第三十五話『十人王の円卓会議』
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地下街の住人たちが偽物の夜に酔いしれていたその頃。冷酷なる光に満ちた地上世界、その中心にそびえ立つ『ポセイドンの神殿』の最深部では、世界を支配する10人の怪物が集う、5年に一度の円卓会議が執り行われていた。
神殿の中央に鎮座するのは、アトランティスの全人類の脳内OSを統括する、鈍く輝くオリハルコンの巨大な量子サーバー柱。
その柱から出力された青白いホログラムの円卓を、10人の『最高科学神官』──十人王が囲んでいる。
その中の一人、洗脳教育と民衆の統制を司る神官メストルが、手元のホログラムに表示されたリンコのバイタルエラーログを冷徹に見下ろしながら、忌々しげに言葉をこぼした。
「どうやら地下街のゴミが私の飼い犬の洗脳インプラントを剥がしたようだ」
感情の欠落した声が、厳かな神殿に冷たく響く。
実の娘を『飼い犬』、あるいは『不具合を起こした端末』としてしか認識していないその言葉に、円卓を囲む他の神官たちは眉一つ動かない。
「不快なエラーだな、メストル」
円卓の最上席、アトランティス全体の初代最高王アトラスが、光を帯びた瞳でメストルを射抜いた。
「民衆の思想統制はお前のセクターのはずだ。地下街のネズミ一匹に、王宮のセキュリティを書き換えられるなど、我が一族の絶対権力に対する侮辱と知れ」
アトラスの隣に座るガディロスはそれを見て、鋭い義眼のレンズをジジ……と作動させ、上擦った声で威圧する。
ガディロス : 「ヒッヒヒ……不愉快デスネ~、メストル。地下街の防衛ラインのログに、奇妙なパケットの歪みが感知されていマスネ~。メストルの『飼い犬』の不始末で我らのセクターの防壁にバグが出るようなら、私は地下街の酸素供給システムごと、その区画を物理的にデリートしますが?」
アトランティスの物流と巨大運河を支配するアンペレスとエウアイモンも、冷徹な『数字』でメストルを値踏みした。
アンペレス : 「思想管理にかける予算とリソースに対して、今回のエラーはあまりにもコストパフォーマンスが悪すぎるぜ!!その金をとっととオレ様の予算に回せ!!」
エウアイモン : 「アンペレス。貴様の私利私欲には反吐が出るが、それ以外には同意だ。あのエラーにコストパフォーマンスをかけすぎた。洗脳の剥がれた猟犬など、ただの廃棄データ。メストル、お前のセクターの評価レーティングを2ランク下げさせてもらう。次のインフラ供給のパイプを絞られたくなければ、秒速で処理しろ」
そこに、オリハルコン鉱山とキメラ兵器を牛耳る、血の匂いのする二人が凶悪に笑う。
ムネセウス : 「形ばかりの思想統制なんてまどろっこしいシステムを頼るからそうなる。人間なんて、恐怖と暴力のコードで縛れば十分だ」
アウテクトン : 「サンプルを回収して殺せ、またはフォーマットが必要なら、我がセクターの新型自律キメラ兵器を地下にパージしようか? お前の無能の尻拭いをしてやってもいい。ただし、地下街はちょっとした『血の海』になるがな」
それぞれがどうやって支配と洗脳と管理を進めようかという議題をする中、ずっとメストルをそばから見ていた男が言う。メストルと双子であり、ベリアル聖教の戒律を司るエラシッポスが、狂気を孕んだ静かな笑みを浮かべた。
エラシッポス : 「ふふ……神殿のオリハルコンの柱に刻まれた『ポセイドンの法』を汚す不浄なバグね。メストル、我が半身……お前の飼い犬がこれ以上王宮のシステムを乱すなら、その首輪を引きちぎり、我が賛美歌の実験体として魂の底からハッキングしてあげるからね」
外の世界を侵略し続ける、傲慢極まる最果ての王たちが、つまらなそうに首を振る。
アザエス : 「地上の領土を広げる我らにとって、足元の地下街での内紛など、ただの処理遅延だ」
ディアプレペス : 「全くだ。メストル、そのレンとリンコとかいう人間を即座にスクラップにしろ。我らの遠征スケジュールを1秒でも遅らせるなら、お前自身をマザーラボの検体としてパージすることになるぞ」
──四方八方から突き刺さる、9人の王たちの常軌を逸した冷酷なプレッシャー。
だが、メストルは顔色一つ変えず、冷酷な笑みを深めて頭を下げた。
「……諸兄、過分なご指摘、痛み入ります。ですが、インプラントの強制解除コードを走らせた『バグ』の正体は、すでに特定しつつあります。すぐに私の機動兵器をパージし、サンプルを回収してゴミ共をスクラップにしてみせましょう」




