第十九話『機甲装備』
あれからわたしは、17歳になり、背丈も身体つきも大人になった。ライラと初めて出会ったときライラも17歳だった。ライラが高等部を飛び級で卒業し、シスターになったことをわたしは知っていたので、わたしの目標に迷いはなかった。
わたしが飛び級して特待生で、特殊部隊に入隊したことは目標だったので当たり前のように思う。けれど、そこでネックとなったのはセネカだった。
どうにかしてわたしのバディとしてセネカを特殊部隊に入隊させたい。セネカはあのあと、わたしが役人に最高等身分の身分証を突きつけたおかげで、正式に孤児院で生活することができたけれど、父にバレるのは時間の問題だった。
そこでわたしは高等部でハッキング技術を天才的なレベルまで高めることにした。行政がセネカを『欠陥キメラ』として廃棄する直前、王宮の資産管理サーバーにバックドアから侵入して、セネカのデータを『廃棄対象』から『特殊部隊専用の生体特殊兵装』として、自分の特待生データに紐づけて、データを上書き(偽装)した。これでセネカはキメラとしてではなく、特待生のわたしが扱う『機甲装備』として合法的に部隊へと入り込むことに成功する。
「さっすがリンコ様!」
「当たり前よ──」
薄暗い機甲兵器ドックの隅、大型装甲車の影に隠れるようにして、わたしは頭上に映し出されたホログラムの画面を消した。セネカは相変わらずわたしのハッキングの腕前を褒めてくれる。
野球場ほどもある広大な格納庫のあちこちでは、巨大な無人ドローンやキメラで作られた生体戦車といった『機甲兵器』の整備がけたたましく行われている。遠くで整備兵たちが散らす溶接の青白い火花がパチパチと爆ぜ、隣の射撃訓練場からは重々しい銃声がここまで地鳴りのように響いていた。
そんな喧騒から遮断されたこの物陰だけが、わたしとセネカの秘密の領域だ。
さっきまでホログラムに表示させていたのは、特殊部隊のネットワークから引っ張ってきた、王宮上層部の技術基礎データ。飛び級でここに入ったのは、死んだライラの足跡を追いかけるためでもあるけれど……心のどこかで、わたしを『欠陥品』と呼んで切り捨てた、実の父親──メストルを見返したいという執念があった。
お父様に、わたしの優秀さを認めさせたい。
わたしは何故か冷酷だったはずの父親の顔を思い浮かべても、不思議と激しい憎しみには至らない。ただ、あの高い場所に追いつきたいという焦燥感だけが、17歳のわたしを突き動かしていた。
その時、わたしのホログラムがピピッ、と静かな電子音を鳴らす。
ポップアップしたのは、ハッキングの警告ではない。王宮中枢からの公式の特別招集──差出人は、『最高幹部:メストル』。
「……リンコ様? これって……」
「……お呼び出し、みたい。最近のわたしの飛び級の成績を見て、やっと、お父様がわたしを認める気になったのかもね」
冷徹に装おうとしても、胸の鼓動がわずかに速くなるのを隠せない。
ライラの死の真相も気になるけれど、まずはメストルという男の懐に入り、その背中を追いかける切符を手に入れたのだ。
「リンコ様のお父様って……」
わたしは孤児院のみんなには王族の子ということは黙っているが、ライラが死んでから、セネカにだけはその真実を話した過去がある。
「なんでそんな奴にリンコ様は認められたいんですか! そいつはリンコ様を捨てたんでしょう!?」
「分からないの……おかしいよね……。わたしが捨てられてからもう十年も経つのに、あの過去が未だに捨てられずにいるの。今さら呼び出すなんて都合よすぎって感じよね」
セネカはぐっと唇を噛みしめ、ゴロゴロと喉を鳴らす。わたしのために怒ってくれてるのが、それだけで嬉しい。
「嫌な奴だって思おうともしたけど。やっぱり、生みの親だもん。認めてほしいわよ。そりゃ……。背丈は伸びても未だにこころは大人になり切れていないのかもね」
「リンコ様……」
「行ってくるわ、セネカ。お父様がどんな顔をしてわたしを迎えるのか、確かめてあげる」
こうしてわたしは、かつて自分が追い出されたはずの、あの巨大で美しい王宮の門を再び潜ることになった。




