第三十九話『ギルの計画』
思ったことがある。リンコは偽の記憶インプラントをこのオレの手によって剥がされた。そして王宮に帰るとまた洗脳されるという理由でここにいる。父親メストルに居場所を特定されて、ここを襲撃されるのでは? という不安だ。
「ギル。ちょっと聞きたいんだけどさ」
オレは、アジトのソファーでセネカと並んで楽しそうに買い物袋を開けているリンコの背中を盗み見ながら、声を潜めた。
「リンコのやつ、昨日の夕方から上の王宮に帰ってないだろ。自暴自棄になって居酒屋でオレとベロベロに溺れて、そのままここに泊まっちまった。……メストルに居場所を特定されて、ここを襲撃されるんじゃねえかって不安なんだけど……」
ギルは咥えタバコのまま、魔改造PCの画面を見つめ、苦い顔で首を振った。
「……いや、帰らなかったんじゃない。もう、帰れないんだよ。さっき王宮の防衛ラインのパケットを逆ハックしてみたが、昨夜お前がインプラントの洗脳をぶっ壊した瞬間、地上のゲートのリンコのIDが『破損データ』として完全ロックされてやがる」
「あ?」
「今あいつが上の世界に一歩でも足を踏み入れた瞬間、エラー検知で即座に身柄を拘束されフォーマットコース、つまり脳を初期化される。俺からセネカにそれを説明して、今日の夕方も上に帰らせずに、時間稼ぎのためにあいつをショッピングに連れ出して、ここに連れ戻してきたのさ」
セネカが……。
オレは、奥歯をガチリと噛み締めた。
あの上層の10人の怪物どもの冷酷な顔が、かつて鉱山で味わったプレッシャーと共に脳裏をよぎる。娘が外泊しただの、洗脳が解けただの、あいつらにとってはすべて『システムのエラー』でしかない。
「ってことは、メストルはもう動いてるのかよ」
「ああ。丸一日リンクが途切れてるんだ、上の神殿でそうとう激しい査定があったはずだ。メストルは自分の無能を証明しないために、秒速で処理しにくるぞ。……いや、もう地下街のインフラ供給パイプに、王宮製の『機動兵器』のパージシグナルが紛れ込んでる」
「チッ、ナメやがって……!」
オレは自慢のバールの硬い感触を確かめ、口元に笑みを浮かべる。
秒速でスクラップにする? 誰がそんな上の都合の予定調和に付き合ってやるかよ。
「けどよ、機動兵器が来るのに、音楽祭なんてやってる暇あんのかよ!?」
「バカ。隠れてたら秒速で見つかってスクラップだ。だからこそ、街中を巻き込んで爆音とフリーエネルギーをぶち鳴らすんだよ」
「……あ?」
「テスラ・アンテナから放つ爆音の電波は、王宮のレーダーを完全に狂わせる『目眩まし』になる。お前がDJブースでキックを鳴らし続けてる間だけ、俺たちの居場所は王宮のシステムから完全に消えるんだ」




