第一話『リンコとの最悪な出会い』
はじめに言っておくとオレ月島レンはもう死んでいる。
特筆して自分の生涯を語ることはないが、あえて言うなら、エジソンとJ.Pモルガンが結託して作った《料金メーター》の支払いに追われる社畜として生涯を終えた。
──で、そんなクソみたいな現代で死んだオレが、いま1万2000年前のアトランティスで何をしてるかっていうと、
「ちっ。この場所もバレたかっ」
「おとなしく武器を捨てて投降しなさい」
オレの目の前にいるのは金色のサラサラとしたロングヘア、全てを見透かすような冷たい碧眼。目が合えば凍てつくような冷たい表情。白と水色を基調としたサイバーアーマーとマントは、アトランティス製のオリハルコンという素材で作られている。
ここはアトランティスの地下街で、地上に馴染めなかった社会不適合者が集まる場所だ。
腕の紋章を見る限り、目の前の少女は王宮から遣わされた特殊部隊のリーダーだと思われる。
で、何故か1万2000年前という超古代都市なのに、ハイテクな科学技術。
かつて転生する前のオレが都市伝説の掲示板で学んだニコラテスラのフリーエネルギー《エーテル》が、この国のインフラとして機能している。なのに、この国では料金メーターがついてる模様!!
暮らし始めてもう1年経つからなあ。知りたくもない知識がついてきた……。
「地上の人工太陽のエネルギーを奪って、地下世界へ強制的に『昼』を生み出してるのね。これは盗電、立派な犯罪よ」
少女は天井にあるオレが作った人工太陽を、さも素晴らしそうに眺めていた。いいだろ? すごいだろ? な? すごいって言っておけ?
「あれを沈ませて朝、昼、夕方、夜を作るのはもうちょっとだけかかるけどな!」
「リンコ様ァ。こんな社不のくだらない話に耳を貸す必要はありません! とっとと始末しちゃってくださいっ」
特殊部隊のリーダーの隣にいるのはまだ年端もいかない背丈の小さな女の子。リーダーと同じサイバーアーマーとマントをまとい、特徴的な八重歯をギラつかせ、オレたち奴隷を見下している。
そのまわりにはエジプト神話のアヌビスやホルスの元ネタになった《遺伝子操作で人間と動物を掛け合わせ、さらに全身をオリハルコンのサイバーインプラントでガチガチに武装した、感情ゼロのキメラサイボーグ特殊部隊》
「ヒィィ!俺たちの占拠してる場所がバレた。やめてくれぇ」
アヌビス兵が、オレたちの仲間に洗脳用のヘッドギアを無理矢理ハメ、屈服させている。リーダーは凍てつく表情のまま、隣の少女は高みの見物といった表情だ。
「盗電。脱税。インフラの占拠。ハッキング。親玉はあなたでしょう? もう一度言う。おとなしく武器を捨てて投降しなさい」
「オレたちは何も悪いことはしていない。王宮の奴らはエーテルを独占して、奴隷がサボらないように24時間監視……オリハルコンとクリスタルを採掘させている!! それと、オレの持ってるこれは武器じゃない。オリハルコンを採掘するためのバールだ」
「リンコ様ぁ。聞きました? 奴隷って大袈裟な……。ロクに仕事もできない陰謀論が大好きなただの社会不適合者でしょ! この犯罪者っ!」
リーダーのマントの裾を掴んで、後ろからやいのやいのと……。弱そうなのによく吠える。
当のリーダーはというと、『わたしの後ろに隠れてなさい』という優しげな表情。マントの後ろにいる小さい子の頭をそっと撫で、
『武器じゃないって? そのバールは改造品でしょう?』とあくまでも、オレに対しては凍てつく表情を崩さない。
お察しの通りだ。
このバールの先端には高周波プラズマを発生させる『オリハルコン合金製の解体用バール』である。これで地下街に張り巡らされているエネルギーパイプの絶縁プロテクト(セキュリティ)を力技でカチ割って、政府のインフラをハッキングしている。
「オレたち社会不適合者の生活はこれで成り立ってんだ!」
「そうだ!そうだ!王宮が独占するエネルギーをオレたちがちーっと盗んだぐれえ何が悪い!」
「わたしだって真剣に働きたいけどあまりにも税が高すぎて生活できないの。子どもだっているし」
「だいたい王宮のやり方は卑劣だ。精神エネルギーもエーテルに変換して、我々奴隷の我慢と苦しみすらも税にしてる!」
たしかに王宮のやり方は卑劣を通り越して残虐だ。アトランティス大陸の中心、同心円状のグリッドのド真ん中にあるオリハルコン製の王宮では、レプティリアン(トカゲ)の血を濃く引く王族や神官たちが、完全に狂った『エネルギーコントロール』を行っている。遺伝子操作でキメラを作ったり、やつらの寿命を1000年伸ばしたりと、数えあげればキリがない。
王宮の中にはクリスタルタワーと呼ばれるアトランティスの全動力を支える超巨大な『天然のハードディスク兼・発電機』があって、宇宙からの星のエネルギーを吸収・増幅して、ワイヤレスで大陸全土に電力を供給している。
クリスタルが発電機で、オリハルコンは送電機と言えば分かりやすいだろう。
ただし、その便利なエネルギーの代償として、王宮内から『ただ何も考えずに働け』『王の言うことは宇宙の真理』という特定の周波数を浴びせられ、地上の民衆は完全にマインドコントロールされていた。こうして過酷な労働と、洗脳によってはじめて民にエネルギーが配給される。
地底の深くの鉱山ではオリハルコンの採掘。地表の聖なる霊山や、結晶洞窟では、クリスタルの採掘と、奴隷によって仕事が振り分けられている。
だからオレのまわりにいる仲間たちは、《洗脳の周波数の影響が及ばない地下街》へ逃げ込み、必死に王族の特殊部隊に向かって抗議しているのだが……。
「その税収の代わりに何不自由ない暮らしを提供しているわ。あんたたちの努力が足りないだけ」
サラサラの金髪を靡かせ、腕を組むリーダー。
「努力だと? お前ら独占している側がそんな 美辞麗句を……っ!」
「だからオレたち社不は王宮に向かって流れるエネルギーのパイプラインをハッキングするしかないんだ!!」
その仲間たちの抗議が、さっきから上の空で聞こえてしまう理由がある。オレはどうにもこのリーダーが嘘をついてるように見えたのだ。
「リンコとかいったか? そんなサイバーアーマー脱ぎ捨てて、オレたちとここで楽しく暮らしたらいい。地上のシステムは息が詰まるだろ?」
「お前っ!気安くリンコ様を呼び捨てするな! ゴミ虫!」
待ってという顔で、リンコは小さい子の胸の前で手を添える。
「生憎、わたしとここにいるセネカは、あんたたちと違って社会不適合者でもなければ平民でもないの。王族の人間にはこの地下街の方が息が詰まるわ」
遠い目。凍てつくような表情が一気に崩れて、物憂げな、今にも大雨が降り出しそうな表情。
だったらなんでそんな悲しそうな目で、視線を逸らす?
王宮から直接遣わされた特殊部隊。目的のためなら何も言わずにこの地下街をオレたちもろとも破壊するはずだ。
「その割にはやり方が手緩いんじゃないか? お前だって、王宮のやり方に疑問を抱いてるからオレたちと話し合ってる」
「勘違いしないで。あくまでこの地下街は政府のインフラ。迎撃できないのはここを迎撃してしまうと地上の電力システムにも影響するから。あんたたち社会不適合に同情しているわけではないわ」
「そうだ!そうだ! リンコ様コイツら社不にたいして武器を使うまでもありません! リンコ様の拳で分からせてやってください!」
シャーっと猫のように威嚇する。セネカとかいったかな?
「たしかに。その手に持ってる光線銃でも使えば政府の大切な、王宮に向かって流れるエーテルのパイプラインが破壊されて、また俺たち社不のせいで工事や修繕費がかかるもんなあ。だったらエーテル電磁警棒でも使えばいいんじゃねえのか?」
エーテル電磁警棒。殴られた瞬間に、生身の肉体じゃなくて、精神体にダイレクトに高圧電流(恐怖の周波数)が流れる警棒のことだ。魂ごと激痛が走って、右脳のフォースが一瞬で強制シャットダウンさせることができる。それを使えば地下街を傷つけることなく、オレたちを王宮の監獄へと連行することができるはずだ。なのに、さっきからアヌビス兵が使っているのは洗脳用のヘッドギアだけ。あれじゃあ、オレたち社不だけにある特殊な脳内OSを上書きすることはできない。
「ヤツの言うとおりです! リンコ様! こぉーんなゴミ虫たち、エーテル電磁警棒でさっさとやっちまいましょう!」
リンコは斜め下に目線を配り、重たい口を開く。
「セネカ。今日は偵察だけよ。何か怪しいものがあったら王宮へ押収する予定だったけど。ここにはどうやら何もないようね。とりあえず今日は様子見よ。それに、地下の落ちこぼれという見下す対象がいるから地上の人たちは努力できる。別にあんたたちに同情してるわけじゃないから」
サッと踵を返し、マントをたなびかせ、リンコが帰っていくと、アヌビス兵もそれに倣うように撤退する。
「バァカ。バァカ。ざぁこ。ざぁこ」
べっーと舌を出し、セネカも捨て台詞と共に撤退していく。
「はぁ。なんだかなぁ」
こうして初めて出会った特殊部隊は定期的にオレたちの地下街へ偵察に来るようになった。ガサ入れというやつだ。転生しても社会不適合者ってどういうことぉ(泣)




