第九十一話『そしてあの日』
アトランティスの夜は暗くならない。昔は夜という世界があったらしいけど、わたしは夜を見たことがなかった。たくさんのエーテルエネルギーがいつも夜空を照らす。わたしは子どもの頃、西の果てにある《トートの叡智の図書館》で幻の星を見たことを思い出した。
クリスタルをうなじの差し込み口にプラグインすると、脳がホログラムを映し出す。ホログラムの紙のページをめくる音。いつも絵本の中だけで見る星。そこにあるはずなのになかったことにされるのは、まるで自分を想起させる。
わたしにはリンコという名前がある。だけど、お父様やお母様には一度も名前で呼ばれたことがない。
「格付を上げ、王宮に貢献することが人間の価値だ。それ以外の人間には……」
「価値はございません。そうですよね? お父様」
早く大人になってお父様やお母様に認められる立派な人間にならないと。
まだ7歳。年端もいかない世間も知らない王宮のこともまだ分かってない子どもだ。だからこうして、週末はいつも父と図書館へ出向いて王族について学ぶ。
「だったらお前にはそんなくだらない絵本を読んでる時間はない」
ずっとわたしを育ててきたお父様の言葉。それはずっと──強烈な違和感と、偽物の世界のような気がしていた。振り返るとそうだった。偽のインプラントをレンに剥がされ、本当のお父さんにレプリカの《星時計》を託され、数万年ぶりの星空によってSSS級のインプラントが剥がれた今──すべてのパズルのピースが符合する。わたしは見る見るうちに俯瞰の視点に立ち、気づいたら宇宙から地球を見下ろしていた。
そこはわたしがトートの叡智図書館へ行った後のことだ。
「それで、なんであのガキを孤児院に? ずっとそばにいて監視したほうが効率的だと思うのだけれど……」
あの時──オリハルコンアレルギーで倒れたわたしが眠っている寝室へ向かいながら、エルメア(お母様)が言う。
「フン──簡単なことだ。最近、他の十人王が私の動向を怪しんでいる。まだ娘がいるということまではバレていないがな。もし無限のエネルギーの鍵が、このガキであることがバレでもしたら十人王の監視網に引っかかり奪われるリスクが高い」
「灯台下暗し。だから監視の目が届きにくい孤児院ってことね」
「それにあのガキには立派な猟犬になってもらわねばならん。この王の手にかかれば、ガキの心理なんてものは簡単に掌握できる。まだ年端のいかないガキが親に捨てられたとなれば、認められたいという欲求が芽生えるのは自然なものだろう」
「……相変わらずゲスい考え」
エルメアが頬を歪ませるように笑う。その歪んだ笑顔と共にエルメアはため息を吐きながら言う。
「それよりホント、あのガキの前で小芝居なんて疲れるわ──」
足並みを揃える二人はわたしの寝ている部屋へ徐々に近づいていく。
「おい……そろそろ近くに来たから気をつけろ。寝室で寝てるとは言え、一時も気を抜いてはいけない。何かの拍子にすべての記憶を思い出しでもしたらこれまでの計画がパーだ」
「分かったわ……」
エルメアが母親役として切り替える。
「なんでこんなことになるのかしら。ねぇ? 今日もトートの叡智の図書館でお父様とお勉強してきたんでしょう?」
「40分経つと使い物にならない欠陥品なのに、あいつときたら、くだらない絵本を読んでいたんだ」
反吐が出そうな猿芝居だ。あの時、ずっと騙されていた自分に腹が立つ。気づいてしまえばもう恐れることはないが、気づいた時の憤りは想像以上のものだった。
「それで? どうするの? 王宮の特殊部隊として、あの子は」
「今日まであの《欠陥品》にたいして甘く見てやったが、もう限界だ。今まで王宮の後継人という跡取り問題のために教育をしてきたが、この調子じゃもう使い物にならんだろう。虚偽の申請にはなるが、王宮に取り合って、あのガキは孤児ということにすればいい。孤児院に引き取ってもらうのが最善策だろう」
きっと十人王の監視が入らないように、わたしがメストルの娘だということがバレないよう、王宮のデータを偽装しての申請だろう。
わたしがあの時、起きていたこともバレていた。わたしは24時間、バイタルデータで脳波も心拍数も管理されていた《奴隷》だったのだから。
アト転 次回で最終章です。
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さて、私事ですが最近『働かなくても、みんながお金を気にせず、やりたいことをやれて、なりたい自分になれる世界』はこれからロボットやAIなどが発達したら可能になるのではと思っております。
これまではみんなが好きなことをやってしまうと、秩序が乱れ、生活に必要な衣食住やインフラがなくなるというのが『現実』でした。しかし、それらの労働がロボットやAIに変わればどうでしょう?
地球という強制労働施設が、テーマパーク化します。
その時、ロボットに自我が芽生えて『人間のためにこんな強制労働させられるなんて嫌だ!』っていうロボットの反乱はまあ次のフェーズであるとして(笑)
今我々に必要なのは、長い強制労働の終焉です。
行動の動機の必ず根っこの部分には『お金』があるのが、これまででした。
ですが、もう『お金』という価値観が、変わりつつあるかもしれません。
その話については、アト転の続編にて、ストーリーでお話ししようかなと思います。
なんだか、思想つよつよのエッセイみたいなあとがきになってしまいましたが、最終章の最後までよろしくお願いします! ちなみにこれは一巻の最終章です。続編があるのでそちらも楽しみにしてくださいね! ここまで読んでいただきありがとうございました!




