第七十一話『忘れてたこと』
メストルが去ったあと、空間の重力制御が解除され、一気に身体が軽くなる。オレは立ち上がるとすぐさま、どこに行ったか分からないリンコを追うために、ボロボロの身体を抑えながら叫ぶ。
「リンコを助ける──」
「待て」
「待ってられるか!!!!」
オレはギルの掴んできた手を振り払い、リンコの元へ向かおうとする。
「場所はわかんのか?」
「しらみつぶしに当たる」
「無謀だな」
オレはいつになく、ギルのこの冷静さに苛立ちを覚える。感情的にならないコイツは人としてどうなのか? とさえ思ってしまう。
「感情的になれば、奴らの思うつぼだ」
「これが感情的にならずにいれるっていうのかよッ!」
そういうオレの表情を見てギルどころか、セネカまで冷静でいる。なんだよ。オレがムネセウスに殺されかけた時は、あんなに激昂していたセネカなのに。今、落ち着きを取り払っているこいつらが妙に人間じゃないみたいに見えてしまう。
「気持ちは分かるけど、ギルの言う通り。ここにいる全員が気を取り乱したら奴らの思うつぼ」
「なんであの時は──ムネセウスの時は──リンコが連れ去られた時に怒ってたのに今はそんなに冷静なんだよ!!」
「……思い出したから」
「はぁ……!?」
「メデューサのラボで人体実験されていた仲間の顔や、それを助けにきた人間たちの行く末」
オレはセネカの言葉に戦慄を覚える。コイツは『何か』知ってるんだ……。
「今みたいに気を取り乱した人間は真っ先に奴らによって殺され、解体される。奴らの前では人間的な感情は真っ先に食い物にされるってことだ」
「………っ」
ギルも何かを思い出したように、眉を顰める。コイツも王宮で元技術奴隷をしていた。こいつの身体にあるテスラコードは、死んだ兄貴分──仲間の形見だ。その時に見た凄惨な光景はオレの想像を絶するものだろう。
「この状況にたいして軽く見ろって言ってるわけじゃない。必ず奴らを出し抜く方法があるはずだ──」
ギルがそう言うと、オレは頭をフル回転にして、今までの王宮のやり方を整理する。洗脳周波数、フリーエネルギーの独占、奴隷システム、インフラ、量子テレポーテーション、重力のコントロール、歴史の隠蔽、宇宙の隠蔽、そのすべてを無効化する何か。
必死に考えた末に、そんなすべてを牛耳る強大な敵にたいして、如何に自分が無力であるかを痛感するだけだ。
「…………っ」
無力──。ん? ……待てよ。
重大なことを忘れていた。東西南北のオリハルコンのピラミッド、オリハルコンは送電機。その送電機を動かすための中枢があった。龍のOSを使うクリスタの脳の中心に松果体があるように。
「あ……」
思わずオレは息を漏らす。初めから勝てない敵を相手にしてるなら、その敵の心臓部を突くしか、もう手段はない。
「おい、ギル!!!! めちゃくちゃ重要なことを忘れてるぞ!!!!」
「なんだ……?」
ギルが落ち着きを取り戻したオレを見て安心したような顔をする。
「ハエ型ドローンが見つけた王宮の真ん中にあるクリスタルピラミッドをハッキングして王宮のインフラを機能停止させることが当初の目的だったじゃねえか」
ギルはかなり呆れたようすで、頭を抱えながら言う。
「忘れてねえよ……。取り乱したお前が忘れてんだよ。次の目的はソレだ。リンコが攫われたのはイレギュラーだったがな。このままリンコを追うよりも、そっちを優先したほうがいい。幸運なことにメストルはリンコを殺さず手元に置いておきたいそうだしな」
「詳しく説明しろ」
セネカがジト目でオレたちを睨みながら、リンコを救う手立てを聞いてきた。




