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アトランティスに転生したら現代よりも奴隷社会だった件  作者: 猫石カズマ
第三章 エーテル花火大会とタイムリープマシン

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第七十九話『終わりの始まり』

 

 ※※※

 

 夏の生ぬるい風が、瓦礫の山を吹き抜けた。


 人工太陽の光芒(こうぼう)は、完全に消失していた。


 アトランティスの大地を数万年にわたって不自然に照らし続けてきた絶対的な昼は終わりを告げ、都市のインフラがことごとく沈黙する、完全なる闇が訪れていた。


 だが、見上げた空は、決して暗黒ではなかった。


 重力の爆発によってドーム状の天蓋(てんがい)が吹き飛んだその先には、視界のすべてを埋め尽くすほどの圧倒的な光の海が広がっていた。


 無数の星々。


 青、白、オレンジと瞬く無数の光の点が、夏の夜の大気を透かし、幾重にも重なり合いながら天球を埋め尽くしている。


 天頂には、淡く発光する帯──天の川が、紫と群青(ぐんじょう)のグラデーションを描きながら、巨大な光の河となって夜空を真っ二つに横断していた。


 それは、狂える支配者が縋(すが)りついた偽りの永遠よりも、遥かに古く、そして静謐(せいひつ)な宇宙の営みだった。


 何万光年という悠久(ゆうきゅう)の時を旅してきた無数の星の瞬きが、分厚い雲と人工太陽によって永らく拒絶されてきたこの閉ざされた大地へ、ついに降り注いだのだ。


 吸い込まれるような暗藍色(あんらんしょく)のカンバス。そこには、星間ガスと宇宙塵(うちゅうじん)が織りなす星雲が、まるで夜空に薄衣(うすぎぬ)を羽織(はお)わせたように淡い光のベールを作り出している。


 その静寂の空を、一筋の鋭い光が切り裂いた。


 白く長い尾を引いて消えたかと思うと、直後に第二、第三の光の矢が天頂から放射状(ほうしゃじょう)に降り注ぎ始める。


 宇宙の軌道が交差する、一年に一度の天体ショー。


 ペルセウス座流星群。


 数万年もの間、見上げることすら許されなかった本物の星空をなぞるように、無数の流星が絶え間なく雨のように降り注いでいく。


 音もなく、ただひたすらに光の尾が夜空に幾何学模様を描き出す。あるものは鋭く短く、あるものは空の端から端までを貫くように。まるで、星々がこの傷ついた大地を祝福し、あるいは旧世界の終焉(しゅうえん)に弔(とむら)いを捧げているかのような、荘厳(そうごん)な光の雨だった。


 遠く地平線に連(つら)なる山々の黒いシルエットも、大地を穿(うが)ち隆起(りゅうき)した王宮の無惨な瓦礫も、降り注ぐ星々の冷たく優しい光だけが淡く照らし出している。


 ひび割れた鉄骨、砕け散った大理石、そして絶対的な力を持っていたはずの神の残骸すらも、この圧倒的な大宇宙のスケールの前では、砂粒のようにちっぽけな存在に過ぎなかった。


 広大な星空の下。


 その鉄塔の上に二つの小さな影があった──


 死闘の果てに気を失いそうになりつつも、かろうじてギリギリの精神力で立つ少年と、彼にその身を庇うように強く抱きしめられた少女。


 少女の瞼がピクリと開かれる。それまで長い眠りについてた少女は、少年によって抱きかかえられていた。


「……よ。目覚めたか……」


「これって……」


 少女はまだ起きたばかりなのに、数秒で瞳孔を大きく見開く。信じられないといった表情で、目を丸くした。少年の顔を覗き込むが、その頭上に広がるのは数万年ぶりの星空──。


 絵本の世界では『願いを叶えてくれるという』流れ星まである。


「……夢みたい。あとこれって……」


 少女は少年の胸に手を当てがい、頬を赤く染める。


「上書き──酔っぱらった時、アイツにお姫様抱っこ奪われたから──」


「え?」


「いや、なんでもない……」


 風が二人の頬を撫でたと同時だった──。


 カチリ……。


 静まり返った星空の下で、微かな音が鳴った。少年の腕の中に抱かれた少女の胸元。そこにあった古い『懐中時計』が、夜空を駆ける流星の瞬きと呼応するように、淡い金色の鼓動を刻み始めていた。


「うそ──信じられない。レン──針が──」


 目まぐるしいスピードで時計の針が動く。降り注ぐ星の雨と、時計のリズムが完全に同期していく。それと同時に、少年の腕の中で、少女の長いまつ毛が、夜風に撫でられるように微かに震えた。


 ゆっくりと持ち上がったその瞼の奥、静かに開かれた瞳の中で、数万年ぶりの満天の星空が鮮やかに反射する。その反射する光と共に、少女の脳の奥にあったプロテクトが──


 パリィィィィィィィィィィィィンッ──。


 音を立てて崩壊する──。


「リンコ……これって……」


 突然のことだった──。少女は、すべてをフラッシュバックのように思い出し、少年の服の襟を掴んだ──


いつも読んでいただきありがとうございます! 


面白かったら、いいね、ブクマ、感想、レビュー、よろしくお願いします!


次は第四章です!

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