第六十九話『クソ野郎』
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下の方から、ジジジジ、バチバチッって、クリスタちゃんのエーテル波みたいな音と、レンのバールが機械をひっぱたいてるような景気のいい音がここまで響いてきている。
あいつらが何かしらの敵を相手に大暴れして私のために派手に囮になってくれてるな。サンキュー、ツキシマレン! あとでリンコ様との結婚式に、席は用意してあげないけどな!
だけど、その大騒ぎのせいで、マザーラボ全体の防衛システムがガチギレしちゃってる気がする……。さっきからなんか天井にある赤いランプがチカチカ光ってるし。
おまけに通路の天井のスピーカーからなんかアナウンスが聞こえてきた。
『防衛セクターB4の解体処理を最大出力へ移行』
「え、ちょっと待って……解体処理を最大って、それリンコ様のことじゃん!」
私の野生の勘が、頭の中で大音量の警告アラームを鳴らす。
のんびり歩いてる場合じゃない! 私は消えかけの軽い身体をブン回して、通路の突き当たりにある、禍々しい赤いランプがぐるぐる回る『最深部セクター・解体室』のエリアへと飛び込んだ!
──そこは、さっきの部屋よりもっと広くて、もっと薬品と獣脂の匂いが濃い、マザーラボの一番エグい中心地だった。
天井からは、のたうち回る蛇みたいな黒いコードの塊がびっしりぶら下がっていて、その真下に、緑色のドロドロした液体を満たした巨大なガラスカプセルがドーンと鎮座している。
「リンコ様……ッ!」
カプセルの中で、無数の不気味なコードに全身を繋がれて、苦しそうに目を閉じているリンコ様が見えた。
カプセルの横のパネルでは、デジタルタイマーが無慈悲に『00:00:50』とカウントダウンを表示してて、機械がドクンドクン動くたびに、リンコ様の腕のデバイスからバチバチ電子火花が飛び散っている。ムネセウスとかいうクソ野郎(?)の姿はないけれど、あいつ、遠隔操作でリンコ様をキメラの材料にリサイクルしようとしてるんだ!
「今助けます! リンコ様!」
私はカプセルの制御パネルに駆け寄って、緊急解放と書かれてるレバーに手を伸ばした。
だけど、その瞬間──
スカッ。
「あ、あれ……?」
私の半透明の手は、焦りで質量を完全に失っちゃってて、レバーの金属表面を虚しくすり抜けた。何度掴もうとしても、今の私はバグって消えかけてるから、レバーを押し下げるだけの『重さ』が足りないってこと?
嘘でしょ、ここまで来て触れないなんて聞いてない!
タイマーは残り40秒を切っていく。カプセルの液体がゴボゴボと激しく泡立ち始めて、リンコ様がさらに苦しそうに顔を歪める。
「動いてよ、私のバカな手!! リンコ様と籍入れるんだから!! 動けぇぇぇっっっ!!」
私が透けかけた両手で必死にレバーを叩こうとしていた、その時だった。
バァァァァァンッ!!!!!
解体室の入り口にある円形ハッチが、ものすごい音を立てて蹴り破られた。
薬品の霧を強引に切り裂いて、血と硝煙の匂いを纏った、あの最高にウルサイ男がバールを引っ提げて怒鳴り込んできたんだ。
「ムネセウスのクソ野郎ォォォォオオオオッッッ!!!!!!」
──ツキシマレン。
あいつ、エーテルディスコに向かった時みたく、ズンズン狂ったようなデジタルマスクの音を響かせながら、怒りで目を血走らせて一直線にこっちへ突っ込んでくる。
「セネカ! そこをどけッ!! オレがブチ壊す!!!」
私の姿がカゲロウみたいにブレて透けているのに、レンの野生の眼光は、ちゃんと私を捉えて叫んでいた。
「──、頼んだ、ゴミ虫ぃぃいいいい!」
私はレバーの前からパッと飛び退いた。
次の瞬間、レンが両手で大上段に構えた鉄バールが、リンコ様を閉じ込めるカプセルの主電源基板へと、凄まじい風切り音を立てて全力で振り下ろされた──!




