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第24話 誕生日 ②

 昼食は、いつもより豪華だった。

 毎日同じ部屋で食事をしているのに、どこか広く感じる。

 長いテーブルの片側にエルネスタが座り、その向かいに両親が並んで座る。

 両親は夜会やらで、不在な日が多く、こうして三人で昼食を取るのは久しぶりだった。


「失礼します」

 メイドが運んできた料理を目の前に並べた。

 花の形を模した生ハムとキャベツの前菜。


「エルネスタ。お誕生日おめでとう」

 父と母がにこやかに言った。

「ありがとうございます」


「少しずつだが、社交界に参加するようになって一年だな。慣れたか?」

「はい。多少は慣れましたわ」

「そうか」

 父が目を細める。

「そう言えば」

 母は切り出した。

「数か月前のダンスパーティーで、ザハリアス侯爵から宝石を頂いたとか」

 エルネスタの肩がびくりと動く。

 壁に控えていたギルベルトの空気が、わずかに強張った。

 

「はい。アレキサンドライトのブローチです」

 母は嬉しそうに口角を上げた。

「素敵な頂き物ね。お礼のお手紙は?」


 エルネスタの肩がぴくりと揺れた。


「えっと……」


 ダンスパーティーから半年。

 アレキサンドライトのブローチは大切にしていたのに、お礼の手紙のことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 慌てて手紙を書いたのは、つい二週間ほど前のことだ。


 言葉を濁すエルネスタを見かねて、マーヤが横から告げる。

 

「送っております」

「そうか」

 父は満足そうに頷いた。

「返事は来た?」

「はい」


 マーヤは近くのメイドに目配せをした。


 メイドはそそくさと部屋を出て行く。


 しばらくしてから、メイドが戻ってきた。

 銀の盆の上には、一通の封筒が乗せられている。


「こちらです」

 マーヤが受け取り、エルネスタの前へ置いた。

 封筒には、見覚えのある紋章が刻まれていた。

 ザハリアス侯爵家。


「まあっ」

 エルネスタは思わず声を上げた。


 父親が微笑む。


「返事を頂けたのか」

「はい」


 エルネスタは封筒を開いた。

 中には、端正な文字で綴られた便箋が入っている。


『親愛なるエルネスタ様


 お手紙を頂戴し、大変嬉しく思いました。


 先日のダンスパーティーでは、素晴らしい時間をありがとうございました。


 貴女の聡明さと純粋さは、今も強く印象に残っております。


 もし機会がございましたら、ぜひまたお話ししたく存じます。


 次にお会いできる日を、心より楽しみにしております。


 クロード・ザハリアス』



 エルネスタは手紙を読み上げた。

 両親の顔が、みるみるうちに明るくなる。


 それに反して、ギルベルトの表情はどこか険しい。

 

「まあ、丁寧な方ね」

「礼儀正しい方だ。よかったな、エルネスタ」

「はいっ」

 エルネスタは嬉しそうに答える。

「半年間お会いしていないけれど、元気そうで何よりですわ」


「マーヤ。この手紙はいつ届いた」

 父が尋ねる。

「昨日でございます」


「ならば近々誘いが来るかもしれない」

 父の声はいつもより高い。

「本当ですの?」

 エルネスタは目を丸くする。

 その横顔は、期待というより純粋な好奇心に近かった。

 だが、ギルベルトは違う。

 あの男は、半年もの間、一度も接触してこなかった。

 それが、エルネスタから手紙が届いた途端、すぐに返事を寄越した。

 まるで、ずっと待っていたかのように。

 偶然とは思えなかった。

 

「あら。エルネスタを期待させすぎないで」

 母が父に言う。

「そうだな」

 二人は朗らかに笑い合った。

 エルネスタもつられるように笑う。


 クロードから手紙が届いたことは素直に嬉しかったし、両親が喜んでくれたことも嬉しかった。


 しばらくして、次の料理が運ばれてくる。

 誕生日を祝う穏やかな昼食は、そのまま和やかに続いた。


 だが――。

 壁際に控えていたギルベルトだけは、一度も手紙から目を逸らさなかった。


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