第7話:南京錠の裏の真実
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「お客様、どうか私の話を聞いてください!」怒り狂う宿泊客たちに囲まれ、中年の中居が悲鳴のような声を上げた。彼の青ざめた顔からは冷や汗が引きも切らない。「これは血ではありません! この建物の地下にある古い鉄配管が、1月の極端な寒さで破裂し、錆が混じったのです。現在、元栓を閉めております。昼過ぎには給水車が到着しますので、しばらくの間、蛇口は使用しないでください!」
その苦しい嘘が、その場の空気を一時的に沈静化させた。納得のいかない宿泊客たちも、悪態を突きながら渋々解散していく。インドネシア人夫婦は妻の嘔吐が止まらないため、急遽病院へ向かうことを決め、大柄なアメリカ人男性は鼻鳴らしを一つした。彼は別の宿を探しに外へ出る直前、私を振り返って怒鳴り散らした。
「糞食らえだ! 昨夜の夜中、霧雨が降り始めた頃に、屋上の方からドサッと重い塊が落ちるような音が聞こえたんだ。てっきり、ここの壊れかけのボイラーの音だと思って放置したが……まったく、ここの配管設備は最悪だな!」
――昨夜の夜中、屋上からの重い衝撃音。
アメリカ人客のその言葉が、私の脳裏に深く突き刺さった。私は身を翻し、404号室に戻ると、内側からしっかりと鍵をかけた。
昼の間、全館の給水が止められたキミ旅館は、まるで墓場のように静まり返っていた。冷たい畳の上で、私は一人、部屋に籠もった。ノートを開き、腕時計を外し、タイムラインと論理的推論を精密に組み立て始めた。テキストの構造分析を生業とする博士課程の脳が、この怪奇な事件を五つの悍ましい結論へと解体していく。
一、死亡推定時刻の理論
私がこの宿に到着したのは昨日の午後五時半、すでに夜の闇と霧雨が街を覆っていた。その時、脇の搬入口の黒いワゴン車を確認したが、タイヤは冷え切っていた。つまり、車はかなり前からそこにあった。もしアメリカ人客が聞いた衝撃音が午前一時のものなら、私の到着から実に七、八時間の空白がある。
胸が抉られるような結論。私がこの宿にチェックインした最初の七時間、エミはまだ生きていたのだ。彼女はこの建物のどこか暗い場所に監禁され、私のすぐ近くにいながら、真夜中に処刑されて貯水タンクに投げ込まれた。この悔恨は、私を狂わせるに十分だった。
二、宿の側面の「死角」理論
ワゴン車が停まっていた搬入口は、極めて暗く人通りがない。犯人は、正面の帳場から見つからずに、朦朧としたエミの身体を車から降ろすためにあの場所を選んだ。キミ旅館は1953年築の古い木造建築だ。正面から連れ込めば必ず露見する。つまり、建物の側面には、上階や屋上へと直通する、この宿の構造を熟知した者しか知らない秘密の勝手口か外部非常階段が存在する。
三、意図的に残された「パンくず」理論
なぜプロの誘拐犯がこれほど杜撰な行動を取るのか。人混みの浅草寺でエミを拐い、わざわざ都内を走らせ、防犯カメラに映るリスクを冒してこの宿の横に車を放置した。これは失策ではない。罠だ。犯人は意図的に私をキミ旅館へと誘い出した。帳場の男が手渡した、ダブルの死を意味する「404」の鍵は、彼らが用意した歓迎の証。彼らは私をこの部屋に置き、この「舞台」を特等席で見せようとしているのだ。
四、血液量に関する医学的理論
エミから聞いた解剖学の知識を思い出す。成人の体内には約四から五リットルの血液しかない。何千リットルもの容量がある貯水タンクにそれが混ざれば、赤みも生臭さも極限まで希釈されるはずだ。しかし、朝の水道水は生々しく濃かった。理由は二つ。殺害が数時間前の深夜に行われ、まだ血液がタンクの底で混ざりきっていなかったか、あるいは犯人が事前にタンクの水を抜き、彼女の遺体の「浸漬水」そのものを客室へ流したかだ。
五、密室の南京錠における矛盾
屋上への扉は常に外部から南京錠で施錠されており、鍵は従業員しか持っていない。部外者がどうやって、二十歳の少女の身体を担ぎ、軋む木造の廊下を誰にも見つからずに屋上まで運べるのか。選択肢は二つ。犯人が鍵の権限を持つ宿の内部の人間か、あるいは、私に対する挑戦状としてわざわざ新しい南京錠を掛け残した、極めて侵入技術に長けた外部の異常者か。
時間が遅々と進む。壁の時計の針が午後四時半を回った頃、池袋の空は突如として濃い灰色に染まり、霧雨は激しい本降りの雨へと変わった。机上の空論は、物理的な証拠がなければ意味を成さない。
夜の午後七時。宿の中は機能停止し、不気味に静まり返っていた。私は部屋を抜け出し、一階の備品室へと忍び込んだ。誰かに見つかった時のために、流暢で丁寧な日本語で「替えのタオルを探している」という口実を用意しておく。
薄暗く洗剤の匂いが立ち込める室内で、私は工具棚を漁った。私の目が、棚の奥にある、赤くて重厚な長い柄を持つボルトカッター(鉄線切り)を捉えた。激しく波打つ鼓動を抑えながら、私はその冷たい鉄の工具を、厚手の冬物コートの内側に隠し持った。
私は再び非常階段へと足を向けた。私の悍ましい仮説を証明するため、雨の降る夜の屋上へと、あの南京錠を破壊しに向かう。
エドの鋭い洞察は五つの恐るべき仮説を導き出しました。そして、自分がチェックインした時にはまだエミが生きていたかもしれないという、あまりにも残酷な事実。彼は盗み出したボルトカッターを手に、雨の降りしきる夜の屋上へと向かいます。
貯水タンクの中で、エドを待ち受けるものとは? 木造宿の最上部で、彼はどのような恐怖と対峙するのか。
次回、遺体発見のピークを迎える第8話「東京の空の下、冷たい棺」に続きます。
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