第二十六話『賭けの内容』
賭けの内容はこうだった。
十日以内にこの王宮の陰謀を暴くというバカげた内容──
そして──。
「その陰謀に納得して、王宮のやり方に納得できなかったら俺たちの仲間になれ!」
と、ツキシマレンは自信満々の笑みでわたしに言う。
わたしは奴のそんな言葉には乗りたくない。だけどたまに……、こんな奴がライラと重なって見えるときがある。
あの時のライラの言葉が脳裏に焼き付いて離れない。
【──地下街の人たちは、星があるって言ってるみたい。信じてるというより、知っているって感じだね】
ツキシマレンは星を信じているのだろうか……。聞きたい……。いや、でも……。
わたしは王宮の忠実な犬。地下街の人間に情を持ってはいけない。これは仕事! 何度も何度も何度も自分にそう言い聞かせる。
「無理ね。生憎だけど、そんな訳のわからない賭けに乗るほど、わたしもバカじゃないわ」
わたしは奴にそう突きつける。この世界はバカがやっていけるほど甘くない。そうお父様にも、クロムウェル教皇にも教わった。
「無理……だとも言えないんじゃねえか?」
ツキシマレンは何を言っているのだろう。無理? このわたしがこんな自分より年下の、しかも地下街の、ライラを殺したかもしれないクズに──。
そうだ、ライラのこともあるんだ。絶対に地下街の人間を駆逐しなければならない。確証がなくても、図書室の記憶がなくても、この胸の奥に宿る『異常なまでの憎悪』に身を委ねなければならない。そんなわたしの気も知らず、奴は立て続けにわたしへと言葉を投げかける。
「確かにオレは平和主義者で、女の子に手をあげたくないから穏便に話し合いで解決したい。けどお前の率いる兵は全滅。今はたった一人でその話し合いも平行線」
強烈な違和感が襲ってくる。わたしは女で、あの時──地下街の暴徒に襲われて重傷になった。そしてここにいるコミュニティ全員が、キメラ兵には手を出すが、わたしには極力手をあげてこない。それを甘い──という言葉で片付けてしまうことだってできる。でも──。
もしもこいつらがあらぬ誤解を、とんだ濡れ衣を着せられているとしたら……。今までの出来事にもつじつまが合ってしまう。
わたしの傍らには、セネカが倒れている。だけど、
「安心しろ。これはレンさんの相棒が政府からくすねてきたプラグを改造して作ったもの。そこの女はしばらく行動不能になるだけだ。洗脳もされないし、怪我もしない」
ツキシマレンの仲間がそう言っていた。
セネカにも傷を負わせない、脳にハッキングをかけることだって出来るのに、それをしない。その徹底ぶり。あの夜、わたしが重症になったのは──。
ますます謎が深まる。だけど、地下街は広く、様々なコミュニティがあることも知っている。特殊部隊で、さまざまな場所を調査して分かったことは、この隊長が『すべての地下街の人間』を指揮することは不可能ということだ。ツキシマレンはとあるコミュニティの一隊長に過ぎない。イレギュラーなんだ。
「で、賭けなら、もしあんたが負けた時には何をしてくれるの?」
「オレが王宮の独房にぶち込まれる」
どこまでもバカで──
「レンさん!ダメです! あなたがいなければここの地下街を誰が指揮するんですか?」
「リーダー! 王宮の奴らがリーダーに何をしでかすか分からない。最悪の場合、処刑も!」
「それでもいいさ。その時に王宮の奴らの陰謀が明るみになればオレの死も無駄じゃない」
命を顧みない。
仮に王宮に陰謀があったとして。
それに逆らっても、徒労で終わるかもしれないのに。
「バレてないって思ってそうだけど、あんたたちのアジトは特定済みよ」
アジトに潜入して、ツキシマレンの陰謀を暴いてやる。
そうわたしが意気込んでも、
「なにソファーで優雅にくつろいで敵を招き入れてんのよ!」
奴はソファーに寝転び、警戒心ゼロでわたしを舐めきっていた。
だから脅しでレーザー光線を撃ったけど、それにも動揺せず、奴はわたしの手首を掴み、こう言う。
「お前さ。そんなに顔色悪くして、誰のためにそんなクソみたいな仕事を頑張ってる? ──親のため? 国のため? 誰かに認められたいからか?」
説教してきてムカつく。イライラする。なのに、なのに、なのに!!!!
「「社畜のウサギって異名もある」」
アトラスくんのキーホルダーを持っていたり可愛いところもある……。
もう分からない。コイツを独房にぶち込むべきなのか、どうか。
だってそんなに悪い奴じゃないし、その……。
なんか格好いいし……。
わたしはそんな感情が沸いてきた瞬間、勢いよくバタンと蓋を閉じて、こころの奥底にしまう。これはライラの男前な格好良さを思い出して。決してツキシマレン個人に好ましいという感情があるわけではない!
そしてわたしは奴らのアジトから出るときに、こう言った。
「明日から、アヌビス兵を連れてここを制圧するから」




