↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトランティスに転生したら現代よりも奴隷社会だった件  作者: 和子・F・和夫
第三章 エーテル花火大会とタイムリープマシン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/98

第七十七話『メストルの思惑』

 

 メストルは、リンコに向かって言う。


「おい──お前が持っているレプリカの懐中時計の動かし方を吐け。そして本物の懐中時計がある場所を教えろ」


 オレは奴のクソくだらねえ野望を無視し、攻撃を仕掛ける。


「おい。よそ見してる暇ねえぞ。トカゲ野郎」


 オレがバールを一振りすると、いつものように超高密度のプラズマの一線が、地割れを起こしながらメストルの胴体を狙う。だが、寸前のところで、メストルのクソ野郎が、リンコを盾にし、直撃を回避しようとしてくる。オレはバールを持つ手の方向をズラし、その軌道を変更する。


「……っぶねえ」


 壁に直撃したプラズマが、分厚いコンクリートをドロドロに溶解ようかいさせる。もし軌道を逸らすのがコンマ一秒でも遅れていれば、リンコの身体は半分消し飛んでいただろう。


「ハハハハハッ! 素晴らしい! 見事な反射神経だ、レン! だが、それがお前たちの限界だ!」


 メストルはリンコの背後に完全に身を隠し、狂ったように高笑いした。


「この女に傷ひとつ付けられないお前たちが、どうやって私を止める? 王宮のエネルギーが無くとも、まだ私のクリスタルがある。この空間の重力場を作る程度のな。……さあ、猟犬よ! 奴らをミンチにしてしまえ!」


 リンコが一歩前へ踏み出す。彼女の周囲の空気が歪み、目に見えるほどの重力波がギルたちへと襲いかかろうとした、その時だった。


「……なぁ、メストル」


 オレはバールをだらりと下げ、あえて隙だらけの姿勢で口を開いた。デジタルマスクの出力をいじり、オレの『声』に、ある特殊な周波数の重低音を乗せる。


「お前、本当に『リンコ』を盾にしていいのか?」


「……何?」


「十人王の中でお前だけがリンコの処分に反対した。リンコに傷一つつけられないのは、お前も一緒なんだろう? 盾にするフリとかバレバレだから。さっきのは──」


 そう、危なかったのではない。軌道はズラしたけれど、掠っていただけ。しかしそれは父親が我が子を守るためではなく、何か大事なデータを守るような『リンコが何かの遺産』であるような振る舞いだ。


 オレはバールで、テスラコードの出力をギルから極限まで引き出し、空間全体に『四つ打ちの重低音』を共鳴させた。あの日のエーテルディスコで、鳴らした音だ──


 ズン……、ズン……、ズン……! ただの音じゃない。宇宙の重力関数に限りなく近づけた、オレのハッキングコードだ。


 その瞬間だった。


 リンコの胸元で、冷たく沈黙していたはずの『懐中時計』が、音の波長と同期するように、光り始めた。


 そう──あの時、エーテルディスコで見たときと同じだ。


「な……ッ!?」


 メストルの顔から、余裕の笑みが完全にげ落ちた。


「馬鹿な……!? 王宮の最高出力でもピクリともしなかったただの鉄クズが……なぜ??? 貴様の鳴らす音で光っているだと!?」


 ビンゴだ。だが、一体なぜコイツがこんなにも懐中時計に固執するかは分からない。


 メストルは必死にリンコから懐中時計を引き剥がそうとする。


「何故だ? 王宮のエネルギーがブラックアウトした今、なぜ、この懐中時計が光る?」


 メストルはリンコから引き剥がした『懐中時計』を、奇妙な物体でも見るような目で何度も何度も触れたり、揺らしたりする。


「お前らが、王宮のフリーエネルギーに依存している間──オレたちは本物のフリーエネルギーを研究してたんだよ。メストル──お前、十人王の一人なのに、何にも知らねえんじゃないのか?」


「フリーエネルギー。ふ──そんな世迷言を言う奴が過去にもいたな……。しかし、神の起こす奇跡の解説書など、神に対する冒涜──邪教だ──」


 メストルは指に嵌めたクリスタルの指輪を、オレたちに向けてかざす。


 ズ……ズ……ッズ………ズズズ……


 またもや重力制御の波に揉まれる。


「グァ……ッ!?」


 ミシミシと、全身の骨が悲鳴を上げる。ただ重しを乗せられたような感覚じゃない。オレたちのいる空間そのものが、不可視の万力まんりきで圧縮されていくような、次元の違う圧倒的な暴力だ。


「ハ、ハハハハ! 王宮のインフラなど今の私には必要ない。このクリスタルのみで十分だ」


 メストルが光る懐中時計を持つ手を高く掲げ、指輪を嵌めたもう片方の手を指揮者のように振る。


 ギルが苦悶の表情を浮かべ、テスラコードの青白い光を明滅させながら膝をついた。


「クソが……さっきよりも出力が上がってやがるぞ……ッ! レンッ!」


「龍のOSで、重力の波長を……中和、します……ッ!」


 クリスタが額の光を強め、必死に妨害電波アンチ・エーテルを放とうとするが、直後、彼女の目から一筋の血がツーッと流れ落ちる。


 クリスタ……すまねえ……耐えろ……。


「無駄だ。私の指輪にあるクリスタルは、ピラミッドと同等の純度を持つ。今までせっせと奴隷たちや人柱のエネルギーを回収して圧縮したものだ──貴様らのチンケな妨害など、木っ端微塵にすり潰すのみ!」


「なら、アタシが……!」


 セネカが、メストルの死角から跳躍する。だが、


「もうそこにいるお前の透明化は解けているぞ。貴様らが、ピラミッドを停止させたおかげでな──」


 メストルが指をパチンと鳴らすと、セネカのいた重力が局所的に反転。実体化したセネカの身体が、凄まじい勢いで天井に叩きつけられ、そのまま床へと墜落した。


「ゲホッ……!」


 セネカが床に倒れ伏す。


「そもそも透明化など、王宮が奴隷どもを管理するために導入したシステム。途中から貴様らと共に行動していることは気づいていた。王宮のアンドロイドやターレットと一緒にされては困る」



 たった一人の王の力。これが、何万年もこの大陸を支配してきたトカゲの頂点の一人、ラスボスとしての絶望か。メドューサの時とは比べ物にならない。


「さあ、猟犬よ。まずはその生意気なハッカーの腕をへし折れ」


 メストルの冷酷な命令に応じ、リンコがゆっくりと歩み寄ってくる。彼女だけは、この異常な重力場の中でも全く影響を受けていない。うなじに刺さったクリスタルが、メストルの重力波と完全に同調しているからだ。


「リンコ……ッ」


 オレはバールを床に突き立て、必死に立ち上がろうとするが、重力の枷がそれを許さない。


 無表情のまま近づいてきたリンコが、オレの顔面を容赦なく蹴り飛ばす。


「ガッ……!」


 血の味が口の中に広がる。だが、オレは反撃できない。するわけにはいかない。


「リンコ……オレだ。目を覚ませ……っ!」


 だが、リンコは無慈悲にもオレの右腕を掴み、その関節を逆方向に捻じ曲げようと無機質に力を込める。ミシッ、と嫌な音が鳴る。


「ハハハハ! 傑作だな! 王宮のエネルギーを断ち、見事私を出し抜いたと思っただろうが、結果はこれだ。貴様らは何も守れず、私の用意した猟犬に食い殺されるのだ!」


 クソ……クソッ……。


 視界がかすむ。バールを握る握力すら奪われていく。


 メドューサの時のような、電気の等電位化を利用した強引なショートハッキングは通じない。重力場は電気の波長とは根本的に違う。空間そのものを歪める力に、バール一本でどう対抗する?


 必死に頭を回転させる。


 フリーエネルギー、重力関数、音の波長、テスラコード……。


 かすむ視界の中で、オレはメストルの手元を見た。


 奴が奪い取った、リンコの『懐中時計』。


 オレの鳴らす四つ打ちの重低音に呼応して、未だに淡く、熱を持つように光り続けている。


 ……待てよ。


 メストルは言った。『王宮のインフラは必要ない、自分とクリスタルだけで十分だ』と。


 だが、奴は今、あの『懐中時計』を素手で持っている。


 そしてその時計は、オレの放った『宇宙の重力関数に限りなく近づけたハッキングコード』を受信して光っている。


「……ッ」


 血塗ちまみれの口元が、自然と歪んだ。


 バカなトカゲ野郎だ。


 奴は自分で気付いていない。オレの鳴らす音が、なぜあの鉄クズを光らせたのか。


 あれはただの光じゃない。オレの『コード』と『時計』が、通信機器のように完全にリンクしている証拠だ。


 そして今、その時計を直接握りしめているのは、メストル、お前自身だ。


「ギル……」


 オレは折られそうになる右腕の痛みに耐えながら、床に這いつくばったまま、重力制御で苦しむギルにデジタルマスクの内部通信インカムで語りかけた。


『マスクのスピーカーの指向性を絞れ。オレの四つ打ちの周波数を、奴の持ってる懐中時計に一点集中させるんだ。……オレが、重力そのものを寝取ってやる』


『……チッ、最後の最後まで、心臓に悪いハッキングばっかり思いつきやがって……!』


 インカム越しに、ギルの荒い心拍数と、不敵な笑い声が返ってくる。


『なんかよく分かんないけど、リンコ様がそれで助かるなら!』


 床に倒れたままのセネカが、震える手で自身のデジタルマスクのブースターを最大まで回す。


『クリスタ、ギル……! アイツに、全部……!』


「──オオオオオオッ!!」


 ギルが咆哮ほうこうした。あいつの全身に刻まれたテスラコードが、青白い火花から、すべてを焼き尽くすような純白のプラズマへと跳ね上がる。その膨大な電気エネルギーが、セネカとクリスタのマスクを経由し、オレのデジタルマスクへと一気に逆流してきた。


 視界が真っ白に染まるほどの熱量。オレの脳細胞が、テスラコードの過負荷で焼き切れそうになる。


(これだ……これだけの出力があれば、届く……!)


 オレはリンコに右腕を踏みつけられたまま、血塗れの顔を上げ、メストルを睨みつけた。


「デジタルマスク、指向性音響システム──最大展開フルドライブ!!」


 ドン!!!!!!


 空間を揺るがすような、あまりにも重い四つ打ちの重低音。だが、その音波は四方に拡散しない。ギルの電気を燃料にして極限まで収束された『音のレーザー』となり、一直線にメストルの手元へ着弾した。


「な……が、あ、あァッ!?」 


 メストルが悲鳴を上げた。


 奴の手の中にある『懐中時計』が、オレの放った重力関数のコードをまともに喰らい、単なる発光を超えて、凄まじい熱と振動を放ち始めたのだ。


「何だこれは!? 熱い……時計が、私のクリスタルのエネルギーを……吸い上げて、いる……!?」


 そうさ、気づくのが遅えんだよ。


 お前が指輪のクリスタルから放っている重力波は、元々は奴隷から搾取した人工的な『歪み』だ。対して、オレが音に乗せたコードは、宇宙そのものの運行に近づけた『真の重力関数』。


 純度の低い偽物の重力は、本物の関数の導線に触れた瞬間、すべてそっちへ吸い込まれて相殺そうさいされる。等電位化させるのは電気だけじゃねえ。お前が何万年もかけて溜め込んだ重力エネルギーごと、その懐中時計を媒介にして、オレがハックしてんだよ!


 ズズ、ズ、ズン……!


 空間を押し潰していた不可視の万力が、嘘のように霧散むさんしていく。


「グッ、ガハッ……! 私の、私の重力場が……消える……!?」


 メストルが狼狽ろうばいし、懐中時計を投げ捨てようとした。だが、強欲なお前の皮膚に、熱せられた懐中時計の金属がじりじりと焼き付いて離れない。


「リンコッ!!」


 重力から解放された瞬間、オレはバールを握る左手に全神経を集中させた。


 だが、リンコはまだ止まらない。うなじの独立クリスタルが禍々しく赤黒く光り、オレの右腕を完全に折り切ろうとさらに体重をかける。


「──レンさん、そこを動かないで!!」


 背後から飛び出してきたのは、龍のOSを限界突破させたクリスタだ。彼女の瞳は完全に龍の縦スリットへと変わり、凄まじい速度でリンコの死角へと滑り込む。


 狙うのはリンコじゃない。そのうなじに刺さる、メストルのクリスタルだ。


「ハァァァァッ!!」


 クリスタの手刀が、高密度のアンチ・エーテルを纏ってリンコのうなじへと突き立てられた。


 パキィィィン!!!


 激しい閃光と共に、リンコのうなじのクリスタルが大きくひび割れる。


「ガ、ア……ッ」


 リンコの動きが、初めてピタリと止まった。その隙を、オレが見逃すはずがない。


「っらぁぁぁぁッ!!」


 オレは掴まれていた右腕を強引に引き剥がし、床に転がっていたバールを引ったくる。狙うは、重力を奪われてただのトカゲに成り下がったメストルだ。


「ひ、う、動くな! 動くというなら、この懐中時計を叩き割って──」


 メストルが必死に、手に張り付いた時計をもう片方の手で壊そうとする。


「それはリンコの宝物だ! させねえよ!」


 オレはプラズマの刃をあえて出さなかった。超高熱のエネルギーじゃなく、オレたちの怒りと、奪われた奴隷たちの怨念を、このバールにそのまま乗せる。


 ブンッ、と空気を切り裂く音が響く。


 オレは全力の踏み込みから、メストルの顎目掛けてバールを全力で振り抜いた。


「が、はっ──」


 ゴッッッ!!! というエグい肉声と共に、メストルの巨体が真上へと跳ね上がる。


「ギル! セネカ! トドメだ!!」


「言われなくてもなぁッ!!」


 跳ね上がったメストルの身体に、ギルが最大出力のテスラ電撃を叩き込み、空中で肉体を硬直させる。


「これで、終わりィィィ……!」


 死角から現れたセネカが、メストルの胸元に向けて鋭い回し蹴りを叩き込んだ。


 ドガァァァン!!!


 三人の連携を喰らったメストルは、動力炉の最も深い亀裂の奥底へと、真っ逆さまに叩き落とされていく。


「おのれ……おのれぇぇぇハッカーどもがァァッ! アトランティスの神たる私が、このような地を這う虫ケラどもにィィィッ!!」


 闇の底へと消えていく悲鳴。


 かつてアトランティスの思想を支配した王は、自分自身の強欲と執着に足元をすくわれ、無様に最深部の底へと沈んでいった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。