24.ハンター武闘会 決勝、そして、
賢也は次元との戦いの翌日、疲労感が全く抜けないままだった。
「まずいな。疲れが取れないぞ。体も重たい…」
次の日には、決勝が控えているのに、こんな状態じゃ満足に戦えない。
「おはよう。どうしたの?浮かない顔してるけど」
綾乃が目を覚ました賢也に声を掛ける。
「ああ、何だか疲れが取れないんだ。体も重たいし。明日が大丈夫かなって、心配になったのさ」
筋肉痛では無い。風邪を引いたわけでもない。
「体が怠いなら、今日は1日、部屋でゆっくり休んだ方がいいね。因みに、熱とか無いの?」
体に熱っぽいという感じはなかったが、一応、熱を測ってみる。
ピピピ…
体温計を見て、賢也は驚いた。
「えっ!嘘だろ!」
賢也の驚いた声に綾乃が、驚く。
「どうしたの?」
「いや、これ。壊れてるんじゃないか?」
賢也は、綾乃に体温計を見せた。
「は?何これ!貴方、大丈夫なの!?」
体温計を見てビックリした。何と体温が45度もある。人は体温が42度以上あると、死の危険がある。ましてや、45度となると、数時間で死んでしまう可能性があるのだ。
「ちょっと。本当に大丈夫?」
綾乃が賢也のおでこを触ってみる。
「熱っ!」
本当に賢也の体は熱かった。
「うーん。別に体が重たくて、疲れてるって位だけなんだけど」
「それ、熱があるからじやないの。直ぐに冷やさないと」
綾乃は、ルームサービスに氷をありったけ持ってくるように頼んだ。
「昨日の戦いの影響かな。やっぱり」
ルームサービスが氷を持ってきた。
「こんなに大量の氷どうするんですか?」
不思議に思ったホテルの従業員が尋ねた。
「主の熱を冷ますの」
綾乃はバスタブに水を貯めると、持ってきた氷を全部入れた。
「ほら、早く入って!」
賢也は、氷水の風呂に無理やり入れられた。
「冷たっ」
だが、賢也が入るとみるみる氷が溶けていく。
「ありゃ、もう温くなって来たぞ」
「それは、そうでしょ。貴方、45度も熱があるのよ」
「45度!」
氷を運んでいるホテルの従業員が驚きの声を上げる。
「そうなの。だから、もっと氷を持ってきて」
「わ、分かりました。すぐに持ってきます」
従業員は、礼をすると急いで部屋を出ていった。
「うーん。熱が下がっていく感じはしないな」
賢也は、氷水の風呂の中で、調身、調息を行う。
「うん?何か変な感じだな」
気の流れを整えてみるが、うまく調整が出来ない。
(これか。熱の原因は)
賢也は、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。これを繰り返す。そして、全身に気を巡らせていく。少しずつだが、気の流れが改善されていく。
「次の氷が来たわ」
綾乃がまた風呂の中に氷を大量に入れる。丁度その時、子供達が起きてきた。
「あ、パパだけ氷で遊んでる。ズルい!」
「今、パパはお熱が凄いの。このままじゃ死んじゃうかもしれないから、あなた達も氷を入れるのを手伝って」
「パパ死んじゃうの?」
「嫌でしょ。たから、早く手伝ってちょうだい」
3人で、どんどん氷を入れてくる。また、水が冷たくなった。
「冷たい!」
気を調整していた賢也が余りの冷たさに叫ぶ。
「ストップ!氷入れるの、ストップ!」
賢也は、3人に氷を入れるのを止めさせた。
「体温計持ってきて。もう大丈夫な気がする」
綾乃はそんなに直ぐに下がる訳が無いと思いながらも、体温計を持ってきた。
「はい。体温計」
綾乃から体温計を受け取ると測ってみる。
ピピピ…
賢也は、体温計の結果を見ると、綾乃に見せた。
「ほらな」
綾乃は、体温計見て驚く。
「え、36度6分って、平熱じゃない。どういう事?」
賢也のおでこを触ると、さっきまでの熱が嘘のように引いていた。
「やっぱり、昨日の戦いが原因だったみたい。力の使い過ぎで、気の流れが狂っていたんだ。さっき、時間を掛けて、気の流れを良くしたから、熱も下がったんだろうな。疲労感はまだ抜けないけど、体が重たく感じるのは無くなったよ」
「気の力って凄いのね。私も健康のために教わろうかしら」
「そうだな。俺がいつもやっている三調(調身、調息、調心)は、健康のためにはいいかもね」
「さんちょう?」
聞き慣れない言葉に聞き返す。
「今度、ゆっくり教えるよ」
あとは、疲労回復か。こればっかりは、ゆっくり休むしかないか。
「よし、今日はホテルから出ないで、ゆっくり休むぞ」
賢也は、1日ゆっくり休む事にした。テレビを点ければ昨日の賢也の戦いと人型の怪物出現の話題ばかりだった。
「昨日から何もニュースが変わらないな。俺がインタビューとか断っているのもあるか」
ゆっくり休むと決めた賢也は、ホテルの部屋でじっとしていた。綾乃や子供達は出掛けていた。
「暇だな。それにしても昨日のあの力は本当に何だったんだろう?今はあの力は感じられない。どうすれば発動するのか?それにあの炎や見えない剣?あれも安定して使いこなせないとな」
賢也はあの時の状況を思い出そうと努めていた。実際、必死だった為、いつ、何を、どうしたがはっきりと覚えていないのだ。
「うーん。頭の中で声がしたのが、きっかけだよな。絶対。でも、あれは彼奴等のウイルスの声だよな。今はもうしないから、多分、退治したんだよなぁ」
乗っ取られないように、頭に気を流したんだよな。あれが力の発動のきっかけになったのか?
「試してみるか」
両手で頭を挟み、気を流してみる。何も起きない。力が湧くような感じはしない。
「そんなに簡単なものじゃないか」
どうすればいいのか?更にあの時の事を思い出してみる。
「そうだな。後は死にたくないと心の底から思ったことか。でもこんなのが鍵になるとは思えないな。誰でも力が発動してしまうし」
賢也は、ひとまず心の底から、力が欲しい、発動して欲しいと願ってみたが、予想通り何も起きなかった。
「うーん。後は戦闘中だった位か」
賢也は、怪物との戦いをイメージしながら、力の発動をイメージしてみるが、これもダメだった。
「後は、何があるかな?そうだ、関係はないだろうけど、剣を持っていたか」
砕けてしまった【銀狼】は無いが、代わりに【紅蓮】を手にして、力の解放を試してみる。
すると、あの時と同じ強大な力が湧くのを感じる。
「出来たぞ。剣を持つと出来るのか?」
試しに、新しく支給してもらった模擬刀に持ち変えてみる。
今度は出来ない。武器ではないが、部屋にあった果物ナイフで試す。これも出来ない。次に剣ではなく、籠手を付けて試してみる。力が湧くのを感じる。
「怪物の部位から作った武器、防具を装備すると出来るのか?」
最後に小太刀でも試してみたが、発動に成功した。
やはり、頭の中にいたウイルスを退治した時に、怪物の力を賢也が使えるようになり、力を解放するには、同じ怪物の力が込められている武器や防具がスイッチとして必要なのであろう。
「使いこなせるようになったら、武器や防具無しでも発動出来るようになるかな?」
それにしても発動すると、物凄い力だ。だが、怪物の出す邪悪な感じは無い。
「とりあえず、力を抑えておくか」
籠手を外し、力を抑えてベッドに倒れ込む。
「ふう、体力はかなり持っていかれるな。いざという時だけか。今のままだと」
賢也は、そのまま寝てしまった。
賢也が目を覚ますと綾乃達が部屋に帰って来ていた。
「あ、起きた。ママ、パパ起きたよ」
さくらが綾乃に賢也が起きた事を伝える。
「よく寝てたね。もう夜よ。私達はもう食事して来ちゃった」
賢也は時計を見て驚いた。もう20時だ。あの力を試したせいか、すっかり眠ってしまっていたみたいだ。
「もうこんな時間なのか。夕飯食べて、体を軽く動かしたら、寝るか」
賢也は、ルームサービスで食事を取ると、ホテル内にあるジムで軽く汗を流し、部屋に戻った。もう、子供達は寝ていた。
「もう寝たのか」
「ええ。さっきまでパパを待つって起きてたんだけどね」
賢也は、子供達の頭を撫でると、ベッドに入った。
「あ、そういえば小太刀と籠手の名前考えないと」
賢也は、新しい武器、防具の名前を考えている内に眠りについた。
翌日、いよいよハンター武闘会の決勝当日となった。
「よし、行ってくるよ」
「頑張ってね」
「パパ、優勝だよ」
「任せとけ」
家族の応援を受け、賢也は、武闘会場へと入っていった。
「色々とありましたが、いよいよ決勝となります。まずは、圧倒的な強さで勝ち上がった出雲選手です。オッズは2.2倍。そして、初の人型の怪物を見事に討伐した龍崎選手です。オッズは1.8倍です」
進行役の紹介が終わる。オッズとしては、ランキング2位は伊達じゃなかった。賢也の怪物退治を目の当たりにしても出雲と龍崎のオッズの差はほとんどなかった。
「人型の怪物を倒せる程の実力だ。お前の方が強いのかもな。だが、ランキング2位の意地って奴を見せてやるから、覚悟しろよ」
「こちらこそ負けませんよ」
出雲は、賢也の方が格上というのを認めているようだ。相手が格上だと認めるのは容易くない。自分の方が強いとやはり思ってしまうものである。だが、出雲はそれを認めた。やはり、出雲もかなりの実力者なのであろう。賢也は気を引き締め直した。
「ハンター武闘会決勝戦、始め!」
合図と同時にお互いに前へ出る。二人の剣がぶつかり合う。
次の攻撃をするため、賢也は一歩後退すると、出雲も同じように後退する。二人の攻撃のタイミングが全く同じで、再び剣と剣がぶつかり合った。更に追撃しようとするが、ことごとくタイミングがかち合い、剣と剣がぶつかり合うだけだった。
「なんだ。こうも攻撃が噛み合うとは」
出雲は不思議に思い、声に出す。賢也も同じ事を考えていた。
「噛み合い過ぎですね。これじゃあ埒が明かない」
二人共後退し距離を取る。
「ふ。この距離を取るタイミングまで同じとは」
出雲は楽しそうに微笑んでいた。
「ここからは、噛み合うことは無いですよ」
賢也が構える。
「それは、こっちのセリフさ」
出雲は、左手を腰の後ろに回した。
「いくぞ!」
掛け声と同時に出雲は左手を前に出すと、何かを投げて来た。賢也は、それを剣で弾く。
それは、短刀型の模擬刀だった。
出雲は、賢也が短刀を弾き返している間に、間合いを詰め、下から斬り上げていた。賢也はこれを体を捩り躱す。出雲は、躱された剣を袈裟斬りに切り替え、追撃してくる。賢也は、捩った体のまま横に飛び出し、これをまた躱す。
「あの状態でこれを躱すのかよ」
「出雲さんこそ、投擲した後のスピードが人並みはずれていましたよ。次はこっちの番です」
賢也は、言うや否や剣を振りかざす。
「飛燕!」
さっきの出雲のように、飛燕を放つと出雲に向かって走る。出雲は、賢也の動きに合わせガードしようとしたところに飛燕が命中する。
「何だ!?」
飛燕により体勢が崩れたところに賢也が現れる。
「はっ!」
賢也は、横に薙いだ。体勢を崩していた出雲は、何とか剣で受けるが後ろに飛ばされた。
「今のは焦ったぞ。飛燕というのは、遠距離攻撃か。見えないというのも厄介だな」
出雲は起き上がり、体勢を整えた。
「じゃあ、ここからは、出し惜しみは無しだ」
出雲は、何か印を組んでいく。
「行くぞ。風迅!」
出雲の体の周りを風が包み込む。そのまま賢也に向かって突進しながら、新たに印を組み上げて、飛び上がった。
「分身の術!」
出雲の姿が8人に増えた。
「忍者なのか!」
驚くことに、8人全てに気配を感じる。どれが本体なのかが分からない。
「本体が分からないなら、全ての攻撃を躱し、全員斬るだけだ!」
賢也は、次から次に襲いか掛かって来る出雲の攻撃を躱しては、反撃しカウンターを当てる。分身が賢也の攻撃で次々に消えていく。最後の1人になった。
「これが本体か!」
最後の1人を攻撃すると、最後の1人も消えた。
「何!全て分身だと」
本体は、何処に?その時、賢也の頭上から声が聞こえて来る。
「喰らえ。雷迅!」
出雲の雷迅の術が、賢也に直撃する。
「うわぁ」
体が痺れ、動きが止まる。
「もらったぁ!」
出雲が動けなくなった賢也に追撃をする。出雲の袈裟斬りをまともに賢也は受け、倒れこんだ。
「くっ。痺れが取れない」
「俺の雷迅の術を受け、斬られても、まだ意識があるのか。タフだな。でも、痺れて動けないだろう。勝ったな」
賢也のダウンにカウントが始まる。
「1、2、3…」
体の痺れが薄らいできた。指を動かしてみる。よし、動く。
「7、8」
賢也は、カウント8で立ち上がった。
「はぁ、はぁ、今のは、やばかった」
「あれで終わらないとは。タフだな」
2人が同時に構えを取る。出雲が動くよりも早く、賢也が動く。賢也は、出雲の背後に回ると、上段斬りを繰り出す。出雲は、前転しこれを躱すが、賢也は、飛燕を放っており、直撃した。前転の勢いもあり、転がっていく。
「くそ、飛燕か。厄介な技だな」
出雲は、起き上がると既に賢也が目の前に立っていた。
「さっきのお返しだ!弧月!」
出雲は、剣で受けようとするが、弧月の勢いを殺せず、諸に受けた。
「かはっ」
出雲は痛みに耐えきれず、膝をつく。
「くっ。さすがに直撃は、きついな。だが、まだだ」
出雲は立ち上がると印を組み始めた。
「活殺」
出雲のダメージが癒される。更に、印を組むスピードが早くなる。
「剛力。瞬脚。風迅。雷迅。火球!」
出雲の指先から、火の球が放たれる。
「危ない」
賢也は、これを躱す。躱した賢也の目の前に出雲が現れる。今までとは比較にならない程のスピードだ。模擬刀には、雷迅の術による雷を纏っている。少しでも触れれば、さっきのように痺れて動けなくなってしまうだろう。出雲が賢也の視界から消える。賢也は、出雲の気配を探ると、
「上か!」
出雲は、賢也の頭上を移動している。風迅の術で、空中を瞬間的に移動可能にしていた。
「喰らえ」
賢也は、出雲の攻撃を躱す余裕がなく、仕方なく剣で受ける。
バチッ!
雷が賢也に届く前に、賢也は後退したが、剣を受けた手が痺れていた。
「力も上がっているのか。普通に手が痺れてる」
「俺の剛力を受けて手が痺れるだけとは。雷迅も届く前に逃げるとは」
出雲が悔しそうな顔をしている。賢也は痺れた右手を開いたり握ったりし、痺れが取れたのを確認すると、
「よし!」
掛け声と共に出雲に向かって走り出す。出雲は、向かって来る賢也を迎え討つために構えを取る。
ガチッ!
物凄い音を立てて、二人の剣がぶつかり合う。次の攻撃をしようと振り上げた瞬間、二人の剣が砕けてしまった。
「そんな」
二人の力が強すぎ、衝撃に耐えられなかったのだ。
「武器が無くなったなら、俺の方が有利だな」
出雲は、印を組み始める。
「そんな事は無いさ。剣が無くても」
賢也は、出雲の腹を殴る。
「ぐぅっ」
出雲は、印を組むのを止めて、腹を抱えた。
「このバカ力が」
「別にバカ力という訳じゃないですよ。あなたの忍術での強化みたいなものです」
賢也は出雲の顎を打つ。
「しまった…」
出雲は、賢也の一撃で脳を揺さぶられてしまいダウンした。
「出雲選手、ダウン。1、2、3…」
カウントダウンが始まった。
「…7」
カウント7で出雲がピクッと動く。
「8、9」
出雲は必死に起き上がろうとするが、力が入らない。
「10!」
ついに、10カウントが数え終わった。
「勝者、龍崎選手!」
「「「「「ワー!」」」」」
決勝の勝敗がつき、大歓声が上がる。
「では、この後、表彰式を始めたいと思います。準備が終わるまで、暫くお待ち…」
「危ない!」
賢也が、司会者を押し飛ばす。
バシッ
司会者の立っていた場所を黒い触手が叩きつける。
「う、うわぁ!」
慌てて司会者は逃げ出した。
「出雲さん、立てますか?」
「あぁ、何とかな」
出雲がゆっくりと起き上がる。黒い触手の先を見ると、昨日姿を見せた女が立っていた。
「まずいですね」
「そうだな。このタイミングで来るとは。素手でいけるか?」
「人相手ならまだ大丈夫ですけど、あれ相手は厳しいです。さすがに」
「なら、武器を届けて貰うまでの時間稼ぎは任せろ。お前は、すぐに受け取りに向かえ」
出雲は、印を組むと、短刀型の模擬刀を腰から取り出し、
「爆符、雷迅。行け!」
出雲の合図と共に、武器を受け取りに観客席へ走り出す。出雲は、女の方に走り出す。触手が二人に向かって伸びてくる。二人共躱しながら進む。出雲は、女の5m程手前まで近付くと、短刀を投げつけた。女に気にも留めず、短刀が命中する。命中した短刀は、爆発し、四方に放電がバチバチと発生している。触手の勢いが一瞬止まる。賢也は、その一瞬を逃さず、綾乃の元に飛び込んだ。
「綾乃!」
「はい。これ」
賢也は、武器を受け取るとすぐに武闘場に戻った。
「お待たせしました。出雲さん」
「大丈夫だ。俺も取りに行ってくる。任せていいな」
「ええ。任せて下さい。っと!」
触手が襲ってきた。二人は躱し、出雲は武器を取りに、賢也は女に向かって走り出した。
「この間の感じだと、あれは触れると一発で終わりな気がする」
剣で斬って大丈夫なのかも怪しい。避けるしかない。賢也に向かって触手が伸びてくる。賢也は舐められているのか、この間は無数にあった触手が1本だけだったため、容易く避けることは出来た。
「やはり、簡単にはいかないか」
女が呟く声が聞こえた。賢也は、【紅蓮】を抜くと斬りかかった。パシッ。女は簡単に指2本で、剣先を掴む。掴まれた剣先はびくともしない。下手に力を入れると折れてしまいそうだった。
「くそっ」
何とか折れないように動かそうとしていた時、女は指を離した。見ると、出雲が苦無を投げていたのだ。賢也はすぐに離れる。女は、苦無を指で掴んだ。
「何なんだ?こいつは?」
出雲は、苦無を更に連続で投げつけた。全て、女は、指で掴む。掴んだ苦無を地面に捨てると触手を出してきた。今度は2本だ。1本ずつの触手が二人を襲う。出雲は、投げようとしていた苦無で触手を斬りつけた。
ジュワッ
「危ない!」
慌てて、苦無を手放し、触手から逃げる。苦無は、触手に触れて溶けてしまった。
「やっぱり触手は触れるだけで、即退場になるのか」
唯一の救いは、大量の触手を出してこない事だ。だが、こちらの攻撃も簡単にあしらわれてしまう。
「出雲さん、何か考えありますか?」
「いや、無い。前に放った爆符で無傷だったからな。剣で斬ろうにも、あんな簡単に剣を指で捉えるんだ。無理だろうな」
賢也は、力の制御が上手くいかないあの力を解放するしかないのかと考えていた。
「お前の方こそ、この前人型を倒した時の力は使わないのか?出し惜しみしてる場合じゃないだろう?」
「まだ、あの力は上手く使えないんですよ。でも、やるしかないか」
賢也は、【紅蓮】を鞘にしまうと、あの力を解放した。
「何で剣を納めたんだ?」
「この力は強すぎて、剣が砕けてしまうんです。じゃあ、行ってきます!援護、お願いしますよ」
賢也は、そう言うと女に向かって走り出す。出雲は、苦無を女に向けて投げつけた。
「無駄なことを」
女は、苦無を掴むと、向かって来る賢也に投げ返した。賢也は、横に飛んで躱し、そのまま女の目の前に突っ込む。
「喰らえ!」
女の顔を思いっきり殴る。
「効かぬよ」
女はびくともせず、反撃してきた。賢也は腕でガードする。
「?」
賢也も大したダメージは無かった。
「ちっ。力が足らぬか」
そう呟くと、触手を伸ばす。賢也は、触手に触れないように、素早く女の背後に回ると、蹴りを繰り出した。女が吹き飛び、触手が消える。
「あれ、何で吹っ飛ぶんだ?」
女は、地面を転がり起き上がる。
「お前、力にばらつきがあるな。そうか、まだ使いこなせてないのか。今の内に取り込まないと、面倒な事になるな」
どうやら、賢也は攻撃する際の力も不安定で、ダメージが通る時と通らない時があるようだ。
「不安定なら、手数を増やすだけだ」
賢也は女の元に突っ込むと、連打する。さすがに、女もいつダメージの入る攻撃が来るか分からないため、ガードをするしかなかった。賢也の攻撃の一撃が、顔面に入る。殴られた女の顔が一瞬、二重に見えた。
「何だ。今の手応えは。顔もぶれて二重に見えた気がしたけど」
「ぐぅ。今のは、まさかな」
賢也は構わず、連打を続ける。さっきの感触の攻撃が増えてきた。女も堪らず、距離を取ろうと反撃をしてきた。
「いい加減にしろ!」
その攻撃に合わせ、カウンターを当てる。
「グガァ!」
これ迄に無い渾身の一撃が顔面に当たった時、女の後頭部から、竜のような頭が飛び出した。それは、直ぐに女の頭の中に戻っていった。
「い、今のは何だ。ドラゴン?何で頭から出てきたんだ?」
賢也だけではなく、会場にいた全員がしっかりと見ていた。
「貴様!よくも、よくも!」
女は顔に手を当てながら、怒りを露にしていた。
「まだ、力は万全ではないが。私の姿を見たのだ。容赦しない」
女はそう言うと、四つん這いになった。
「お前を殺して、その体を使ってやる!」
女の体が黒い霧に包まれた。その中から、何かが出てくる。
「あれは、翼か?」
そして、バサァッと出て来た翼が羽ばたくと、黒い霧が晴れ、女は倒れていた。そして、そこには一匹の黒い竜が立っていた。
「まだ完全体に成長していない。このままでは、1時間もせず、体が朽ち果ててしまう。その前に貴様の体に宿り、生き延びてくれる!」
竜が叫んだ。あれが、怪物の正体か。あれが体の中で成長し、宿主を怪物化させているのか。
「お前が黒死竜なのか?」
「ははは。私は、主の分身体よ。姿は似ているかも知れぬがな」
竜は、賢也に向かって突進してきた。賢也は体当たりを受けて吹き飛び、壁に激突した。
「かはっ」
そこに更に竜が突進してきて、竜と壁に挟まれ、賢也は血を吐く。
「ほう。我らと同じ力があるのに、血は人間と変わらないな。どうやら、お前は、人のまま我らの同胞の力をその身に宿したのだな。だから、力を操れないでいるのか」
竜は、手で賢也の頭を掴み持ち上げた。
「ふむ。既に、爪、炎、雷、異空間、重力、鋼の力を宿しているのか。素晴らしい。だが、どうやって宿した?お前は我らを食ったのか?」
「俺がお前らを食ったりすると思うのか?」
賢也は、何とか答える。
(こいつが言った力が本当に使えるのか?)
だが、今思えば、次元と戦った時、炎が拳に宿った。あの見えない剣が爪なのだとしたら、力が宿っているというのも納得出来る。あとは、雷、異空間、重力?ピンとこないが、使えるのなら、この状況を何とか出来ないか。
賢也は、手から出雲の雷迅を放つイメージを浮かべる。雷の力があるなら頼む。賢也の手からバチバチッと雷が発生する。
「何!こいつ」
「喰らえ!」
バチッ!竜の左目に雷が命中する。
「ギャァー」
賢也を掴んでいた手が離れる。賢也は、地面に降りると今度は、爪をイメージする。次元と戦っていた時と同じ拳の先に力を感じる。
「いけ!」
竜の腕目掛け、拳を振ると、右腕を斬り飛ばした。
「ガァーッ!」
竜が叫び声を上げる。
「許さん。許さん!絶対に許さんぞ!」
竜の左手の爪が伸びる。
「切り刻んで、喰ってやる。その後でお前の家族の体を乗っ取り、使い倒してやる」
竜は賢也に向かって、左腕を振り下ろす。賢也は躱すと反撃で腹を殴る。しかし、力が不発で竜には効かなかった。
「くそ!こんな時に」
竜が爪を賢也に突き刺そうと、突いて来た。
(間に合わない!)
賢也の体に届く直前に、竜の腕が爆発する。そして、賢也の体を風が包み込むと、賢也は竜から離された。
「危なかったな」
竜から離れた賢也の元に出雲がやって来た。
「今のは、出雲さんですか」
「ああ。爆符の術で気を逸らした隙に、風遁の術で離したんだ。俺にはこれ位の事しか出来ないからな」
「いえ、そんな事無いです。助かりました」
竜が賢也達に向かって来る。
「今度こそ、止めを刺す!」
賢也は、次元を倒した時の、拳が炎に包まれるイメージを浮かべた。
「頼む。炎よ!」
賢也の拳に炎が灯る。
「よし!」
既に竜は目の前まで来ていた。爪を突き付けて来ている。出雲は、横に飛び出し避け、賢也は、突きを躱すと、腹を思いっきり殴り付けた。
「ギャアー!」
竜の悲鳴が轟く。賢也の拳は、竜の腹を貫いていた。そして、竜の腹を炎が焼き始めた。
「そんな。あいつと同じようにやられるだと…」
竜の全身が炎に包まれる。
「貴様は、これから我らに狙われる事になるだろう。中途半端な力を手にした事を後悔するといい…」
竜はそう言うと消滅した。
「すげぇー」「やったー」
大歓声が沸き上がる。
「やったな」
「な、何とかなって本当に良かったですよ…」
賢也は力を使い過ぎ、息を切らしていた。
「そうだ。あれが出ていった女性は?」
倒れている女性の元に二人は向かう。女性の手を取り、脈を測ると、まだ生きていた。
「おい、救護班、急げ!彼女、生きているぞ!」
出雲が叫んだ。その叫び声を聞いた所で、賢也も気を失ってしまった。
賢也が目を覚ますと、そこは医務室のベッドの上だった。
「デジャブだな」
賢也は苦笑いしながら、起き上がった。
ふと、隣を見るとカーテンが引いてあった。
賢也は起き上がり、カーテンの中をチラッと見てみると、怪物が出ていった女性が眠っていた。
「彼女もここに運ばれたのか」
賢也は、そのまま医務室から出ていった。ドアの閉まる音で女性は目を覚ますのだった。
「また、心配かけたね」
賢也は、医務室の前にいた綾乃達に声を掛けた。
「起きたのね。2回目だったから、前よりは心配してなかったわよ。でも、無事で良かったわ」
「あの後は、どうなったんだい?」
「優勝者不在の表彰式で、俺がいい迷惑だったよ」
出雲が冗談を言いながら、やって来た。
「出雲さん、すみません。表彰式やったんですね」
「ああ、お前が目を覚まさなかったから、ギリギリまで待っていたんだがな。お偉いさんや観客の都合もあって、仕方なくな」
「そうですか。本当にすみません」
「謝る必要は無いさ。お前があの竜を退治しなければ、ここにいた全員が死んでいただろうからな。まあ、後でお前だけ個別に表彰されるだろうさ」
その時、賢也の後ろのドアが開いた。
「すみません。ここは何処ですか?私は、何でこんな所にいるんでしょうか?」
「あ、目が覚めたんですね。体の調子はどうですか?」
目を覚ました女性に綾乃が声を掛けた。
「何だか全身痛いんですけど。大丈夫です」
「それは、すみません。俺のせいですね。きっと」
賢也が謝る。
「何がですか?」
賢也達は、女性にこれまでの説明をした。説明を聞いた女性は、深々と頭を下げて、賢也に礼をした。
「本当にありがとうございました。貴方がいなかったら、怪物のまま殺されていたんですね」
「いえ、実際の所、俺がそのハンターになる所だったんですから」
「それでも、ありがとうございました。今はこうして生きているんですから。あ、名乗っていませんでしたね。失礼しました。私は、間 法子って言います」
「龍崎 賢也です」
「けんや?LSMしてました?」
「してましたけど。俺のことを知ってるんですか?」
「知ってるも何も。ノッコだよ。私。ユウから、ハンターになったのは聞いてたんだけど」
「え?ノッコなのか?何て偶然なんだよ」
「お知り合いなの?」
綾乃が賢也に尋ねる。
「ああ、俺がまだLSMをしていた時のフレンドだよ。リアルで会うのは、今日が初めてだけどね」
「改めて、初めまして」
二人は笑いながら、挨拶をした。
「LSM再開していたんだな」
「えぇ。センも寂しがってたよ。貴方がインしなくなったから」
「しょうがないよ。やらないといけないことが沢山あるからね」
「センもハンターになるって言っていたわよ。いつか出会えるかもね」
「そうか。楽しみにしておくよ。とにかく、無事で良かった」
「ありがとう。本当に助かったわ。これからも気をつけて、頑張ってね」
「ああ、じゃあ」
「さよなら。またね」
ノッコはお辞儀をすると帰って行った。
「よし、俺たちも帰るか」
賢也は帰ろうと準備を始めた時、協会の担当が慌ててやって来た。
「龍崎さん、まだ帰らないで下さい。向こうを歩いている女性は、倒れていた女性ですよね」
「そうだけど」
「すみません。まだ帰らないで下さいよ」
賢也に釘を刺すと、担当者はノッコを追いかけて行った。
「帰りそびれたな。何か話しが長くなりそうだから、先にホテルに帰ってていいよ」
賢也は、綾乃達を先に帰らせると担当が戻って来るのを待っていた。
「まぁ、何となく要件は想像つくけど、絶対に話し長くなるよなぁ」
担当がノッコと一緒に戻って来ると、賢也達はその場を後にした。
「すみません。お二人に話しを聞きたくて、お呼びしました」
二人は、会場にあった来賓用の1室に連れて来られていた。そこには、研究者と思われる協会の人間が3人いた。
「まぁ、検討はつくんですけど、何故、俺は彼女から怪物を追い出せたか?ですよね。そして、彼女には、怪物と分離して、体に変わった所は無いか調べたい。じゃないですか?」
賢也は、自分の考えを質問が来る前に答えた。
「その通りです。話が早い」
研究者の一人が答える。
「でも、俺にも分からないんで答えようが無いんですけど」
賢也は直ぐに答えた。ノッコも答える。
「私は体に変化は感じませんけど、何か検査とかあるんですか?」
「貴方には、血液検査やCT等の一般的な検査をまずは受けて戴きます。その結果を見てから、他に検査しないといけないようであれば、連絡を致します」
別の研究者がノッコに答えた。
「分かりました。じゃあ、検査をお受けします」
「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
研究者の案内でノッコは、部屋を出ていった。
「俺ももういいですか?」
「いえ、もう少し詳しく教えて下さい」
「いや、だから、何も分からないですよ。奇跡が起きたとしか。ただ、殴り付けたら、あの竜が出てきたんですから」
賢也には、本当に心当たりが無く、これ以上答えられなかった。
「殴る時、何か薬を使ったとか、何でもいいんです」
「いや、薬なんて使わないですよ。攻撃の時は、気を込めながらやってますけど、そう言えば、あの力の影響なのかな?」
研究者達が体を前のめりにして聞き返す。
「あの力?どんな力なんですか?」
「あ、どんな力と聞かれても、説明が難しいですね。一人目の人型と戦っていた時に、頭の中で声がしたんですよ。その声が、体を乗っ取るだの何だの言っていたんで、頭に気を流したら、自分の力以外の力が使えるようになって。これがまだ制御出来ていないから、この力の何かが働いたのかもしれない」
賢也は、話してしまったと思った。研究者の目が輝いているように見える。
「その力をぜひ見せて下さい」
やっぱりそう来たか。賢也は、肩を落とす。
「見せるも何も、制御出来ていないと言ったじゃないですか。制御出来るようになればいいですけど」
「じゃあ、何時ですか?」
「それは、分からないです。出来るようになったら、連絡しますよ」
「分かりました。必ず連絡して下さいよ」
「はい。必ずしますよ。じゃあ、もういいですか?」
「はい。ありがとうございました。連絡お待ちしています」
賢也は、礼をすると部屋を出ていった。ノッコも丁度、別の部屋から出てきた所だった。
「ふぅ。お疲れ、ノッコ。さて、帰るかな」
「私も今日は帰って良いって。別の日に精密検査するらしいわ」
「そっか。じゃあ、今度こそまたね」
「またね」
二人は、挨拶すると会場を後にして別れた。
「さて、家に帰ったら、力を制御出来るように特訓だな」
賢也は、これからの戦いに必要になるあの力の制御する特訓を決意し、家族の待つホテルに向かって歩き出した。
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