第三十一話『テスラコード』
アジトに二人で戻るとセネカとギルが気まずそうに、お互いのことを見もせず、それぞれ別のことをやっていた。
ギルは作業机で新しいガジェットを作っていて、セネカはソファーで寝そべりながらアジトのマンガを勝手に読んでいる。二人が帰ってきたことに気付くと、セネカは猫みたいに眼光を鋭くさせながら、ソファーから起き上がって爆速で走ってきた。
「なんでこんなゴミ虫とリンコ様が二人きりで!! 天誅ーーーーっ!!!」
オレに飛び掛かって来ようとしたが、マントの裾を踏んづけ、この前のように『ずさーーーーーーっ』とアジトの外へ滑り出していった。よく見ると半透明じゃなく、元に戻っている。
そんなセネカは華麗にスルーして、アジトにて黙々と作業しているギルに尋ねる。
「ギル。セネカは元に戻ったのか?」
「ああ。だいたいはな。でもまあ、油断しないほうがいい」
「どういうことだ?」
「アトランティスではレプティリアンに記憶を弄られる奴が多いから半透明になる事例がよくある。密接に関わってる奴じゃないと見えない仕組みになってる」
記憶をいじられるという事は前にもギルに聞いたことはあったが、半透明になることは初めて知った。ということは、地下街ではあまりないのかもしれない。アトランティスに転生してから約1年──まだまだ知らないことがたくさんだ。
「つまり、あれか。オレらには問題なく見えてるけど、他の人たちからはまだ半透明に見える可能性があると。んー。けどそれって何か問題あるのか?」
「大アリだ」
ギルは手を止めず、冷淡な声のまま続けた。
「アトランティスのシステムは合理的で冷酷だ。あいつらレプティリアンは重力だけじゃなくて量子コントロールも行う。密接な関係を持つ人間のメモリだけで辛うじて存在を維持できているが、サーバー全体から見れば、セネカは『アクティブなID』として認識されていない」
ああ、そういえば、オレたちってIDで管理されてんだっけ……。
「あんまり聞きたくないけど。このまま放っておくと……?」
「このまま全体の視認率やアクセス数が低いままだと、王宮システムの定期監査が入った瞬間に、『存在確率ゼロの不要データ』として、セネカの存在そのものが宇宙の根本から完全にデータ削除されてしまう。要するに、国のために必要ない奴は消すぞって脅しだ」
「──ッ!!」
オレは思わず、アジトの外で転がっているセネカとそれを宥めるリンコのほうを見た。
「解決法は?」
「国のためにエーテルを捧ぐ。まあ、デジタルポイントを稼いで使うのが一番シンプルで分かりやすい方法だ」
経済を回す。それが人間の価値っていうシステムか。如何にもトカゲ様らしい。
そんな事実を突きつけられ、大きくため息をつく。オレの住んでいた令和の世界にはない『重力コントロール』のみならず、量子までコントロールしてくるとは。そりゃ権力者は星を覆い隠したいわけだ。
「えっと……じゃあなんで俺たち地下街の人間は、デジタルポイントを一銭もおさめてないのに半透明にならないわけ?」
「…………この前何度も話しただろう。俺達が洗脳されないのと同じ理由だ」
「龍のOS」
都市伝説が好きだけど、未だによく分かっていない。もしかしたらギルの方がこっち方面では詳しいのかもしれない。
「と言っても、俺にもまだまだ分からないことだらけだ。だからこれがあるんだろうな……」
ギルはそう言って半袖からスラリと伸びる腕のタトゥーを眺める。
──テスラコード。
ギルの兄弟分が残した形見。フリーエネルギーの回路図である。これを解読すると、もう王宮からエネルギーを盗電しなくても、地球から無限のエネルギーを吸い上げて、地下街全体に無線で、『無料』で電気を配ることができる。
「龍のOS ドラコニアン。俺たちの故郷がムーかもしれないってことだ」
「隠された歴史か……」
「セネカが消されないようにする方法ももしかしたらオレのタトゥーに隠されてるかもしれない。エーテルを王宮に捧げて、生きたまま奴隷としての存在証明なら、俺は……」
「ああ。死んだ方がマシ……だろ?」
ギルの意見には全面的に同意する。このまま奴らの好き勝手にさせてたまるか。そんな気持ちが日に日に膨れ上がっていく。あまり表情を変えないギルが、わずかに不敵な笑みを浮かべ
『よろしく、相棒』と、オレの肩をぽんと叩いた。




