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VRMMOのトッププレイヤーはリアルでも最強になりました  作者: 陽月純
第1章 黒死竜討伐編

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23.準決勝の相手、賢也の覚醒!

準決勝へと進んだ賢也。その夜、テレビでベスト4の紹介が流れていた。賢也以外、ハンターランクがAランクの手練れのようだ。驚くことに、賢也を含め4人中、3人が剣の使い手だった。その内の1人が、ハンターランキング2位で優勝候補として、紹介されていた。賢也は、Eランクでありながら、準決勝まで勝ち進んだという事でダークホース的な扱いになっていた。


「俺の明日の相手は、剣と銃を使うのか。やっとまともな試合になりそうだな」


 賢也は、明日の対戦相手の紹介を見て、まともな試合になる事を願いながら、眠りについた。

 翌日、準決勝がいよいよ始まった。


「さぁ、今日も勝って、決勝に進むぞ」


 賢也は、伸びをしながら準決勝の準備をする。今までは、第1試合だったが、今日はだい2試合で、試合まで余裕があった。


「頑張ってね」

「ああ、任せとけ。時間もあるから、第1試合でも見るか」


 準決勝第1試合は、ハンターランキング2位の出雲、ハンターランキング8位の重野の2人で行われる。出雲の人気が高くオッズが1.05倍となっている。実際、出雲の強さは本物であった。賢也同様、剣のみで勝ち進んできている。対する重野は、銃の名手だった。ピンポイント射撃が得意で、急所に命中させ相手を気絶させてきている。重野が如何に出雲に銃を命中させるかが、勝負の鍵となっている。


「いよいよ準決勝のスタートです。第1試合目は、優勝候補、出雲選手、そして、対するは重野選手、ランクは両者共にAランク。ランキング10位内の対戦となります。オッズは、出雲選手が1.05倍、重野選手が20倍となっています」


 進行役の選手紹介が終わる。


「出雲、今日は悪いが勝たせてもらうぞ」

「それはこっちのセリフさ」


 出雲、重野の2人が構えをとる。


「では、始め!」


 開始の合図と共に、重野が銃を撃つ。


「へぇ。ピンポイント射撃だけじゃなく、早撃ちもなかなかじゃないか」


 賢也が感心するが、出雲はあっさりこれを躱す。


「出雲さんも流石だな。あの早撃ちを躱したか」


 初弾を躱した出雲が重野に突進していく。重野が銃を2発続けて撃った。出雲は剣で弾くと重野はそれを待っていたかのように弾かれた弾に向けて銃を撃つ。出雲は明後日の方向に撃たれた弾は無視して重野に向かって走り続ける。出雲の剣の間合いに入った時、後方から、左足にゴム弾が命中した。


「何!」


 その痛みで出雲が体勢を崩し、重野を攻撃出来なかった。一方、重野はこの機を逃さず、残弾全てを出雲に向けて撃つ。


「もらった!」


 至近距離からの一斉発射に対し、出雲は体勢が崩れた状態のまま、剣で全て弾き返した。


「勝負あったな」


 賢也は、出雲の勝ちを確信した。賢也の予想通り、全ての弾を弾き終えた出雲が、そのまま重野の腹を薙いだ。重野は苦悶の表情を浮かべると、そのまま倒れた。


「重野選手、ダウン!カウント取ります。1、2、3…」

「起き上がれないさ」


 出雲も勝利を確信していた。


「…9、10!」


 10カウントが終わる。


「勝者、出雲選手!」


 大きな歓声が上がる。優勝候補というのは伊達じゃない。決勝が楽しみだな。賢也は、出雲との決勝で、純粋に剣での勝負が出来るのが楽しみだった。


「それには、まずこれからの試合に勝たないとな」


 賢也は、武闘場へと向かった。


「優勝候補がやっぱり勝ったか。でも、大したことはないな。次の相手の方が強そうだ。ふふふ。俺の強さの糧になって貰おう。お前は手を出すなよ」

「あら、私は試合に出ていないんだから、手の出しようがないわ。もっとも、あなたが力を出して負けた時は、好きにさせて貰うわよ」

「好きにしろ。ま、俺が負ける訳が無いがな」


 男は、そう言うと武闘場に歩いていった。


「あなたが負けたら、彼が私達の最大の敵という事になるんでしょうけどね」


 女もその場を後にした。


「さぁ、準決勝第2試合を始めたいと思います。まずは、龍崎選手、ランクはE。本大会のダークホース。オッズは、2.5倍。対するは、次元選手。ランクはA。剣と銃を使う強者です。オッズは1.7倍です」


 進行役の選手紹介が終わると、


「いい勝負をしようじゃないか」


 次元が話しかけてきた。


「えぇ。でも、負けませんよ」

「それは、こっちのセリフだ。俺の糧となって貰う」

(糧?変な表現をするな)

「では、準決勝第2試合、始め!」


 賢也は次元に向かって突進する。次元は銃を撃つ事もなく、これを迎え撃った。

 互いの剣がぶつかり合った。


「まさか、俺の剣を受けきれるとは」


 気で強化した賢也の攻撃を普通に受け止めるのは中々出来ない。それを次元は普通に受け止めたのだ。


「ふふふ。いいぞ。俺と同等の力か」


 次元が不気味な笑みを浮かべている。


「これは、どうだ」


 次元が斬りつけてきた。賢也は、剣を受け止める。


「なんて、重い一撃だ」


 人間とは思えない程の力だ。こいつも気をコントロールしているのか?力の出し惜しみをして闘える相手ではなさそうだ。


「全力で闘える相手みたいだな。やっぱりこうでなくちゃ」


 賢也は全力を出して闘える相手で少し嬉しいと思った。やっと純粋な試合が出来る。

 賢也は、一旦距離を取った。


「ふぅ」


 呼吸を整えると、構えを取った。次元は銃を構えると、賢也に向けて撃った。賢也は弾を弾こうと剣で斬りつけたが、弾の威力に負け、逆に剣が弾かれてしまった。


「何て威力だ」


 慌てて弾かれた剣をジャンプして掴み取り、体勢を整える。


「銃を見る限り、あんな威力の出るものじゃない。気を操っているのかは分からないが、普通じゃないな」


 賢也は、次元に向かって突進すると、間合いに入った瞬間に袈裟斬りをする。当然、次元はこれを受け止める。だが、その直後、


「はっ!」


 賢也は、気を爆発させ、衝撃波を起こし、次元の体勢を崩した。


「これなら!氷雨!」


 賢也の三段突きが全て次元に直撃する。手応えはあった。だが、次元は、ダウンすることもなく立っている。


「いいね。ここまで出来るか。やはり、出雲よりお前の方がいいな」


 ダメージが無い?手応えはしっかりあったが。

 更に攻撃を続ける。氷雨のダメージはやはり無さそうで、動きに変化は見られない。


「これはどうだ。朧!」


 初撃はガードされたが、二連撃目は顎に直撃した。次元の体が宙を舞う。


「これでダメージ0は無いだろう」


 次元は地面に落ちると、すぐに起き上がった。


「今のは何だ?ガードしたのに、下から攻撃が来たぞ」


 次元は打たれた顎を擦っている。


「これも大したダメージじゃないのか。強いな」

「今度はこちらから行くぞ。受けきって見せろ」


 次元が突進して来る。お互いの間合いに入ると、次々と斬り掛かってきた。賢也は、剣で受け止め、反撃をするが、徐々に次元の一撃が重く、手数が増えて来て、防御で手一杯となってしまった。


「ここまで防がれたのは初めてだ」


 賢也もここまで苦戦するとは思っていなかった。奥義しかないか。だが、ここまでダメージが入らないとなると、奥義もそれなりに力を入れないとならないだろうが、入れすぎると殺してしまうかもしれない。奥義を使うのは、やはり最後の手段だろう。仕方なく、普通に斬り結ぶ。だが、気の配分を少しパワーを多めに変更し攻撃し始めた。その分スピードが落ちたため、防がれていたが、次元に一撃が入ると、顔が若干歪む。


「くっ、何だ。パワーが上がった?」


 ダメージが通ったようだ。そうか、この力配分なら、ダメージが入るか。


「よし、行くぞ!」


 賢也は、連続で攻撃し、少しずつだが、次元にダメージを与える。次元も負けじと賢也に攻撃を与える。2人が同時に距離を取った。賢也は、下がったと同時に飛燕を放つ。次元に飛燕が命中し、吹き飛んでいった。次元は、起き上がると、突然大声で笑い始めた。


「あっはっはっはっ!」


 賢也は、銃を警戒して構えるが、次元は銃を構える様子が無い。どうしたのかと様子を伺っていると、


「まさか、ここまでダメージを受けるとは予想していなかったぞ。やはり、お前には本来の力で戦わせて貰おう」


 そう言うと、次元の気配が変わる。


「な、何!この気配は」


 賢也が次元の気配に驚く。

 観客席にいた剣十郎も次元の気配に気付く。


「馬鹿な。賢也の奥さん、あいつの武器は何処かね」

「え。私が今持っていますけど」

「早く、賢也に渡すんだ。殺されるぞ」

「え?どういう事ですか?」


 その時、賢也の叫び声が聞こえた。


「全員、逃げろ!こいつは、人型の怪物だ!」


 観客がざわざわとざわつきだした。


「あいつ、何言ってるんだ?どこが怪物なんだよ」

「勝てなくて、でたらめ言ってるんだろ」


 賢也にブーイングが飛び交う。


「くそ、やはり、誰も信じないか」

「ほぅ。お前、よく分かったな」


 次元が感心したように話す。


「あぁ、気で分かるんだ。お前達の気は邪悪な気配がするからな。だけど、何で今まで分からなかったんだ」

「簡単な事だ。動物と違って、お前達、人というのは知能が高かったからな。自分の気配の消し方を覚えたのさ。流石に、正体がバレて数で攻められても面倒だからな」


 こいつ、かなりヤバい。ここで逃がしたら被害が大きくなる。だが、人型の怪物だという事をどうやって周囲の人間に分からせればいいんだろう。


「さて、お前に良いものを見せてやるよ」


 次元は、両手を前にかざした。すると、次元の周りに黒い穴のようなものが現れた。それも1つではなく、100個位ある。


「さぁ、出て来い。俺のペット達!」


 次元が叫ぶと黒い穴から犬型の怪物が現れた。


「お前は、100体の群れを退治した事があるんだろう。さぁ、こいつらはどうするかな?かかれ!」


 次元の命令で一斉に賢也に向かって走り出す。

 

 犬型の怪物が現れ、観客達は大混乱の状態だった。


「ほ、本当に人型の怪物だったのか!」

「に、逃げないと!」


 一斉に観客が逃げ出そうとするが、慌てふためき、逃げるのも逃げ出せずにいた。

 綾乃は、急いで賢也に武器を届けようと階段を降りようとするが、逃げようとする観客達が邪魔になり、中々降りる事が出来ない。


「退いて。早く。武器を持っていかないと」


 その時、剣十郎が立ち上がり、叫んだ。


「落ち着け!」


 剣十郎の気迫に圧倒され、周囲の人達は、動きを止める。


「あそこにいるのは誰だ。お前達を守ってくれるハンターなのだろう。そのハンターに武器を届けられないだろうが。守って貰えるものも出来なくなるぞ!」


 周囲の人達がハッとする。綾乃は、剣十郎に礼をすると、急いで賢也の元へ向かった。


 一方、賢也は、犬型の怪物相手に模擬刀で戦っていた。


「嘗めるな!」


 飛び掛かってきた怪物を模擬刀で斬る。本来、斬る事が出来ない模擬刀を気で強化して、斬れるように戦うのは、非常に効率が悪かった。賢也は、武器をどうにかしないとまずいと思っていた矢先に、模擬刀が賢也の気に耐えきれず、折れてしまった。


「しまった!力を入れすぎた」


 賢也は模擬刀を投げ捨てると、向かってくる怪物を殴って凌ぐ。


「まずいな。この状況は」


 その時、観客の悲鳴の中から、賢也を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あなた!剣を持ってきたわよ」


 綾乃が【銀狼】と【紅蓮】を手に、武闘場の壁まで来ていた。


「よし!」


 賢也は、急いで綾乃の元に向かう。


「サンキュー。早くここから離れるんだ」


 賢也は、剣を受け取ると、【銀狼】を抜き、犬型の怪物の群れへと向かっていった。


「はっ!」


 賢也は、次々と怪物を斬っていく。もう30体位は退治していた。次の怪物を狙おうとした時、妙な気配を感じ取った。その気配がする方向を見ると、なんと、賢也が倒した怪物の死体を食べている怪物がいたのだ。


「まさか、死体を食べて力を強化しているのか」


 前に熊型の怪物が戦闘中に他の動物を食べ巨大化したり、魚型の怪物が鳥型の怪物を食べ、進化した事があった。今はFランクの怪物だが、力を強化されれば、面倒になる。よく見ると、あちこちで同じ事をしていた。


「まさか、お前が命令しているのか」

「おー、よく分かったな。より強いペットを作るのに丁度いいからな」


 次々に怪物達の姿が変化していく。だが、退治するしかない。襲って来る怪物を斬っていく。怪物の死体が出来ると他の怪物が食べて力をつける。この繰り返しだった。そして、50体程退治した時には、残りの怪物は、強化された怪物だった。

 半数の怪物が襲って来た。どうやら、また倒された怪物を食べて強化するつもりらしい。わざわざ強化させる必要も無い。賢也は、倒した怪物を食べようとする怪物を斬り伏せる。だが、すぐに次の怪物が向かってくるため、結局、10体程が強化された。1体は、賢也が初めて倒したAランクの怪物と同じ姿のものがいた。


「まさか、Aランクに成長するとは」

「俺とやり合えたから、出来る奴とは思っていたが、100体では足りなかったかな」


 次元が追加で怪物を呼び出すような素振りを見せる。


「させるか!」


 賢也は、飛燕を放つが、次元には全く効かなかった。


「そんな」


 模擬刀ならともかく、【銀狼】を使った斬るつもりの飛燕が全く効かなかったのだ。


「うん?あぁ。俺が本来の力を解放して、この程度の攻撃が通じる訳無いだろう」


 そうしている間に怪物達が賢也に向かって来ていた。あのAランクの怪物は、動かない。更に強化するつもりか。ひとまず、向かって来る怪物を斬り倒す。Aランクの怪物は倒された怪物に目もくれず、賢也に襲いかかってきた。爪を受け止める。


「初めての時には苦労したが、今の俺なら敵じゃない」


 あっさりと首を刎ねた。だが、どういう事だ。何故、Aランクの怪物が先に向かって来たのか。他の怪物も向かって来る。賢也は、攻撃してくる怪物を次々と斬り倒した。そして、最後の1体に向けて走ろうとした時、その怪物が大きく息を吸う。すると、地面に転がっている死体を引き寄せ、全て平らげてしまった。


「これが狙いか」


 最後の1体が、姿を変貌させる。その姿は、今まで見た事の無い新種の姿だった。


「お、いい感じに育ったな。こいつは、お前達のランク付けで言うと、Sランクだな。さて、どうする?」

「決まっているさ。倒す!」


 賢也は、一瞬で間合いを詰めると首を刎ねにいく。すると、怪物の姿が揺らめいたかと思うと、剣がすり抜けた。


「何?」


 怪物は、そのまま鋭い爪で賢也を引っ掻こうとしてきた。賢也は飛び退き、これを躱すが、左腕を掠めてしまった。


「ちっ。それよりもさっきのは何だ」


 もう一度、賢也は突っ込み今度は、腹を薙いでみた。すると、また怪物の姿が揺らめき、剣がすり抜けてしまった。そして、さっきと同じように怪物が反撃してくる。今度は、剣で受け止める。爪は当たる?賢也は、一旦後退し、距離を取った。


「爪は当たるのか?それとも。試してみるか」


 三度、賢也は突っ込み、攻撃をする。今度は爪が狙いだ。すると、怪物の姿が揺らめき、爪もすり抜けた。


「やはり!」


 賢也は、すぐに体勢を整え、怪物の反撃を待つ。怪物は反撃をしてきた。賢也は、この反撃に合わせて、首を刎ねにかかる。怪物の爪が賢也に届く前に、怪物の姿が揺らめいた。賢也の剣も、怪物の爪もすり抜けてしまう。


「あいつが攻撃する時は、触れられるんだな」


 怪物の首筋に剣で斬られた跡が付いていた。剣がすり抜ける前に掠めていたのだ。


「何が起きたのか解れば、こっちの物だ」


 賢也は、怪物から離れず、怪物の攻撃に合わせてカウンターを狙う。怪物が腕を振り上げて、攻撃のモーションを取る。爪が当たるか当たらないかの瞬間に賢也は剣を振る。賢也の右胸を爪が掠めるが、賢也の攻撃は、怪物の首を刎ね飛ばした。


「ふぅ」


 次元が呼び出した怪物をやっと全て退治した。

 次元を見ると何故か拍手している。


「素晴らしい。あの霧に化ける能力持ちを退治したか」


 成る程。あれは霧に変化したから、攻撃がすり抜けたのか。


「どういうつもりかは知らないが、次はお前の番だ」


 賢也は、剣を次元に向ける。


「はっはっはっ」


 次元が大声で笑い出した。


「お前では、俺を倒せないよ。ましてや、お前達人間では、我らの主など到底無理な話しだ」

(主?黒死竜のことか?)

「だから、俺が力を付けて、主も他の分身体も全て俺の物にしてやるのさ!さぁ、お前の力を寄越せ!」


 次元が飛び掛かってきた。模擬刀で攻撃してくる。賢也は躱すと反撃をした。


 ガチン!


 鈍い音がし、次元の体には傷一つ付いていなかった。


「だから、効かんよ。お前の力では、俺の体に傷一つ付ける事も出来ないぞ」


 次元は模擬刀で叩きつけて来た。賢也はすかさず躱す。模擬刀で叩かれて、地面が割れる。あれ程の力で叩きつけて、模擬刀が折れない?やはり、気で強化しているのとは違うようだ。賢也は、距離を取ると飛燕を放った。


 バキン!

 飛燕の命中した音がするが、まるで金属にぶつかったような音がしただけで、次元には全く効いていなかった。


「何かしたのか?無駄と言っているのが、分からないようだな」


 次元は一瞬で賢也の元へ近付くと、左腕で殴ってきた。


 ボゴッ

 鈍い音と共に賢也は吹き飛び、壁に激突した。


「ぐはっ」


 次元の一撃を腹に喰らい、血を吐く。


「くっ。何て一撃だ。スピードだけか、互角なのは。まずいな」

「まだ立てるか。もう少し痛め付ける必要があるな」


 追い討ちをかけるように次元は賢也の元へ突進していった。賢也は、体勢を整えるために横に飛び出すが、次元の方が素早く、賢也の目の前に現れる。


「な!」

「俺から逃げられると思うなよ」


 次元は、賢也を乱打する。躱す事も出来ず、サンドバッグのように殴られる一方だった。


「ワハハハハ」


 次元は、高笑いしながら、賢也を殴り続ける。


(これは、死ぬかな?)


 殴られながら、賢也は死を覚悟した。次元の最後の一撃を受け、壁まで吹き飛ばされる。


「まずい。あのままでは、賢也が殺されてしまう」


 剣十郎が戦いの場に飛び込もうとするが、娘が止める。


「お父さんが行って、どうなるの!」

「しかし!」


 綾乃は、賢也が吹き飛ばされたのを見て、気絶してしまった。子供達も泣き叫んでいる。


「武器も無い。しかも、お父さん言ってたじゃない。龍崎さんは、もうお父さんより強くなってるって。その龍崎さんが、手も出ないのに、お父さんが行ったって変わらないでしょ。只の無駄死によ」

「くそっ。それでも、弟子を守るのが、師の務めだ」


 剣十郎は、娘の制止を振り切り、賢也の元へ向かおうとしていた。


 一方、壁まで吹き飛ばされた賢也は気を失っていた。その時、賢也の頭の中で声が聞こえてきた。


(何だ。頭の中で声がする)

「くくく、やっとこいつの体を乗っ取るチャンスが来たぞ」

(俺の体を乗っ取る?)

「同胞の奴、痛めるだけ痛め付けやがって。俺が乗っ取った後、文句を言わないとな」

(同胞?乗っ取る?)

「さぁ、俺に体を寄越せぇ」


 次元が賢也の方に歩いていたが、立ち止まる。


「何だ。同胞がまだ生きていたのか。顔を出そうとしてやがる。折角、俺が喰ってやろうと思っていたのに」

(そうか。俺の中にもあいつらのウィルスみたいな奴が居たのか)


 気を失いながら、賢也は考えていた。


(まだ死ねない。こいつに体を奪われてたまるか!)

 賢也は、気を取り戻し、起き上がると、両手で頭を挟んだ。


「お前に俺の体を渡してたまるか!」


 賢也は、両手に気を込め、自分の頭の中に流し込んだ。頭の中から叫び声が聞こえる。


「ぎゃあー。止めろー。死ぬ。死ぬ。喰らう者の分身である俺が死んじまう。止めてくれぇ!」


 賢也の攻撃で頭の中に居た黒死竜の分身が溶けて消えてしまった。

 その時、賢也は突然、力が湧き上がってくるのを感じた。


「何だ。頭の中から声がしなくなったら、急に力が湧いてきたぞ」


 この気配に次元と剣十郎は気付く。


「何だ?賢也から、強大な気を感じる」


 賢也の元へ向かおうとしていた足を止める。


「何が起きたんだ」


 剣十郎は、賢也の気配を感じ、動けなくなった。


「馬鹿な。同胞の気配が消えた?何が起きた?」


 次元も、黒死竜の分身の気配が消えた事に不思議がる。

 その時、次元の目の前に賢也が突然現れる。そのまま、賢也は、斬り付けた。


 バキッ!


 賢也の力に耐えきれず、次元に当たる前に【銀狼】が砕けてしまった。


「え?【銀狼】が砕けた?」

「何だ、こいつ。今までと桁違いに力が上がっている」


 次元は、慌てて後ろに飛び退いた。賢也は、【紅蓮】を抜き、炎を纏わせる。だが、さっき砕けてしまった【銀狼】のように砕けてはまずいと、鞘に戻した。仕方なく、拳を握りしめ、次元の元へ突進する。あまりのスピードに次元は、賢也の動きについてこれない。賢也はそのまま次元を殴ると、次元は吹き飛んでいった。


「俺の体はどうなったんだ?だが、これならいける!」


 賢也は、吹き飛んでいった次元を追いかけると、今度は、蹴り上げた。次元の体がロケットのように、空高く上がって行く。


「ぐぅ。あいつのこの力は何だ?まさか、同胞の力を吸収したのか?」


 次元は、落下を始めた。下には、賢也が待ち構えていた。


「はぁ!」


 落下してきた次元を殴り付ける。次元はこれをガードしたが、賢也のパワーに圧され、吹き飛んで壁に叩きつけられる。


「畜生!俺がたかが人間ごときに、こうもやられて、黙っていると思うな!」


 次元が両手を前に突き出し、再び黒い穴が現れる。


「させるか!」


 賢也は、次元の元へ一瞬で近付くと殴り掛かった。次元は、体を反らし、躱すが腕に痛みを感じる。


「何だと!俺の腕が。腕が!」


 見ると、次元の腕が綺麗に切断されていた。これには、賢也も驚いた。


「何で腕が斬れたんだ?」


 次元は、腕の痛みで黒い穴を閉じてしまった。


「許さん。絶対に許さん!」


 次元の前に再び黒い穴が現れた。その中から、犬型の怪物が現れるが、これを次元は喰い始めた。


「回復するつもりか」


 既に、次元は食べ終わっているが、血が止まった程度で、ほとんど回復出来ていなかった。


「くそ、こんな雑魚じゃ回復量が足らん」


 賢也は、次元が回復した事よりも、さっきの腕を斬り落とした時の感覚を思い出す事に集中していた。


「さっきの感覚を思い出せ。そもそも、パンチは躱されたんだ。なのに、あいつの腕が切れた。しかも、左右の切れ方が違う。あれは、パンチの軌跡と同じだ」


 両腕を無くした次元は、賢也に飛び掛かると、蹴りを放ってきた。賢也は、これをガードし、反撃で殴りつける。次元は、器用に足でガードすると賢也のパンチの威力を活かし、賢也から離れていく。


「うーん。やっぱり、さっきとは違うな」


 今の攻撃は、ただ殴っただけだった。力はあるが、次元を倒すには、さっきの攻撃が必要だと直感で感じていた。


「分からないが、色々試しながらやるしかない!」


 賢也は、次元に向かっていく。次元の方は、逃げるかどうするか考えていた。


「たかが人間から逃げるのも、腹が立つ。とはいえ、腕が無くなったままでは、どうにもならないな…」


 次元の視界に賢也が倒したSランクの怪物の死体が入った。


「ああ、あれがあった」


 次元は、死体の側に一瞬で移動すると、転がっていた頭を食べ始めた。そこに賢也が現れる。


「させるか!」

「もう、遅い」


 賢也の攻撃が当たる前に、次元は怪物を食べた事で、腕が再生し、賢也の攻撃をガードする。


「ふふふ。さぁ、仕切り直しといこうか」


 賢也と次元の殴り合いが始まる。お互いに一歩も譲らず、致命打を与えられない。


「これならどうだ」


 次元の拳から、鋭い爪が生えてきた。


「危ない」


 賢也は、攻撃を躱し後退する。犬型の怪物を取り込んだからか、次元は姿は変わっていないが、新な力を手に入れたようだ。


「だが、今のあいつの攻撃。ひょっとして」


 賢也は、拳に意識を集中する。何も見えないが、何か拳の先に力を感じる。


「この感じか?」


 賢也はそのまま次元に殴り掛かった。次元も爪で攻撃してくる。次元の爪が届く前に、次元の腕が斬り落とされた。


「何だと?」


 やはりこの感覚か。この感覚だと、丁度、【銀狼】と同じ位の間合いだ。賢也は、今度は殴るのではなく、斬る感覚で腕を振る。間合いが【銀狼】と同じなら、斬れるはず。


「貴様!何をした!」


 賢也は、次元の左腕を肩からバッサリと斬り落としたのだ。


「よし!いける!」


 止めの一撃に腕を振り上げ、振り下ろすが、手応えが無い。

次元も斬られたと思ったが、何ともなかったため、ホッとしていた。


「ビビらせやがって。どうやら力をまだコントロール出来ていないようだな」


 次元は、今、賢也を殺しておかなければ、後々の立ちはだかる強大な壁になると悟ったが、自分自身にも、賢也を倒す力が無い事も悟った。


「今日は、ここまでだな。更なる力を付けて、今度こそ、お前を俺の糧としてやる」


 そう言って、次元は、黒い穴を出現させ、犬型の怪物を召喚した。そして、そのまま逃げ始めた。


「あ、逃がすか!」


 賢也は、慌てて次元を追いかける。向かって来る怪物を殴り飛ばしながら。


「邪魔だ!」


 次元に追い付き、殴り掛かった。


(この一撃で倒す!)


 その時、振りかぶった拳に炎が灯る。

 そのまま、次元を殴ると、簡単に胸を貫いた。


「ぐわぁー」


 次元の叫び声が辺りに響き渡る。


「まさか、貴様の力は主と同じ…」


 貫かれた胸から、次元は燃え始めた。


「そうか、力を吸収し、自らの力に換える能力を手に入れたのか…」

(こいつ、何を言っているんだ)

「お前なら。主を倒す力を得られるかも知れんな。我らの脅威となるだろう。ならば、力が不安定な今、死ぬがいい!かかれ!」


 次元は最後の力を使い、自分が召喚出来る怪物を全て召喚した。


「いくら、貴様が強くても、500匹の群れを相手に無傷では、済むまい。後は任せたぞ…」


 そう言うと、次元は燃え尽きてしまい、跡も何も残らなかった。


「やっと、倒したっていうのに、雑魚とはいえ、500体はきついな」


 賢也は、力の使い過ぎなのか、息が切れていた。体も重たい。さっきまであった拳の炎も消えていた。


「くそ。だが、やるしかないか」


 賢也が覚悟を決めた時、選手入場口から、1人の女性が現れた。


「何してるんだ!危ないぞ」


 賢也は、女性に向かって叫ぶ。


「ふん。後は任せるなど、勝手な事を言う奴だ」


 賢也の叫び声を無視して、女性はそのまま入ってくる。


「それにしても、こんなに連れていたとは」


 女性が右手を前に突き出す。


「何!嘘だろ…」


 女性から、怪物の気配が漂い始めたのを賢也は感じ取った。


「まさか、2人目だと」


 女性の翳した手から黒い触手のようなものが、無数に現れ、犬型の怪物に絡み付いていく。触手が絡み付いた怪物は、そのまま消えていった。


「何をしているんだ?」


 なんと、500匹いた怪物は全て女性の黒い触手によって消えてしまった。


「では、また会おう」


 そう言うと、女性は消えてしまった。


「何だったんだ。とりあえず助かったのか…」


 賢也は、怪物がいなくなった事で安心すると、気を失った。


 賢也は目を覚ますとそこは、医務室のベッドの上だった。


「ここは。医務室か」

「良かった。気が付いたのね」


 綾乃がベッドの傍に居た。


「俺は、あの後、気を失ったのか」

「えぇ。本当に心配したんだから」

「ああ、俺も死ぬかと思ったよ。本当に。まさか、人型の怪物がハンターに紛れてるなんて、誰も想像してなかったしね。しかも、2体目が現れるし」


 賢也は、女性の人型の怪物が何者だったのか、気になっていた。


「そういえば、大会はどうなったんだ?」

「貴方の勝ちで、明後日、決勝をするそうよ」

「そうか。じゃあ、優勝しないとな」

「それよりも、無事に帰って来てね」

「分かってるよ」


 賢也は起き上がると、綾乃と医務室を出ていった。

 医務室を出ると、剣十郎達が待っていた。


「気が付いたか。良かった」

「ありがとうございます。ご心配をお掛けしました」

「いや、それにしても、戦いの最後の方は何が起きたのだ?お前の気が尋常ではなかった」

「分かりません。俺自身、何が起きたのか、さっぱりです。でも、あの力を使いこなす事が出来なければ、人型の怪物には勝てないでしょう」

「そうか。もう私では、お前の力にはなってやれないな」

「何を言うんですか。師匠のおかげで、こうして今も戦えるんですから」

「ありがとう。そう言ってくれると有難い。嬉しいよ」


 賢也達は、体を休めるためにホテルへ戻る事にした。その日のニュースは、人型の怪物の出現と賢也の活躍で持ちきりだった。ホテルには、賢也がゆっくり休むために、取材等は一切取り次ぎをしないように頼んでいたため、ゆっくり休むことが出来た。


「さて、明後日の決勝が終わったら、あの力を使いこなせるように特訓だな」


 賢也は、自分が手にした力を上手く使いこなせるか、その事が気になったが、ゆっくりとホテルのベッドで休み、眠りにつくのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


今後もよろしくお願いします。


良ければ、感想や評価もよろしくお願いします。

今後の励みになるので。

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