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アトランティスに転生したら現代よりも奴隷社会だった件  作者: 和子・F・和夫
第一章『狂った計画と政府の陰謀』

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第六話『オリハルコン』

 わたしは生まれつきオリハルコンアレルギーを持っている。だから、長時間オリハルコンに触れると、頭痛、過呼吸、心拍数の上昇で、マトモに学校の授業も受けられない。


 学校にはこのオリハルコンがあちこちにあり、授業でも使用頻度が高かった。巷ではオリハルコンの採掘とは言うものの、その実態は『(きん)の採掘』である。わたしは(きん)自体にアレルギーはないけれど、人間の手が加えられた特殊合金オリハルコンに、強いアレルギー反応が出る。原因は不明で、現在、王宮の医者たちが、わたしの未来のために、特効薬を作っているという話だ。


 思えば王宮の壁や、ヴィマナの装甲、エネルギーの送電線と、学校のみならず、この国のほとんどのインフラがオリハルコンで作られている。


 オリハルコンは電気と人間の精神エネルギーを100%の効率で伝導する性質を持つ。だから、毎晩父と母にこういう風に叱られる。


『お前の精神が弱いから、信仰のチカラが足りないから。そんなことになるのだ』


 そう叱られたわたしは毎日弱い自分に打ち勝つために、オリハルコンを触り続けた。けれど、何度触り続けても、アレルギーの発作が出る40分の壁を超えることはない。次第にオリハルコンに触らないようになったわたしを父と母は激しく糾弾した。


「なんでこんなことになるのかしら。ねぇ? 今日もトートの叡智の図書館でお父様とお勉強してきたんでしょう?」


「40分経つと使い物にならない欠陥品なのに、あいつときたら、くだらない絵本を読んでいたんだ」


 わたしはまどろみの中、部屋の外から聞こえてくる父と母の声に耳をすます。重い瞼を開けるとオレンジ色の柔らかな光が視界を優しく満たした。わたしはそこで王宮のベッドに運び込まれたことに気付く。枕元に置かれたランプの灯りが、木目調の落ち着いた室内を照らしている。


 いつものわたしの部屋だ。


 身体を動かそうとしたが、全身がひどく気怠い。しかし、横たわっている大きな四柱(しちゅう)ベッドは驚くほど心地よい。ふと横を見ると締め切ったカーテンの隙間から人工太陽の光が差し込んでいた。ベッドの脇の木製テーブルに瑞々しい薔薇の花が生けられているのが見える。かすかに漂う花の香りが疲れたわたしの心を静かに満たしていくようだ。


 わたしは愛されている。役に立たないとは言われても、それはわたしが本当に役立たずだから。お父様もお母様もわたしに期待してくれているから、厳しく接してくれている。こんな役立たずをわざわざ王宮の寝室まで運んでくれた。愛してくれているから飴と鞭を使ってわたしを教育してくれている。わたしはそうやって腑に落ちるまで自分の心に言い聞かせる。


 すると、寝室の扉の向こうからまたしても父と母の声が飛びこんできた。


「それで? どうするの? 王宮の特殊部隊として、あの子は」


「今日まであの《欠陥品》にたいして甘く見てやったが、もう限界だ。今まで王族の後継人という跡取り問題のために教育をしてきたが、この調子じゃもう使い物にならんだろう。虚偽の申請にはなるが、王宮に取り合って、あのガキは孤児ということにすればいい。孤児院に引き取ってもらうのが最善策だろう」


「っ……」


 絶望の中、意識が遠のく。どうしてどうしてどうしてと、繰り返し同じ言葉が脳内をリフレインする。今までお父様とお母様に愛されるために努力してきたのに。その努力が徒労に終わることが現実としてまざまざと突きつけられる。神様を信じれば救われるんじゃないの? ベリアル聖教は、わたしのような迷える子羊ほど手を差し伸べてくれるんじゃないの? ただ、不器用なりとも、信じ続けていれば必ず報われるという教義をわたしは今日初めて疑ってしまった。


 そこでわたしは、今日か昨日か、それすらも分からないけれど、1日中真昼のような世界で痛烈にこころへと刻まれた、あの言葉を思い出す。


 【──ありもしないものを信じたり、手を伸ばそうとするのは愚かなことだ。】



 ベリアル聖教によって救われている人たちがいることももちろん事実だ。だけどその神様は、蜃気楼のように、わたしが手を伸ばすと儚く消えてしまう。


 ある人にとってはそれが事実でも、わたしにおいての事実とは違う。神様は能力の高い人たちにしか手差し伸べないのだ。弱くて、出来底ないで、欠陥品のわたしが、夢を見たのが間違いだった。それは、ムー大陸のおとぎ話となんら変わらない。


 わたしはここである決心をする。


 ──誰よりも強くならなくちゃ。誰よりも強くなって、誰よりも能力を伸ばして、誰にも文句を言わせない圧倒的なチカラ。それがあればもう二度と大切な人を失うこともないだろう。こうやって誰かを失望させたり、迷惑をかけることもない。結局は全部自業自得じゃないか。お父様とお母様の教えは何も間違えてはいなかったし、最初からこう言われていたのだから。


【──格付を上げ、王宮に貢献することが人間の価値だ。それ以外の人間には……。】


【──価値はございません。そうですよね? お父様。】


 あの時のわたしはバカだった。その言葉の意味を表面上だけ受け取って、暗記して、復唱しているだけ。今になって痛烈に、心の奥底に突き刺さる。ベッドの心地良さは、鉛のような重たさと冷たさに変わり、世界から突き放されたような空虚感がわたしを襲った。


 そこから先の記憶はあやふやだ。父のヴィマナに乗り、母にはこれからいいところへ連れて行ってあげると言われ、放心状態で、後部座席に座る。ヴィマナの、反重力装置が起動し、空へと浮かび上がる。ヴィマナのガラス張りの窓から見下ろすアトランティスはいつもよりも作りもののように思えた。


 もう二度と家族とは見れない景色なのに、心が空っぽで何も思わない。わたしはぼうっとしながら、大陸の東西南北の果てにそびえ立つ巨大なオリハルコン製のピラミッドタワーを見た。それらは中央の王宮にあるクリスタルと、レイラインで同期している『中継基地』だ。その四つのオリハルコンは、アレルギーを持つわたしにとって『お前に逃げ場なんてないぞ』という神からの脅迫のように思えた。この檻の中でわたしは暮らす。強くならないと存在がなかったことにされるから。


 ヴィマナは徐々に下降していき、目的地の孤児院に着こうとしている。あれこれ考えているうちに、反重力装置の起動が止まり、地面へゆっくりと着陸した。意識が呆然としている。父は何も言わず、最後に覚えている言葉は『そこで良い子にしてたら、また迎えに来てあげる』という母のウソだった。


 振り返っても、もうヴィマナと、父と母はいない。ぽつんと残されたわたしの前にあったのは、ひどく古びた二階建ての石造りの寄宿舎(きしゅくしゃ)だ。


 壁のレンガはどれも煤けて黒ずみ、角の石は欠け、長い年月ここで孤独に耐えてきたような佇まいを見せている。二階のいくつかの窓は、ガラスがあるのかさえ分からないほど暗く虚ろに口を開けていた。


 一階の窓の白い格子だけが、濁った景色の中で妙に浮き上がっている。優しさなど微塵も感じられない、ただ頑丈なだけが取り柄のようなその建物は、これからのわたしの味気ない運命を予言しているようだった。湿った土の匂いと、背後に迫る森の気配が、わたしの小さな肩をさらに重く包み込む。わたしは意を決して、ペンキの剥げかけた、今にも壊れそうな赤い扉へと一歩を踏み出した。

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