が気が付く。
「?お前達、荷物は?」
「有りますよ。ここに」
賢也は、異空間の穴を出し、中から荷物を取り出した。
弟子が大声で驚く。
「えー!何ですか、それ!」
「お前、便利な力を身に付けたな」
「それより、案内お願いします」
剣十郎は、賢也達を連れて来た弟子に何か話すと、弟子は道場の方へ走って戻って行った。
賢也達は、それぞれの部屋に荷物を置くと、道場へと戻って行った。
「よし、昨日話したが、今日から3人修行を共にする仲間が増える。共に励むように」
「「はい!」」
弟子達は揃って返事をした。
3人は、簡単に自己紹介をすると、賢也は剣十郎に話を持ちかける。
「師匠、お願いというか提案があるんですが」
「何だ?」
「その前に、ノッコ、ちょっと」
賢也は、ノッコに力也をノッコの能力で見て欲しいと頼む。
「いいけど」
ノッコが力也を感知能力で調べると、
「あれ?怪物居ないよ。この人。力のイメージとしては、力持ち…。うーん。只の力持ちというか、かなりの力持ちかな」
「やっぱり。力也さんも覚醒者だったか」
そうとは思っていたが、ノッコに確認してもらって、はっきりした。
「えっと、今ここにいる人は、俺とこの二人、師匠、力也さんを除いて、皆、頭の中に怪物が潜んでいます」
賢也の話に弟子達がざわめき始めた。力也が賢也に聞き返す。
「どういう事だ?師匠や出雲は、中から怪物を追い出したから分かるが、俺はそんな事してないぞ」
「えぇ、力也さんは、自分でも気付かない内に頭の中の怪物を退治しているみたいなんですよ」
力也が、え?という顔をしている。やはり、無自覚だった。
「それで話を元に戻します。師匠が怪物化されたのも、怪物が頭の中にいるのが原因。これを怪物化する前に、今から全員、自分で頭の中の怪物を退治して欲しい」
賢也が話をした後に、センが賢也に尋ねた。
「賢也、話は分かった。だが、具体的にどうするんだ?」
「気を頭に流すんだ。頭の中に苦しむ声が直接響いて来るはず。操気術がまだ上手く使えない人は言ってくれ」
弟子達は、手を頭に当てると気を流し始めた。うーん。50人が手を頭に当てて力を集中している光景は中々、不気味だ…
「声なんか聞こえないぞ」
皆、頭に気を流すが、声がしないらしい。
「ノッコ、皆の頭の中に居るか感じるかい?」
ノッコは、集中すると弟子達を黒い霧が包み込んだ。
「これがノッコの力か」
弟子達は、何事だと騒いだが、霧はすぐに消えた。
「居るね。皆居るよ。私の力が強くなったのかな。今までよりはっきり感じる」
賢也は、ため息をついた。
「成る程。皆、まだ怪物を退治出来るだけの気が扱えないのか」
賢也は、手に気を集中させると、近くにいた弟子の元へ行くと、手を顔の前に翳す。
「え?」
「動かないで」
賢也が気を放出すると、
「うわぁ。本当に頭の中で、悲鳴が…。あ、止まった」
さてと、これ、全員しないといけないのか?
賢也が次の弟子に向かおうとすると、皆が賢也に待ったと言わんばかりに前に突き出した。
「おいおい。賢也、まだ早いぜ。皆、たぶん真剣じゃなかったんだろう。今から本気出すよ」
センが賢也に他の弟子達は自分でもう一度試すと言った。
「いや、本気でやってくれ…」
賢也は、センに呆れた顔で言った。その様子を見ていた剣十郎が全員に渇を入れた。
「お前達、ふざけるな!賢也は、お前達の事を思って言っているんだぞ」
「すみません。ふざけていた訳じゃないんですが、半信半疑で集中出来ていなかったんです」
「なら、早く始めなさい!」
「「はい!」」
皆、集中を始めた。もう一度気を流し始める。
「うぉっ!気持ち悪い。マジかよ!」
センも怪物にダメージを与えるだけの気を練れたようだ。結局、成功したのは、半分にも満たない15人だった。駄目だった弟子達は、賢也や他の成功した者に退治して貰った。
「これで、ここにいる全員が怪物化する事は無くなった訳だけど、もう一つ重要な事が」
剣十郎が賢也の話しに気付いた。
「そうか。怪物の秘めていた力を使えるようになるのか」
「はい。全員が能力を持ったかは分かりませんが、覚醒出来るはずです」
「覚醒?」
「怪物の力を使う状態を自分が覚醒と名付けたんです」
「そうか」
「これを使いこなせると、かなり戦いが変わりますね。師匠も出来るはずです」
「ふむ。だが、私は使わんよ。使う必要は無いからな」
「師匠ならそう言うだろうと思ってました」
「俺達3人は師匠の元で、基礎とこの覚醒の能力強化を修行します」
賢也は、剣十郎に修行方針を言うと、更に付け足した。
「そして、この門下生の中からも覚醒の力を鍛えて、共に黒死竜を討伐に行く仲間を募りたいと思っています。」
「ほぅ」
力也は、そう来たかとニヤリと笑った。
「それは、俺に言っているんだな」
「力也さんもです。他にも居ればもちろん助かります」
賢也は、他の弟子達にも強くなり、戦いに行けるレベルになって欲しいと思っていた。
何人かは、やってやるという意欲を感じる者もいた。
「とりあえず、今までの修行に覚醒の修行を増やすから希望者だけやるので、その時は声掛けて下さい」
センが手を挙げる。
「賢也先生、怪物の力って具体的にどんなの何ですか?」
質問して、ニヤッと笑う。
「先生って、お前…」
こいつ、わざとだな。
「前にも見せただろ。竹刀で木人を斬っただろ」
「あれは、気を使えば出来るだろ」
「ったく、こういうのだよ」
そう言うと、賢也は異空間の穴を出し、【銀狼】を取り出した。
「今のは異空間の力で収納していた【銀狼】を取り出した。俺は他にも使える能力があるけど、全員が複数持っているとは限らない。俺の本来の能力が吸収らしいから、俺は使える能力が増えるんだよ」
「いいなぁ。俺は何だろう」
センは自分の異能が何なのか気になるようだ。
「それは、後々。と、いうことで、3人、今日からよろしくお願いします!」
賢也は、再度、挨拶をすると修行を再開するように皆に告げた。




