25.特訓、ついでに地域に貢献
ハンター武闘会が終了し、賢也達は、家に帰っていた。
「色々あったけど、優勝出来て良かった」
「そうね。無事に帰って来れて良かったわ。お祝いに何か欲しいものとかある?」
「うーん。特に欲しいという物は無いけど、あったら良いなと思うのは、道場みたいな施設があるといいな。特訓とかに使いたいけど、公共の施設は迷惑かけちゃうし。家の中というのも、厳しいからな」
「そっか。なら、買う?」
「え?良いのか?そんな買うなんて言葉が出てくると思って無かったんだけど」
「今回の大会の収入が沢山あるから、大丈夫だよ。怪物騒ぎが無くなって、要らなくなってもレンタルとかしてもいいし」
賢也は、綾乃の太っ腹な答えに驚きながらも、買って貰えるなら助かると思った。
「じゃあ、お言葉に甘えて、買って貰おうかな。それにしても収入って、いくらあったんだ?」
優勝賞金は5000万だったが、賭けの収入は、綾乃に任せていたため、いくらあったのかは聞いていなかった。
「な・い・しょ」
綾乃は意地悪そうに微笑みながら答えた。
「貴方のお師匠さんの娘さんも、貴方にありがとうって言ってたわよ」
「お前達、どれだけ俺に賭けたんだよ…」
「とりあえず、物件探してみようよ」
賢也と綾乃は、ネットを使い特訓場として使えそうな物件を探してみた。
やはり、簡単には見つからない。
「うーん。やっぱり道場なんて売ってないよな。建てるなんて待っていられないし」
「待って。これなんてどう?」
綾乃が見つけたのは、剣道場付きの平屋の一戸建て物件だった。
「いや、家は要らないだろ」
「そっか」
「あ!あった。こんな近くにまさかあるなんて」
綾乃が見つけた物件を賢也に見せる。
「お、こんな都合良くあるなんて。そう言えば、荒んだ空手道場があったな」
綾乃が見つけたのは、車で20分程かかるが、空手道場の空き物件だった。貸し出し物件となっていたが、売買も可と記載されていた。
「よし、連絡してみよう」
賢也は、道場のオーナーに連絡を取る。
「すみません。龍崎と申します。空手道場について、お話があるのですが」
「ああ、借りたいのかい。いつでも貸すよ」
「いえ、買い取りたいんです。自分の特訓出来る場所が必要で。いかがでしょうか?」
「買い取りねぇ。貸し出しの方が、長く収入が入るからね。確かに売買も可とは、していたけど、お宅いくら出せるの?」
「いえ、逆に幾らなら売って頂けますか?」
「そうだな、ボロい道場だし、借り手も出て来ないから、5000万位かな」
「5000万!」
賢也は、こいつ足元見てるなと思ったが、隣で綾乃が、
「あら、5000万でいいの?買ったら」
「え?いいのか?」
「だって、優勝賞金と同じじゃない。いいわよ」
「すみません。では、5000万で買わせて貰えますか?」
「え、いいの?あんなボロ道場だけど。じゃあ、今度手続きするから、会えるかな?」
「はい。直ぐにでも欲しいので明日とか、いかがでしょうか」
「じゃあ、明日、道場に9時にいいかい?」
「分かりました。よろしくお願いします」
翌日、空手道場に賢也は向かった。既に道場のオーナーが待っていた。
「お待たせして、すみません。今日はよろしくお願いします」
「あぁ、あんたが龍崎さんかい?大丈夫。今来たところだから。ん?どこかで見た事があるような?」
「そうですか?初めてですよ」
「まあいいか。これが道場の権利書だ。これが、売買契約書。問題無かったらサインして」
賢也は、書類を受け取るとサインをした。
「じゃあ、代金ですけど、振り込みと現金とどちらがいいですか?」
「5000万を現金って、そんな大金を現金なんて、怖くて無理や。振り込みにしてくれ」
「じゃあ、今から銀行に一緒にいいですか?」
オーナーは、契約書を確認しながら、
「ああ、いいよ。うん、龍崎 賢也?」
オーナーが賢也の名前を見て、顔をまじまじと見る。
「あ!あんた、ハンター武闘会優勝した龍崎 賢也か!」
突然大きな声を上げる。表情は意気揚々としている。賢也に会えて嬉しいようだ。
「そうか。どこかで見た事があると思ったら、テレビか。いやぁ。この道場使って、特訓して、俺達を護ってくれるってことかい」
「そうですね」
オーナーの勢いに圧され気味に返事をする。
「そうか。そうか。よし、ならちょっと待て」
オーナーはそう言うと、車からペンと判子を取って来た。
「金額は、3000万でいいぞ」
「え?いいんですか?」
「ああ、その代わり、しっかり俺達を怪物から護ってくれ」
「それは、任せて下さい。その為の特訓ですから」
「よし、じゃあ、銀行に行こう!」
賢也達は、銀行に行き、代金を支払うと、所有者変更の手続きでその日は終わった。
「ありがとうございました。これで手続きは全部終わりですね」
「ああ。これであの道場はあんたの物だ。頑張ってくれよ」
「はい。では、ここで」
賢也は、道場の元オーナーと別れた。
「おかえりなさい。道場はどうだった?」
帰って来た綾乃が賢也に道場がどうなったか尋ねた。
「それが、購入者が俺だと知ったら3000万にまけてくれたよ」
「あら、良かったわね」
「ああ、早速明日から特訓と行きたい所だけど、荒れてたみたいだから、掃除、片付けが先かな」
「じゃあ、明日手伝うよ」
「ありがとう。頼むよ」
翌日、賢也達は、道場の中に入って驚く。
「外から見た時、荒れてるとは思ってたけど、これ程とは…」
道場の中は、裸足で歩いたら、切り傷が出来そうな位、畳は荒れ放題。窓もヒビが入っている所もある。良く見ると壁も穴が開いている所が数ヶ所。
「これじゃ借り手が出るわけ無いよな。やられた」
「中を確認しないで購入したから、しょうがないじゃない。とりあえず、修繕は、頼むとして、使えるように掃除はしようよ」
「そうだな。よし、始めよう!」
二人で2時間程、掃除をするととりあえずは使える状態になった。
「よし、後は窓にブラインドを付けて」
全ての窓にブラインドを付けて、外から見られ無いようにする。
「こんな所かな。ひとまずは。綾乃、ありがとう。お疲れさま」
「お疲れ。どうするの?」
「あぁ。早速、始めるよ。先に帰っていて良いよ。走って帰るから」
「分かったわ。じゃあね」
綾乃を先に帰らせると、早速、特訓を開始する。
「まずは、力の発動が【銀狼】とかを持っていなくても、いつでも発動出来るようにするのと、力を使い終わった後に気を失わないようにする所からだな」
賢也は、【銀狼】を手に取ると力を発動させる。
「この感覚を体に覚えさせるしかないよな。でも、力を抑えるのは上手く出来るんだ。発動も出来るようになるはず」
賢也は、自分に言い聞かせると、【銀狼】を手放し、発動させた力を解除した。仁王立ちすると、力の発動をイメージし、気合いを入れる。
「はっ!」
やはり発動しない。賢也は何度も繰り返し試すが、その日は結局一度も発動する事は無かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。道場の修繕、業者に頼んでおいたわよ」
「ありがとう。俺はさっぱりだったよ。師匠に相談してみようかな」
その時、賢也の電話が鳴った。
「お、凄いタイミングだ。師匠からだぞ」
賢也は、剣十郎からの電話に出るや否や、剣十郎の怒鳴り声が響いた。
「賢也!お前、誰に何を話したんだ!」
「し、師匠、どうしたんですか?」
「今日、家に入門したいという電話が鳴りっぱなしだぞ!」
「あぁ、大会の後、こっちに戻る前に、表彰式を個別に協会がしてくれて、その時のインタビューで、剣の流派を聞かれたので、答えたんですけど」
賢也が、剣十郎に答えていると、綾乃が横で、
「あ、それ、ネットにも上がってたし、ニュースでも言っていたよ」
「師匠、綾乃が言っていたの聞こえましたか?だそうです」
「やはり、お前が原因か!娘からは、入門者がいっぱい増えて良いじゃないと言われたが、興味本位の奴が習得出来る訳がないだろう。迷惑もいい所だ」
「すみません。でも、後継者探さないといけないから、丁度良いじゃないですか」
「だから、それはお前に継いで欲しいと前にも言ったはずだ」
「俺も継げないと言ったじゃないですか」
「むぅ。まぁいい。中には骨のある奴もいるかもしれんから、とりあえず来いとは言っているが」
「師匠、話しはそれだけですか?」
「そうだが。何かあるのか?」
「実は…」
賢也は、剣十郎に力の発動について、何かヒントにならないか相談してみた。
「ふむ。あの力か。あれはお前の気とは別の気を感じたからな。お前自身の気で発動させようというのが無理なのかもしれん。怪物の部位を使った武器、防具を通すと、気の質が変わり、発動するのかもしれぬ。私にも分からないから、想像の域に過ぎぬがな」
「いえ、ありがとうございました。では、お元気で。今度、いつか挨拶にお伺いします」
「ああ、お前も元気でな」
賢也は、剣十郎の一言、『お前の気とは別の気』が頭から離れなかった。
「やっぱり俺自身の気じゃないとなると、怪物の気が俺に宿った?」
賢也は何かを掴んだような気がした。とりあえず、明日また試そう。
翌日、道場の修繕について、業者が尋ねてやって来た。
「俺の師匠の道場は、板間だったんで、畳は剥がして、板間に変えて下さい。窓は防音の物に。壁も防音にお願いします」
「時間かかりますが、よろしいですか?」
「構わないです。工事している間も使ってもいいですか?」
「いいですよ。邪魔にならないようにはお願いします」
「はい。じゃあ、よろしくお願いします」
業者に修繕を依頼すると、早速、特訓を開始した。
「俺は今から怪物の力を使うんだ」
賢也は自分の中に眠る怪物の力を感じ取ろうと意識を集中する。自身の気を極限まで抑える。
「ふぅ」
目を閉じ、深く深呼吸する。怪物の力を意識して、気を練り始める。
すると、普段の自身の気とは違う異質な気を感じ取った。
「この力だ!」
賢也は、目を開き、気を一気に練り上げる。
ぶわっ!
賢也の体に力が溢れてくる。
「で、出来た。やったぞ」
賢也は、そのまま力を維持するように気を練り続けた。
「この感覚を覚えないと。やっぱり俺の中には、俺自身の気とは別の気が存在するんだな」
ただ、今のように時間が掛かっては、突然の襲撃には対応出来ない。まだまだ特訓が必要そうだ。
「でも、思ったより早く出来るようになったな。そうなると、道場の修繕を早くしてもらいたいな」
賢也は、家に帰ると道場の修繕について、綾乃に相談すると、
「業者さんに金額倍払っても良いから、早くしてもらったら」
と、賢也を驚かせる答えを言った。
「良いのか?倍ってかなりすると思うけど」
「金額は気にしないんだけど、早く道場が直って欲しいのは、こっちもだからね」
「どういうこと?」
「実は、道場を買ったのが、近所の人にバレたみたいで、地区長さんから、道場使って、希望者に護身術をあなたに教えて欲しいって、連絡が来て、断れなくて。ごめんなさい。受けちゃった」
「そういうことか。地区長さんには、お世話になってるしな。まぁ、護身術程度ならいいよ」
「ありがとう。そういう所、大好きよ」
賢也は、照れながら話した。
「じゃあ、明日業者に相談してみよう」
「お願いね」
翌日、業者に相談すると、
「無茶言わないで下さい。時間かかるって、言ったじゃないですか」
「そこを何とか。支払いは倍でも構いません」
「え、倍。ちょっと上と相談させて下さい」
業者は、上司と相談してくると、
「倍出して貰えるなら、うちの社員全員であたらせて貰います。1週間で仕上げさせて貰うという事でよろしいですか」
「1週間なら。それでお願いします」
賢也は、道場が完成するまでの間は、家で発動の特訓を続けていた。
そして、1週間後、
「龍崎さん、道場の修繕終わりました」
業者からの連絡が入る。
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
道場の修繕が終了し、綾乃は地区長に連絡をすると、
「今、希望があるのは、全部で10人位だって」
「まぁ、それくらいならあの道場でも大丈夫かな。お前達も一緒にやってみる?」
「うん。じゃあ、お願い。明日から始めて欲しいって、言ってたよ」
「分かった。じゃあ、今日は一人で特訓してくるよ」
賢也は、一人で道場に向かうと、早速、特訓を開始した。
翌日、道場に護身術を学びたいという地域の住民達がやって来た。10人という話しだったが、15人程やって来た。
「すまないね。ちょっと人数が増えてしまって」
地区長さんが謝る。
「まあ、大丈夫ですよ。じゃあ、始める前にこれだけは言っておきます。今から教えるのは、あくまでも身を護るための基礎的なものです。間違っても、自分から怪物に向かっていく事は、絶対にしないように」
賢也は、全員に釘を刺すと、稽古を始めた。
「まず、皆さんにはこれをやって貰います」
賢也はそう言うと、その場に座り座禅を組んだ。
「これは三調(調身、調息、調心)と言って、気を練り、操るための基礎です。これが出来るのと出来ないのでは、身を護る上で大きな差が出ますよ」
賢也は、手本を見せる。深呼吸をし、気を練り始める。
「上手く気を練り上げられたら、お腹の辺りが熱く感じると思います。上手く練れるようになったら次に進みますよ。じゃあ、始めて下さい。皆さんが三調をしている間は、自分の特訓をするので、うるさいかもしれませんけど、気にしないで下さい。あと、この線からこっちには来ないで下さい。入ったら死にますよ」
稽古に来た住民達は、大人しく三調を始めた。それを見届けた賢也は、自分の特訓に移る。この1週間、力の発動の特訓をしたおかげで、スムーズに発動出来るようになっていた。
「よし。じゃあ、次だ」
賢也が構えを取ると、賢也がもう一人増えた。そして、道場の端に分かれると互いに竹刀を持ち、構えを取る。次の瞬間、二人の賢也は、竹刀で斬り結ぶ。剣がぶつかり合う度、物凄く大きな音が鳴り響く。
「よし、思った通りだ。あの竜が言っていた鋼の力か。竹刀が壊れないなら、【銀狼】なんかも問題なく使えそうだな」
三調をしている中に、輝の友達が居た。その子が輝に、
「輝くん、輝くんのパパ、凄いね!」
「そうでしょ!パパは凄いんだぞ。僕もパパみたいに強くなるんだ」
「僕も負けないぞ!」
子供達のやり取りを見て周りの大人も真剣にやり始めた。
1時間程経つと賢也の分身が霧散する。
「ふぅ。今の俺だとこれが限界か」
賢也は、自分の特訓が終わると、住民達の様子を確認すると、流石に誰も上手く気を練る事は出来ていなかった。
「毎日この三調は続けて下さい。上手く気を練り、操作出来るようになれば、それだけでかなり身を護れるようになるので」
賢也の言葉に男性が質問する。
「気を操れるようになったら、今の龍崎さんみたいに動けるようになるのかい?」
「鍛えれば、動けるようになると思いますよ」
別の男性が質問する。
「さっき龍崎さんが二人になったけど、それも気で出来るのかい?」
「ああ、影分身ですね。あれは忍術です。大会が終わった後に、ハンターランキング2位の出雲さんに教わったんです」
「忍術!凄いな」
「忍術も基本は、気を使ったものらしくて、習ったら使えたんですよ。さてと、今日はこれで終わりです。お疲れ様でした」
住民達は、ただ座って深呼吸をしただけで、本当に身を護れるのか心配になったが、賢也を信用し、皆、帰宅していった。
「ねぇ、あんなので本当に大丈夫なの?皆さん、ちょっと不安そうだったよ」
綾乃が賢也に問いかける。
「まだ、皆、気をしっかり練れるようになってないから、しょうがないよ。まぁ、出来るようになったら驚くだろうね。これが本当に自分なのか?って」
「そこまで言うなら、もう何も言わないわ」
「ああ、大丈夫。心配するなよ」
賢也達も道場の掃除をすると、帰宅した。
次の稽古の日、賢也は同じように全員に三調をさせ、自分の特訓をする。影分身が霧散すると、自分の特訓を止め、様子を見る。すると、輝の友達である大智君が一番に気を練りあげていた。
「おや、大智君。上手く気が練れてるじゃないか。その調子だよ」
声をかけると大智君が喜んだ。
「やった。このお腹がポカポカする感じがそうなの?」
「そうだよ。その感じを続けるんだ」
これを聞いた輝や大人達が反応する。
「大智くんに負けるもんか」
「子供に出来て、大人が出来ないなんて。頑張らないと」
大智君のおかげで、皆にやる気が生まれ、ますます真剣に取り組むようになった。
「この調子なら、あと1週間もすれば、皆、気を練れるようになるかな」
賢也は、大智君に感謝し、自分も力の使い方を習得しないとなとやる気が出て来たのだった。
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