第五十六話『むっつりスケベのギル』
翌日AM 11:45
試作品一号が正常に作動するかを確かめる方法をオレが熟考していると、女子三人が秘密基地にやってきた。
「おはよ」
「おはようございます……っ!」
「おっはー」
「おはよう! 諸君! 今日も元気にいこう!」
ギルは『おはよう』も言わず、作業デスクで真剣にタイムリープマシンの動作を確認していた。挨拶しろよ。大事だぞ。
そしてなんだかんだ挨拶を終えたあと、作業デスクにいるギルのタイムリープマシンをリンコが覗き見る。
「……フン。見た目は最悪だけど、わたしの組んだプログラムは、一応エラーを吐かずに待機モードに入ったわね。ギル、わたしのデータバッファのおかげなんだから、少しは感謝しなさいよ?」
「ああ、ありがとな。おいレン、お前も感謝しろ」
「お、おう。ありがとう。お前ら」
「…………っ」
リンコは頬を染めて、オレのことをじぃっと見てる。最近のコイツはなんかおかしい。もしかして
「リンコ──顔赤いぞ……。また体調悪かったりするのか?」
『な、なんでもないっ! そういうんじゃないから!』と言って、ぷいっとそっぽを向く。
また、頭痛でも起こしたら心配だ。リンコのことは常に観察を怠らないでおこう。
リンコはふいっと視線をタイムリープマシンに戻し、ギルの作業を目視している。
「よし……。形になった以上、このまま微弱電流での『初期起動テスト』に移行する。出力調整器のチェックも完了だ、いつでもいける。だが、あまり無理はしないほうがいい。回路のバイパスはまだ仮組みだ」
ギルが寝起きの眠気覚ましの新しいタバコを咥え、警告するように顎をしゃくった。
オレはギルとリンコが並ぶ方へと向かい、
「分かってる。一瞬だけ、脳波の同期ログを取るだけだ。いくぞ……システム、起動!」
作業机の隅にあるメインスイッチをパチンと押し込んだ。
その、わずか一秒後だった。
『──キィィィィィィン!!』と鼓膜を鋭く刺すような高周波がアジト中に響き渡り、純白だった光が、一瞬で禍々しい真紅のエーテル光へと変色した。
「え……!? ちょっと、出力バッファが異常過負荷を起こして──」
リンコが目を見開いて叫んだ瞬間。
「ど、どわあああああああああああああああッッッ!?」
作業机の中央から、激しい爆風とハンダの火花、そしてアトランティス・コーラのアルミ缶がロケットのように天井に向かってブっ飛んだ。
オレは慌てて床にスライディングし、頭の上をかすめていった謎のジャンクパーツを間一髪で回避する。部屋中に充満するのは、電子基板が派手に焼き切れた、あの特有の焦げ臭い煙だ。
「ゲホッ、ゲホッ! な、何よこれ……! ただの『部屋を破壊する不発弾』よ!!」
煤で顔を真っ黒にしたリンコが、クッションを盾にしながら叫ぶ。
その隣では、セネカが『リンコ様! お守りします! おい! ゴミ虫! リンコ様を危険な目にあわすな!』と、液体エーテルの空き瓶を両手に持って仁王立ちしていたが、シーツの下の足元がガタガタと震えていた。
「いや、違うんだみんな! 昨日作ったときは計算上完璧だったんだよ! ただちょっと、過去のタイムラインを探るアンテナの同軸ケーブルが、令和のラジカセ規格とアトランティスのエーテル規格で『お見合い』しちまっただけで……!」
「お見合いじゃなくて、完全なデッドロックだ、バカ」
ギルが呆れたようにタバコを咥え直し、天井にめり込んだアルミ缶を見上げた。
「おいレン、お前の言う『タイムリープ・シーケンス』とやらは、脳波を過去にペーストする瞬間の逆流エネルギーを考慮してねえ。試作一号機は、起動テストの微弱電流ですら、内部のオリハルコン・パイプが圧力を逃がしきれずに『自爆プロトコル』が走る仕組みになってやがった。これ、もし本番の最大出力で頭に被ってたら、お前の脳ミソは令和に戻る前に『消し炭のポップコーン』になってたぞ」
「ひ、ひえぇぇぇぇ……ポップコーンは困りますぅ……!」
クローゼットの陰から、クリスタが涙目で頭を抱えて縮こまっていた。
「くっ……! だが、オレたちの工作はまだ始まったばかりだ! 一号機がダメなら、欠陥をデバッグして『二号機』を作るまでよ!」
オレは煤だらけの顔で不敵に笑い、作業机に残った一号機の残骸をガサッとゴミ箱に叩き込んだ。
「……もう、本当に無茶ばっかりして」
リンコは呆れたように深いため息をつきながらも、そっとハンカチを差し出してくる。その手つきが心なしか少し震えていて、オレと目が合うと、すぐに『……ほら、次のコードの安全マージン削り直すから、あんたも新しいガラクタ集めてきなさいよ!』と、顔を少し赤くして作業机に背を向けてしまった。
手にはリンコのハンカチ。あれ……こんないいやつ使って良いのか?
ふと横を見やると、ギルがまたニヤリとむっつりスケベの顔で笑っていた……。




