第四話『オレたちのアジト』
地上の王宮は、一般奴隷たちが『俺たち搾取されてるやんw』と気づかないようにテレビ、スポーツ、風俗の究極進化系を遊び場として配給していた。
『ひゃっほー。今日も7万8000デジタルポイント勝ったぜぇえええ』
『オレは18万4000ポイント負けた……。もう、死にたい……。殺してくれ……』
例えば超高精細バーチャル・カジノ。
令和のギャンブル、競馬やパチンコやソシャゲのガチャとは桁違いの依存性がある。オリハルコンの微弱電波で脳のドーパミンを直接ブーストされながら、脳内ホログラムで一攫千金の脳汁ゲームに溺れる場所だ。
ホログラムに映し出されるのは、可愛い美少女キャラクターやロボットアニメ。それらはパチンコのように元ネタがあって、多くの人間が気軽に入りやすい仕様になっている。その演出は立体感がある上に、リアルよりもリアリティがあると脳が錯覚してしまうほどだ。脳のドーパミンを直接ブーストしながら、五感に訴えかけるホログラムが映し出される+お金もかかっているので麻薬と同レベル、いやそれ以上と言っても過言ではない。
近年これが原因で年間の自殺件数が増えてるとも言われている。
もう一つはアトランティスの研究所で造られた失敗作のキメラや、王宮に捕まった社不を、闘技場で殺し合いさせるゲーム。
『うおおぉおお! 殺っせ! 殺っせ! 殺っせ!』
『お前が死なないとオレの賭け金がパーになっちまうだろうがッッッ!』
コロシアムは毎回熱狂の渦に包まれている。これの何がヤバいかというと、ギャンブルと違い年齢制限がなく、子どもにも大人気なところだ。その理由は言うまでもなく、現代(令和)の子どもたちが、カブトムシや恐竜が好きなノリで、ミノタウロスや、スフィンクス、ケンタウロスが戦う姿を超カッコいい!と、眼をキラキラ輝かせながら楽しんでいる。3Dホログラムのカードゲームになるほど大人気だ。しかし子どもなのでその実態を深く考えることはもちろんない。
ミノタウロスは、人間の肉体に、雄牛のパワーと耐久力をパッチ適用した、身長3メートルの脳筋サイボーグ。地下街の肉弾戦や、オリハルコン鉱山の暴動を『物理』で圧殺するための広域制圧用キメラだ。
スフィンクスは、ライオンの身体、人間の知能、鷲の翼を組み合わせた、王宮エリア専用の『自律型AIセキュリティキメラ』。空を飛びながら、不審な社不を見つけたら目からエーテルレーザーを撃ってくる。ケンタウロスは、下半身が馬で、時速100キロ以上で爆走しながら、地下街の細い路地まで逃げた不適合者をどこまでも追い詰める、ガチの『追跡プロトコル』特化型キメラだ。
そして、もちろんこれらは、生命への冒涜を犯した王宮の人間が行った人体実験。元人間のキメラである。その闘技場では多くのマトモな方々がビールを片手に殺し合いを観戦したり、ファミリー層でわいわい楽しんだりしている。オレから観れば、正気の沙汰じゃない。彼らはストレスが溜まっている。そこで発散されたストレスエーテルがトカゲたちへ綺麗に回収されるというわけだ。
他にも、脳内メモリー・レンタルと言って、他人の『記憶』や『最高に気持ちよかった感情』がクリスタルに録音されてて、それを自分の脳にプラグインして直接体感する娯楽もある。違法視聴とは呼ばれているが、令和で例えるならR18のエロい画像や動画を18歳未満がこっそりみるぐらいの行為だ。別に逮捕されるわけではない。しかしこれが原因で、他人の記憶が流出したり、個人のプライバシーが脅かされるという問題が浮上している。
「はぁ」
ため息をつきながら、それらのアトランティスを支配している場所を通る。
まあ、そんなこんなで色んな場所を偵察するため、久しぶりに太陽を浴びるために地上へ上がり、この終わりすぎるほどに終わった街を散歩していた。
「なにあれー? 見たこともない服装してる人がいるー」
「しっ! 見ちゃいけません!」
あー! よくあるよねーなんて。よくある母と息子の水入らずの会話を右から左に受け流し、オレはアジトへと向かう。今着ているエーテルオイルの匂いが染み込んだ作業服は地下街の人間たちのトレンドマークだけれど。
この格好は最近地上では見ないらしい。だから子どもにとっては物珍しいんだろう。あの通りすがりの子どもは将来どんなふうになるのだろうか。きちんとこの地上世界を楽しめるのだろうか?
まあ、この地上には色々娯楽があり、ストレスが溜まってる奴にはさぞかし楽しいんだろうが。オレにはもっと別の楽しみがある。
そう、地下街の社不たちの唯一の聖地。エーテルディスコ。
アジトへ行く前に寄ろうかなーとも思ったが、だいたいの人はまだ働いている時間なので人も少ないだろう。エーテルディスコはまた今度だなと思っていると、気づいたら地下街への非常階段を降りていて、アジトが目の前にあった。重たい鉄扉を開けると錆びたガガガガという音と、ギィィ……という軋んだ音が鼓膜を揺さぶる。不快ではない。いつものあの音だ。
「お前は……。いつもノックしろって言ってんだろ。敵かと思って焦るだろうが」
「あー。わりぃわりい」
毎回悪いと思ってなさそうにニヤニヤしやがって……と言いたげな眼で、こちらに視線を向けてくる。まあ実際、その通りなんですけどね☆ テヘペロッ☆
目の前にいるのは地下街のジャンクインフラを牛耳る、タトゥーだらけの若き天才エンジニアの男。
ギル。
元々は地上でトカゲどもの召使い(技術奴隷)をさせられていたが、奴らの傲慢さにブチ切れ、自力で地下に脱走してきた過去を持つ。死んだ目でタバコをふかしながら、銀色のトレードマークの髪をかき上げる。モテそうなんだよなあ。ムカつく。
「あぁ? なんか用か?」
「いやぁー? 別に?」
オレはいつものソファに寝転び口笛を吹いて誤魔化すと、ギルが何かを手渡してきた。
「これ。クリスタルカプラ。あとはお前が配線を適当にいじって使ってくれ」
「ああ。サンキュー」
クリスタルカプラ。ギルが鉱山から極秘でくすねてきて、予備が何個もある使い捨ての物だ。あとはオレが配線を適当にいじくって、違法バイパスデバイスにする。
地下街のエーテルの通り道をいつも力技で叩き割っているが、ハッキングはそこで完了しない。まず、パイプの《ボルト》をバールで物理デバッグし、王宮へ向かってドクドクと高圧のエーテル(人間の労働エネルギー)を運んでいるオリハルコンの極太パイプの接続部、つまりセキリュティの脆弱性に、オレがバールをガチーン!!! と差し込んで、力技でこじ開ける。
そして火花が飛び散るパイプの隙間に、改造クリスタルをガチッとハメ込む。これで地上へ流れるはずだったエネルギーの流れが完全にストップし、地下街の違法回路へとルートが強制書き換え《リダイレクト》される。
その吸い出したエーテルを地下街全体にブロードキャストするための音響設備が、このアジトにもあるスピーカーだ。これでトカゲの『真面目に働け』とか『将来が不安だろ?』という冷たい洗脳電波を、ワンラブ(みんなで一つになろうぜ)に書き換え、爆音で鳴らすことができる。
さっき行こうとしていた地下街の社不たちの唯一の聖地には地下街で最も巨大なスピーカーがある。
トカゲの洗脳電波が届かない地底の空洞で、宇宙由来の重低音を鳴らし、魂を肉体から半分ハミ出させて、みんなでワンネスを感じながらトランスする、超次元クラブだ。
聴いてみな? 飛ぶぞ!!(※合法です)
オレがギルから、クリスタルカプラを受け取った瞬間──
コンコンコンとノックの音がした。誰だろう?そう思うのも束の間、
勢いよく、バァァアンッ! と鉄扉が開く。ギィィイッ……と、錆びた音を立ててドアが最後まで開くと、そこに立っていたのは鬼の形相をしたリンコだった。あ、やべ……。
賭けの話をしたのは昨日。だから、やつが今日からここへ毎日くるのは必然。
「なに。その怪しいものっ! 押収! 没収!」
「ま、待てっ。とりあえず、茶でも飲むか?」
「なにソファーで優雅にくつろいで敵を招き入れてんのよ!」
傍らにいるギルは目を丸く見開き、軽く驚いてる様子。蛍光灯のジジジ……というノイズが、ギルのこいつ誰? という視線と絡み合って、本当に居心地が悪い。ソファーで寝そべってるのにここまでの居心地の悪さ人生で初めてかも。
ギルの驚きも束の間。リンコとオレのことなんか見向きもせず、アジトの端っこにあるデスクでジャンク品の修理をし始めた。
お前どういう神経してたらそうなるんだよ。
「ギル! おい! 助けてくれ」
「女を連れてくるなんて、レン。お前も年頃だな」
ギルは、オレは分かってるぞ? あとは二人で仲睦まじくしてくれ。オレは邪魔せず、パーツの修理に専念するから──と言った顔で、座ったまま背を向ける。
「敵! 敵! お前の焦る要因が目の前にいるぞ!?」
「ノックはあった。敵かと思って焦らずに済んだ」
「お前の敵か味方の基準、ノックかよ!」
とまあ、そんなこんなでお茶を濁しつつ……。その濁したお茶をそのままリンコに提供してやろうかなと思っていると、
「仲間と楽しそうにしているところ悪いけど」
「!!!!」
アジトの中に緊迫した空気が走る。リンコは出会った当初の冷徹な表情で、オリハルコン製の二丁拳銃をオレたち二人に容赦なく向けてきた。
「昨日賭けの話をしただろう? 銃を下ろせ」
「あのあと王宮から任務が下ってね。まずは首謀者であるツキシマレンが占拠しているアジトへの視察。ここにある政府のインフラをハッキングした物品の押収。最後にここの破壊と、あんたたちの抹殺。それと」
約束は守れない──
そう冷たく言い放った瞬間、音もなく、一線の光がオレのこめかみのすぐ側を通過して、アジトの壁を貫く。壁からは硝煙がモクモクと立ち上る。オレはすぐさまバールを左手に持ち、ソファから立ち上がって警戒態勢をとる。ギルもアジトにあるもう一本の『ただのバール』を手に持ち、リンコの方へ向かって立ち上がる。
そこからは互いの攻防戦が繰り広げられる。レーザー光線をバールで無効化し、遠距離から取り押さえようと向かってくるリンコの手首を掴み、その二つの銃を叩き落とした。
それは時間にして1分足らず。カランという、銃の転がる音がアジトに響き渡る。オレはリンコの手首を掴んだまま、心の奥底から湧いてくる言葉を使う。
「お前さ。そんなに顔色悪くして、誰のためにそんなクソみたいな仕事を頑張ってる? ──親のため? 国のため? 誰かに認められたいからか?」
「うるさい! 適合できない落ちこぼれにわたしの何がわかるの!?」
まっすぐ目を見る。その目は一見冷たいが、奥に潜んでいる孤独感をオレは見逃さない。
まただ。またこの前みたいに冷たい表情が一気に曇っていく。無理をしているようにずっと見える。
本気で狙おうとすれば殺せるはずなのに、それができない。あえてそうしてるわけではないだろうが、無意識のうちにセーブしている。自分でも気づいていない心の葛藤。
高度な科学技術が発達するアトランティスで暮らしていると、脳内メモリーが保存されているクリスタルなんかにプラグインしなくても分かるようになってくる。本当の気持ちは隠せないってこと。
「社不のあんたになにが分かるっていうの!?」
怒りの目で眉間にシワを寄せる。声にも悲しみと怒りが入り混じっている。アジトの蛍光灯のノイズ音と、錆びた鉄の匂いと、オイルの匂い。そしてリンコの石鹸のような香水の香りがわずか、それに混じって鼻腔をつく。
「何にも努力してこず、ヘラヘラ笑ってるあんたになにが分かるってーのよ! くだらない同情や、憶測で他人をはかるのはやめて」
張り詰めた空気は今にもはち切れそうで、この世界から消えてしまいそうな儚さがリンコにはあった。これだけ怒っているのに、言葉の語尾には消え入りそうな小さな吐息が漏れている。
その時だった。全開に開いていたアジトの扉の奥の方からタッタッタッという小気味よい足音が聞こえてくる。
「天誅ーーー!!!」
聞いたことあるような声がアジトの3人に飛び込んでくる。そして全開だった扉から小柄な女の子が走り込んできた。
「気安くリンコ様の手を握ってんじゃねえよ。この社不!!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
手にはエーテル電磁警棒。それを思いっきり、オレの方へ向かって振りかざそうとしてきた。
「オ゛ラァァアア゛」
勢いよく。
だがそれは、勢いあまりすぎて、セネカは自分のマントの裾を踏んづけ、そのままソファーの前のテーブルに顔面からズサーーーッ!!! と滑り込む。
「痛い……(泣) リンコ様ぁ……(泣) ご無事でしょうかぁ……」
涙目で鼻血を出しながら、リンコの安否確認を取るが、今一番安否確認をとった方がいいのはコイツだろう。
『ほら。いるか?』と、ギルがアジトにあるティッシュボックスからティッシュを取り出し、セネカに手渡す。
一瞬で空気がギャグコメディになって、さっきまで緊迫していたのがバカらしくなったのか、張り詰めた糸がぷつんっと切れるように、リンコがくすっと笑った。
「なにそれ。もう、セネカったら」
大丈夫?と聞き、まるで保護者の顔みたく、ギルからティッシュを受け取って鼻をかむセネカの頭を撫でる。
さっきまであんな冷徹な顔をしたお嬢様だったのに、また表情を変える。そのギャップに目を奪われている自分がいることに気づく。
すると、
『あああああ!』という奇声と共に、セネカが未確認飛行物体や、世界の七不思議を発見したような顔で指をさした。
「なになに?」
「なんだ?」
「なによ。大きな声出して」
セネカが指を指す方には、アジトの床に置いてあるオレのバッグのキーホルダー。
「リンコ様とおそろ……」
じぃっと、穴が開いてしまうくらいオレのことを凝視してくる。
ええと。これはオレの趣味で、リンコ様と打ち合わせをして、同じものを買ったとかじゃないんだからネ!(ガチ)
リンコは掴んでいたオレの手をばっと強引に離し、挙動不審で、両手をバタバタさせながら
『た、たまたまよ!』と、アインシュタインも腰を抜かすレベルの光速を超えるスピードで言い放った。
このキーホルダーはギリシャ神話のアトラスがデフォルメされたものだ。可愛いマスコット、アトラスちゃんと言い、巷ではまあまあ人気だがキャラクターものなのでどちらかと言えば女の子に人気がある。男で持ってるやつは少ない。というか、周りにいない。
アトランティスなのに何故もっと後の時代のギリシャ神話か? って、都市伝説を話し出すと単行本一冊では収まりきらないので、割愛。
「え!? 好きなの!? どこが好きなの!? 見た目? ストーリー? キャラデザ?」
「ええと。アトランティスを作った王様であり、悪役でもありながら、最終的に自分もシステムの奴隷になってしまった、どうにも可哀そうで憎めないオチもいいし。あえてそれをめちゃくちゃかわいいウサギの女の子にするその設定もいい。ゼウスに怒られて『巨大な天球儀』をかついでるから巷では──」
「「社畜のウサギって異名もある」」
オレとリンコの声が見事にシンクロして共鳴した。それを皮切りに、お互いオタクみたいな早口でまくし立てる。
「え! お前かなりコアなファンじゃん! そうそう! 毎日、朝7時半アトランティスの地上波ホログラムでやってて、社畜って嫌だよなーって共感しながらコーヒー飲んで……。気づいたらオンラインショップでグッズとか買い漁ってた」
もちろん、借金のデジタルポイントだけど☆
「あ、わかる!! わたしもメンタルとか落ちた時、ついついオンラインショップでグッズ買って、アトラスきゅん♡ってなっちゃうっっ!!」
さっきの冷徹さとはキャラが変わったように、目をキラキラさせながらまくし立てるリンコに動揺を隠せない。それが秒でモロバレだったことに気づいたのか、コホンと誤魔化すように咳払いし、
「別にちょっと趣味が合うからって敵同士なのは変わらないんだからね」
と、チョロそうなヒロインみたいに開き直った。いや、開き直れてないんだけど!
「てめえ! リンコ様に色目使ってんじゃねぇよ! ゴミ虫!」
「えぇぇ!?」
なんで自分が好きなキャラのキーホルダーをバッグにぶら下げてるだけで色目なんだよ!
「良かったな」
煽ってくるギル。
……けどまあ、さっきまでの空気とは打って変わって、和やかな感じがして、その、いいな! うんうん。やはり可愛いものは戦争、紛争、貧困問題を救う!
「で、それとこれとは別で……」
別だった!
「大人しく投降しなさい」
武器を地面に落として、仲間も鼻血を出してるのに、まだオレが大人しく投降することに希望を抱いてるのか……。
戦争と、紛争と、貧困問題よりも、この女の心のほうがよほど複雑かもしれない。だいたい、この和やかな空気になってまだ職務を全うするとか、どんだけ王族と王宮好きなんだよ。もう特殊部隊向いてないよ。お前。内勤に変えろって……。
そんなツッコミを心のなかでぼそっと呟いた時、普段自分からは話し出さないギルがこの輪の中に入ってきた。
「俺もまあ、元・王宮で技術奴隷をやっていた。王家の血筋を引いた人間ではないが、王宮の味方をやっていたこともある。お前ら二人はなにか事情があって、こんなことをしてるんだろう?」
「事情? 社不が許せないから働いてるだけなんですけど。ねー! リンコ様―」
「そうね」
「…………」
ギルが口を開かなくなる。
うん。分かる。分かるぞギル!
こんな手ぬるいやり方で、大丈夫なのか? 王宮に怒られるのでは? と逆にこっちが心配になってくる。だからって、やられてあげようとは微塵も思わないけど。
「お前、本当にオレたちを始末する気あんの? 手ぬるくね?」
「だから何度も言ってるでしょう! 勘違いしないで。昨日王宮から命令が下ったのは、最初に言った通り、敵情視察。今日はアヌビス兵も引き連れてないから見たらわかるでしょ! 初めからここを破壊しちゃうと、あんたたちが政府から奪ったインフラの設備も破壊されちゃうの。インフラを人質に取ってるあんたらは卑怯なの! それに……」
短い息継ぎで立て続けに、リンコがまくし立てる。
「あんたの方こそ手ぬるくない? わたしたちを敵と見なすなら殺せばいいじゃん。え? なに? 女だからって意識しちゃってんの? キンモッッッ。──これだから地下街のゴミ虫って! 久しぶりに地上の女の子に会ったからって、地下街の社不が調子づき過ぎ!! さっきのアトラスちゃんの話で盛り上がったのも油断させるための演技だし。平民のくせに王族と仲良くなれるかもって勘違いホントだっさ!!」
まくし立てたと思ったら、思いっきり差別と誹謗中傷だった。泣きてえ。このアトランティスに誹謗中傷で訴える法律がなくて良かったな!! 令和だったら、お前を解雇させることも出来るんだぞ(泣)
「さっすが、リンコ様! こんなゴミ虫は言葉でもボッコボコにしてやってください!」
ふふんっと鼻高々に、差別と誹謗中傷を誇らしげに、さも勲章かのように掲げるお嬢様っぷり。お前、人気キャラクター投票落ちるぞ?
すると、
『王族の方がゴミ虫だろ』という低い声が鼓膜を揺さぶった。
聞き間違いだろうか? 部屋が一気に静まり返る。
ぼそっと、さらっと感情を含まない声。怒ってるわけでもなく、事実であると強く宣言しているかのようだ。
オレはすぐに状況を理解し、
『おい。ギル……言い過ぎだって。空気悪くなるだろ……』と、やつの言動を牽制する。
「言い過ぎも何も先に言ってきたのはこいつらだし。王宮の人間どもがゴミ虫なのは事実だろ」
珍しく喧嘩腰だ。まあ、コイツの過去のことを考えると仕方がない。王族と平民の間にある格差とか差別の話はこいつにとって地雷だ。
その感情のない冷たく低い声に、びくっと華奢な身体を震わせるセネカ。
「きゅ、急になに? ちょっとからかっただけだろッ」
『まあ、別に怒ってはないからいいけど』と、ギルは不服だけど本当に怒ってなどない表情で言う。
対するリンコはすまし顔で、別に悪いことなんてしてませんと堂々たる佇まいだ。けれどそれは、しばらくして偽りのものであることが分かる。
サイバーアーマーからスラリと伸びる白い腕の先にあるリンコの拳が固く、きつく握られていた。爪が手のひらにぎゅっと食い込み、その肩はわずかに震えている。そしてまた、悲しい目をして、視線を斜め下に泳がせた。
たまに見せる表情だ。
そして……。
「うっ……」
と、リンコは、こめかみに手を当てる。
「リンコ様! どうかされましたか? 大丈夫ですか?」
「え、ええ。大丈夫。ちょっと頭痛がしただけよ」
リンコがセネカの頭を撫でオレたちに向かって言う。
「言い過ぎたことには謝罪するわ。けれど明日から、アヌビス兵を連れてここを制圧するから」
「あ、もう帰るんですか? リンコ様、武器! 武器! 落としてますって~」
こうして二人はアジトから出て行ったけれど、ギルとオレのなんとなく気まずい空気だけは部屋の中に充満していた。




