第七十二話『作戦会議』
「まずだ。王宮の真ん中にはクリスタルのピラミッドがある。ハエ型ドローンで偵察したときに見たアレだ。そのクリスタルのピラミッドは、大陸の東西南北にある4つのオリハルコンのピラミッドと同期して、大陸全土に洗脳周波数を流してる」
「ふむふむ」
ギルの説明にセネカが相槌を打つ。さらにギルは続ける。
「でだ。王宮にいる十人の王の能力や、王宮にいるアンドロイド、そのほかにも様々な電力で動くすべてのものは、このピラミッドなしでは動かないってことだよ」
「なるほど! だから心臓部である真ん中のピラミッドを叩けば」
「ああ。すべてのエネルギーが停止する。十人の王がめちゃくちゃに強い能力を使ってんのも、それがあってこそ成り立っている。クリスタみたいに媒介ナシで能力を使うことはできないってことだ。──おい、レン。分かってるだろうが、ハエ型ドローンで場所は把握できているが、簡単に中枢へ辿りつけると思うなよ」
「?」
「なんのセキュリティもなしにその中枢──核となる部屋に大人しく通してくれるとは思えない。かなり危険だぞ?」
「ああ。だが、それしかない」
「何か作戦とかあんの?」
セネカがオレたち二人に尋ねる。
「作戦なら、……ある」
オレは床に転がっていたバールを拾い上げ、その冷たい感触を確かめながら不敵に笑った。
「セキュリティなら、ギルのテスラコードとオレのバールで強行突破する。だが、問題はその先──クリスタルのピラミッドの核がある中心部だ。普通に近づけば、十人王の防衛周波数でオレたちの脳みそが焼き切られる」
「じゃあどうすんのよ!」
セネカが焦れったそうに身体を揺らす。
「その洗脳周波数を逆手に取る。……クリスタ、お前の『龍のOS』の出番だ」
オレが名前を呼ぶと、ひび割れたマスクの奥でクリスタがハッと息を呑んだ。
「王宮の連中は、地下街の『龍のOS』を持つ人間をどれだけ周波数で洗脳しようとしても屈しなかったから、あえて地下街に隔離して分割統治した。それはつまり、オレたちの持つ『松果体』が、奴らのクリスタルピラミッドのエネルギーを拒絶する『最強の妨害電波』になるってことだ」
ギルが顎に手を当て、オレの意図を察して目を細める。
「なるほどな。クリスタのエーテル波の出力を最大にして、オレたちが『龍のOS』のシールドに隠れて進めば、ピラミッドの防衛システムはオレたちを『認識すらできない』完全なステルス状態で核までたどり着ける」
「そういうことだ。それに、王宮のインフラをハックしててずっと睨んでたが、奴らのピラミッドは大陸全土に洗脳電波を流し、常に限界ギリギリの過負荷状態で動いてる。奴隷の不安や恐怖のエーテルを四六時中吸い上げなきゃ維持できねえほどにな」
オレはバールを強く握り直した。リンコをハックした時、アイツの脳の最深部には、オレのバールでも傷一つつけられない真っ黒な『SSS級の強固なプロテクト』がかかっていた。
アイツが王宮の図書室で何を見て、何を背負わされているのか、その中身(記憶)はオレには見えねえ。
だけど、だったら話は早い。
外側からシステムごと全部ブチ壊すだけだ。
「ただでさえ限界寸前の心臓部に、オレがこのバールでハッキングすれば、奴らのエーテルなんて、あっという間にメルトダウンする。エネルギーを完全にシャットダウンさせて、十人王の能力を無効化すれば、メストルの洗脳周波数もすべて完全に機能停止する」
オレはバールを肩に担ぎ、王宮のさらに深部へ続く暗い通路を見据えた。
「十人王の独占してるフリーエネルギーの心臓部をブチ壊して、アトランティスを一度、完全な『圏外』に叩き落とす。……リンコをあの地獄から引きずり戻すのは、奴らのシステムをすべて文字通り『一匹残らず』機能停止させてからだ」
セネカは呆然とオレの顔を見た後、ふっと鋭い犬歯を覗かせて笑った。
「フン……。相変わらずイカれた発想だけど。リンコ様を救うには一番いいな!」
「決まりだな」
ギルがデジタルマスクの出力を上げ、重低音のベースラインが再びマザーラボの静寂を震わせ始める。
「場所は下だ。ハエ型ドローンが進んだ方向を行く」
「詳しい位置情報なら大丈夫です!」
クリスタは念には念を押して言う。
「念のため、迷わないように案内します! わたしの『龍のOS』はクリスタルの位置を把握できます。ついてきてください……っ!」
クリスタはひび割れたマスクのバイザーを指先で叩き、ノイズの混じるインターフェースを強引に再起動させた。
「リンコさんをカプセルから救い出したことで、ラボによる『龍のOS』の逆探知スキャンが強制停止しました……! 最高警戒モードが解けた今なら、わたしのエーテル波で王宮の目を完全に誤魔化せます。敵が異変に気づいて再スキャンを始める前に、急ぎましょう!」
「……なるほどな。セネカ、お前が見えない身体でギリギリになってあの解体レバーを見つけてくれたから、このチャンスが生まれたわけだ。助かった」
ギルが銃を構え、油断なく左右を警戒しながら歩き出す。
オレのすぐ横でフンと誇らしげに鼻を鳴らす。ハッキングなんて難しいことは1ミリも分からなくても、その透明な身体を張ってリンコのために命を懸けたセネカは、今、オレの足元にピタリと従っている。
「待ってろよ、リンコ……。今、そのクソみたいな王宮ごと全部機能停止してやる」
オレは右手に馴染んだバールの冷たさを確かめ、クリスタの先導に従ってマザーラボのさらに奥、暗黒へと続く歪んだ螺旋階段へと足を踏み入れた。
下へ、下へと降りていくにつれて、さっきまでの解体室の不気味さは消え失せ、代わりにむき出しのオリハルコンの配管と、見たこともない巨大な基盤が壁一面を埋め尽くしていく。
ドクン、ドクン、と、どこか遠くで巨大な心臓が拍動しているかのような、地鳴りに似た重低音が足元から響いてくる。
それは、アトランティス全土の奴隷どもから吸い上げられた『不安』と『恐怖』が、ドス黒いフリーエネルギーへと変換され、流動している音だ。
「……見えてきました! あの扉の向こうです!」
クリスタが指差した先。
階段を降りきった最深部に、王宮の紋章が刻まれた、重厚な円形の隔壁がそびえ立っていた。
その隙間からは、目を灼くような、禍々しい結晶の光が漏れ出している。大陸の東西南北にある4つのオリハルコンピラミッドを束ねる、アトランティスの心臓──中央クリスタルピラミッドの『核』。
奴らのすべてのシステムを、文字通り機能停止させるための戦場が、目の前に広がっていた。




