第四十一話『エーテルディスコのギャル』
熱気と歓声が上がる1階フロア。そこには噂を聞きつけ、すぐに駆け付けたオレたちの仲間が何人かで酒を飲んでいる。遮音カーテンの向こう側にはもっとたくさんの人がいるだろう。オレたちは受付で、手続きを済ませる。だが、その手続きは王宮や地上システムみたいにまどろっこしいものではない。王宮で発行された身分証明書を一度見せればゲートのクリスタルにデータが保存され、それ以降は顔パスで入場できる。あとは出入りも自由だ。もちろん違法営業しているけれど、いいでしょ? 未成年に酒出してねえから?
「おーっす。ギルとレンじゃん。てかニュース見たよwww マジウケんだけど。王宮をまた敵に回して、指名手配犯じゃんwww」
すると、名前は知らないけど顔は知ってるギャル二人が絡んできた。一人はギルにベタベタと纏わりついている。誰だよお前。ギャルはこのデジタル世界において、たまに見る紙を手に持っている。その紙にはレン『240億58000DP』のお尋ね者。つまりどれだけ借金や盗電をして地下世界に入り浸っているかを数値化したもの。政府の公共インフラをハッキングして地下に人工太陽を作ったからそれぐらい跳ね上がるのは妥当だろう。DPとはデジタルポイントのことである。
よく見るとこのエーテルディスコの関係者なのか、二人のギャルには名札がついていた。
ギルの二の腕に『ギル。もう離さない……離して欲しければお酒おごって! 離さないけど……』と胸を押しつけるようにして絡みついているのは、ネオンピンクに染めたツインテールがトレードマークのギャル──ルナというらしい。
王宮が配給する退屈な規格品の衣服をハサミで切り刻んでリメイクした、大胆なへそ出しのショート丈トップス。その首元には、どこかのゴミ捨て場から拾ってきたらしい、青く明滅する太い光ファイバーのケーブルが、パンキッシュなチョーカー代わりに巻き付けられている。
「ほんとウケる。240億って何? 国家予算ハックした犯罪者と友達とか、あたしたち超マブじゃん?」
そう言って、オレの顔の前に手配書の紙をパタパタと突きつけて爆笑しているのは、もう一人のギャル──ユキというらしい。
こっちは対照的に、サイバーグリーンのメッシュを入れたショートボブ。ストリート系のダボっとしたナイロンジャケットを肩まで崩して羽織り、耳元にはジャンクの電子基板をそのまま削り出して作った、サイケデリックに光る大ぶりのピアスが揺れている。その厚底のスニーカーのソールからは、フロアの重低音に同期するようにストロボ光がパチパチと飛び散っていた。
王宮の思想統制なんてクソ喰らえと言わんばかりに、地下の毒々しいネオンの下で、彼女たちは自分たちの『可愛い』をラジカルにビルドして生きている。そんな、このディストピアにおいて最高にタフで不謹慎な、地下街の生きた住人たちだった。すると、オレの後ろに隠れていたリンコとセネカに気付いたのか、ユキが二人に話しかける。
「おーっす。そこの美女二人~。ギルっちとレンっちの……なに? 彼女?」
ギルにまとわりつくルナもそれに続いて、眉間にシワを寄せて二人を睨んだ。
「なに? ギル、彼女いるの? 聞いてない……。説明して」
「誰がこんなゴミ虫の彼女。わたしはリンコ様一筋なので」
「……べ、べつに成り行きで」
「あ……」
すると、ルナはぎゅっと掴んでいたギルの腕をほどき、リンコの元へスタスタと歩み寄る。やめてくれよ。ギルの恋路の修羅場とか……。
「これ」
「あ……ええっと……」
すると、リンコのカバンについているアトラスちゃんのキーホルダーを見て指差し、ルナはキラキラと目を輝かせた。良かった……修羅場じゃなくて!
「アトラスちゃんのキーホルダー……可愛い……」
「え! 好きなの?」
「うん……わたしの……天塩にかけて育てた娘のようなもの。推せる……。アトラスちゃん推しに免じて今回のことは見逃してあげる」
「いや! 別にこいつらとはそういうんじゃないから!」
リンコのツッコミのことなどどうでもいいのか、それだけ言い残し、オレのすぐそばにいたギルとルナは颯爽とエントランスのバーカンへ行き、カクテルで乾杯していた。パリピにウケるよな。あいつは。
てか、なんで一切喋ってないのに、ギルはギャルにモテんだよ……。そんな疑問が脳内を埋め尽くしたと同時、奥のバーカンでギルとギャルはイチャイチャしていた。
もう、『ギルとギャル』っていう絵本出せよ。
リンコはというと、ずっと王宮の生活をしてきたためかこういう場所には慣れていない、緊張して目をぐるぐる回していた。ギャルの圧倒的なバイブスにやられている。金髪なのに、バイブスは清楚だった。たぶんコイツのは自毛だから仕方ないのだろうけど。
「てか、君ら──、ベリアル聖教の紋章の服着てんじゃん……王宮のお姫様攫ってくるとかレン、マジどこまで悪党wwwww マジクッパwwwww」
対するユキは相方がギルとどこに行こうが興味ないらしく、オレをいじることに命をかけていた。
「悪党とか、クッパとか、攫うとか人聞きの悪いこと言うな。むしろ王宮の陰謀から救ったマ〇オだよ。クッパが王宮にいんだよ」
ユキはオレがマ〇オかクッパかは秒でどうでもよくなり、今日起こったことを報告してくる。
「あーはいはい。とりあえず、奥で他の子がステージあっためてっから。あれでしょ? ギルの事前通知届いてんよ。アジトから、ふりぃ?えねるぎぃー? それを今、エーテルディスコで出してて、追っ手を錯乱させてんっしょ?」
「ああ。王宮がオレたちの脳波ログを追ってくるなら、このハックしたフリーエネルギーで街全体の周波数をぐちゃぐちゃにかき混ぜて煙に巻く……それが今夜のオレたちのギグだ」
ユキに不敵な笑みを返し、オレはエントランスの重い遮音カーテンを乱暴に押し開けた。




