第三話『超ピラミッド社会アトランティス』
ここアトランティスは一見、全員が豊かで平等に見える超高度な社会主義の皮を被っている。だが、その皮を剥いて、あらわになるのは世界最古のエネルギー搾取型・超資本主義ピラミッドのクソゲーだった。
その政治は、民主主義なんて生ぬるいシステムじゃない。テクノクラシー《科学技術官僚政治》と《神聖政治》が融合した、完璧なトップダウン型だ。政治の最高決定権は、純血レプティリアン(トカゲの血筋)である王族と、それを補佐する最高科学神官会議 《十人の王》が100% 独占している。
洗脳による絶対服従。令和の政治家みたいに『選挙で俺に投票して〜w』など言わない。神官たちがクリスタルタワーから『王の言うことは絶対。宇宙の真理である』という周波数を民衆の脳へダイレクトに配信しているから、地上の一般市民および奴隷たちは疑うことすら忘れて『王様マジ神タマ〜!』って、自動的に盲従している。そんな奴らの陰謀を暴けば、この無意味な戦いも終わるはずだ。つまりそれが賭けの内容。
「無理ね。生憎だけど、そんな訳のわからない賭けに乗るほど、わたしもバカじゃないわ」
だったはずだが。
確かに賭けをしようと言って、そうね! やりましょう! って言うほど、このお嬢様が賭博王には見えない。無理か〜。そりゃ無理だよな!
「無理……だとも言えないんじゃねえか?」
分が悪い。そう、たしかにリンコは分が悪いと言った。
「確かにオレは平和主義者で、女の子に手をあげたくないから穏便に話し合いで解決したい。だけどお前の率いる兵は全滅。今はたった一人でその話し合いも平行線」
あいにく、オレを含め、ここにいる仲間たち全員、王宮の独房にぶち込まれるのは勘弁だ。
「何が言いたいの?」
「で、だ。オレの仲間たちはもうオレの命令に反してでもお前を倒そうとしてる。この賭けには乗るしかねえんじゃないの? ほら逃げ場とかないし……?」
リンコの後ろを取り囲むのは、オレたちの仲間。選りすぐりの社会不適合者だ。
リンコと同性の若くして夫を亡くし、王宮の税金を払えなくなった主婦だっている。
(ワタシ王宮ノ女キライ。コノ小娘トッチメル……)的なギラギラした目。同性同士のキャットファイトなら、どうぞ御勝手にと思うのでオレの主義には反しない。
「くっ……」
この10日間、特殊部隊との応戦で見せたことのない表情。つまり、顔を少し赤くさせ、唇を噛み締め、わずかに涙目のリンコがそこにいた。まるで、おもちゃを買ってもらえなかったような3歳児のような目だ。なんでも出来そうな超エリートお嬢様が、そんな顔もするのかと思う。
「で、賭けってなんなのよ?!」
「10日以内。10日以内に、この国を支配する王宮の陰謀を暴く」
「で?」
「その陰謀に納得して、王宮のやり方に納得できなかったらオレたちの仲間になれ!」
オレはじいっと穴が開くぐらいのつもりでリンコの眼を見つめる。リンコはさっきとは打って変わって動揺することもなく、毅然とした面持ちでサイバーアーマーの胸元に手を当てる。切り替えが早い。
「なんだ、そんなこと。わたしがそんなあるはずもない陰謀に納得できるはずもなければ、その賭けをやる意味もないわ。でもいいでしょう。分が悪いのは事実だし。勝つしかない賭けなら乗った。で、賭けなら、もしあんたが負けた時には何をしてくれるの?」
「オレが王宮の独房にぶち込まれる」
そう言い放った瞬間、オレの仲間たちが固唾を飲む。中には驚きと不安を隠せず、言葉にもならない声を上げる者もいた。地下街の赤い蛍光灯が明滅する中、一抹の不安が影を落とす。
「レンさん!ダメです! あなたがいなければここの地下街を誰が指揮するんですか?」
「リーダー! 王宮の奴らがリーダーに何をしでかすか分からない。最悪の場合、処刑も!」
それでも……。
「それでもいいさ。その時に王宮の奴らの陰謀が明るみになればオレの死も無駄じゃない」
一度は死んだ身だ。死ぬことに関して何故か恐怖が微塵もない。ここにいる奴らが無事であれば、オレの命なんていくらでもくれてやる。
そんな事を考えていると、当の賭けを申し込まれたリンコが、何故かオレの言葉に面を食らって、眼を大きく見開く。
正気じゃないとでも言いたげな。まるで王宮が絶対的な正義ということを心から信じ切れていないような面持ちだ。そんな静寂に包まれると同時に、地下のオイルの匂いが鼻につく。その隙間、わずかにリンコの香水の香りが漂ってきた。
「わかったわ。その賭けに乗ってあげる」
リンコはそう言うと、地面に突っ伏すセネカをおんぶし、この場を立ち去ろうとする。交渉成立……かな?
「うぅ……リンコ様ァ。ゴミ虫の討伐おめでとうございます……。うへへ……」
何やら幸せそうな、おぞましそうな寝言を言うセネカ。リンコはそれを尻目に綻んだ表情。
あくまでもフォーマットは冷徹で、鉄壁の仮面を崩さないお嬢様だ。
だが、ほんのたまに、微細でありながらも人間らしい表情になる。そんなリンコを見ていると根は優しいんだろうなと思った。
「これからも毎日ここへ来るわ。それと」
「ん?」
「バレてないって思ってそうだけど、あんたたちのアジトは特定済みよ」
「はぁ!?!?!」
「けどまあ、約束の10日経つまで王宮には内緒にしてあげる。あくまでこれはセネカを無傷にしてくれた恩義」
『じゃっ』と言って、片手で手を振り、その背中が遠くなるまでオレたち仲間は呆然と立ち尽くした。
「いいんすか? レンさん。アジトの場所バレてたら明日から、レンさんのアジトにあの女毎日足繁く通うようになりますよ?」
「いい! めっちゃいい!」
「「「「「「なんで!?!?!」」」」」
仲間のツッコミはさておき、もしリンコが足繁く通うようになったら、紅茶を出すか、コーヒーを出すか、あるいはぶぶ漬けを出すか本気で悩んでいた。
あの女がオレにとって面倒か面倒じゃないかはどうでも良く、それぐらい俯瞰的に物語を楽しむ実験をしてみたいという、いわば科学者としての悪い癖が出てしまったのは致し方ない。




