第六十二話『折れかけた心』
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オレは──弱い──。
──リンコを守れなかった。
一度ならず、二度も、レプティリアンに殺されかけた。
転生する前と何も変わっちゃいない。毎日働いても生活が良くならなかったあの泥沼の日々。いつも目の前のことで頭がいっぱいで、問題を先送りにしてるだけ……。今日だってリンコのことを心の底から楽しませたかったのに、悲しいことや辛いことを思い出させちまった──。もし王宮からの襲撃があった場合のことを考えず、目の前の楽しいことに目を奪われ、結局は『現実的』に物事を見れていない。何が子ども心だ。ただの夢見がちなガキで、ただの理想論を熱く語ってるだけのクズ。そんなクズは………世界から消えたほうがいいよな……。
何か音がする。ここはどこだろう? 今の時刻は? リンコは無事なのか? 自分の背中や腕や足が修復されていく音。聞き覚えのあるあの音。オレはまた治療されているのか──?
『おい──レン。起きろ』
『レンさん。目を覚ましてください──』
「かはっ──」
オレは重たい意識のなか、現実に戻るための細い糸を掴むように目覚める。
──NTR秘密基地
視界がゆっくりと開けていく。
錆びた配管の天井。そして──オレの傍らに跪き、エメラルドグリーンの光を放ちながら、必死に両手を翳しているクリスタの姿だった。
耳の奥で鳴り響いていた『キィン』という高周波の駆動音と、肉体が超高速で再プログラミングされていく『カチ、チチ、チ……』というあの音が、ゆっくりと遠ざかっていく。
ムネセウスの放った凶悪なフリーエネルギーの残光を、クリスタの『龍のOS』が、今度も力任せに中和し、霧散させてくれたのだ。
「ハァ、……ハァ、……っ。レンさん、……よかった、命のログの修復……間に合いました……っ」
光が収まると同時に、クリスタは脱力したように敷布団の横に手をつき、激しく肩を上下させた。すぐにギルがポケットからクリスタルを差し出し、クリスタはそれを額に当ててシュゥゥゥゥ……と黒いモヤを吸い込ませ、呼吸を落ち着かせていく。
「クリスタ、すまねえ……。また、お前に救われたな……」
オレは完全に修復された身体をガバッと起こし、、ソファーの下に敷かれた敷布団の上で拳を強く握りしめた。
肉体の傷は消えた。だが、脳裏に焼き付いた『目の前でリンコを奪われた』という絶望の火傷は、どんな魔法でも消せやしない。
「お前!! リンコ様を何故お守りしなかった!?!?」
セネカが、荒い呼吸で肩を上下させながらオレの胸ぐらを掴んで激昂する。
「…………っ」
オレは何も言えず、セネカから視線を外すことしかできない。
「おいセネカやめろ」
ギルがそれを止めると、セネカはふんと鼻を鳴らし、掴んでいた胸ぐらから手を放して、オレを睨みつけたままソファーに座った。
「俺が花火大会の裏方が終わった直後、第三パーク公園の奥の方から、デカい音がしてな。音のする方に行ったらお前が血まみれで倒れていた。リンコは無事なのか? 何があった?」
「王宮科学神官 十人王の一人ムネセウスに会った──」
「!?」
ギルが驚きで目を丸くする。そのまま目を細め、オレに言う。
「……バカな。あいつは今回の事件とは一切関係ない。思想統制は奴の管轄外のはずだ」
「奴の独断行動だと思う……。リンコを救おうとしたけど、恐らく王宮の量子テレポーション技術で。手を掴もうとした時にはもうリンコは……」
「連れ去られたってわけか」
「…………っ」
「だったらタイムリミットは近いぞ、レン」
ギルがレンチを握り締め、オレの知っている『その先』の予測をする。
「おそらく十人王の評議会は、偽インプラントを剥がされたリンコを『用済み』と判断した。多数派の意見は、彼女の身体を解体し、生体キメラのベースにする方針だろう?」
「ああ。ムネセウスがそう言った。遅かれ早かれ奴らはそのプランで動こうとしていた……なのにオレは……」
オレが自分自身を責めて、視界が濁り切って澱むその瞬間だった。
パァァンッ──、とオレの頬に衝撃が走る。ふと我に返るとそこにはソファーから立ち上がり、オレの頬に平手打ちしたセネカが立っていた。セネカはその瞳に涙をため、必死にオレを睨みつける。
「目ェ覚ませ! ゴミ虫! リンコ様が攫われて悲しいのはお前だけじゃないんだ! 悩んでる暇があるなら今すぐ助けるために動け!! リンコ様はな。リンコ様は……」
「…………っ」
すると、急に言葉に詰まったセネカが今度はオレに向かって手を突き出して言う。
「……おい今回だけはお前と手を組んでやる……ッ! リンコ様を助けるためのタッグだ!」
オレはその手を思いっきり掴み、リンコを絶対救うという覚悟と共に『ああ』とセネカの目をまっすぐに見据えた。
「セネカの言う通りだ。悠長に悩んだり無駄話をしてる時間はない。リンコは今頃、王宮の最深部へと移送されている。だが、そのまま助けに行くのも相手の罠にまんまとハマりに行くようなもんだ。作戦会議が必要だ」
「わ、わたしも行きます……っ! ムーの超科学がリンコさんを救うための役に立つかもしれません!!」
「セネカ……ありがと。目ェ覚めたわ。王宮がどれだけ非情なシステムで世界を縛ろうが、そのシステムごと、オレが完全に機能停止させてやる……ッ!」
オレは血に汚れたバールを、今度こそ迷いなく、限界以上の力で握り直した。
「ギル、セネカ、クリスタ。作戦開始だ。王宮の最深部へカチコミをかける。リンコを必ず連れ戻し、あのクソレプティリアンどもを一匹残らず駆除してやる──!」




