第6話:変色する水と、巻き起こる狂乱
#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス
1月のその朝は、濃い霧と一向に降り止まない霧雨と共に訪れた。404号室の中、私は疲弊した顔を洗おうと小さな洗面台へ向かった。しかし、蛇口を捻った瞬間、木壁の奥の配管が不気味な赤気を帯びたようにゴボゴボと音を立てた。蛇口はまるで激しく「咳き込む」かのように、熱い空気と共にドロリとした赤みを帯びた泡を吐き出し、それから濁った水が勢いよく流れ出した。鼻を突く、強烈な鉄錆の匂い。
私は、手のひらの上でぬるりと滑る水の異変に凍りついた。私の脳がその異常さを処理するよりも早く、キミ旅館の木造の廊下を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「キャァァァ! 何これ!? 水が……水が赤いの! 血の匂いがする!」
それは女湯からの、狂乱の叫びだった。次の瞬間、廊下の突き当たりにある共同浴場の扉が次々と勢いよく開け放たれた。冬の必需品である「お湯」が、この状況を最悪の地獄へと変えていた。熱気は匂いを増幅させる。一瞬にして、古い木造の廊下に充満した湯気は、石鹸の香りではなく、生々しく甘ったるい「血の臭気」へと変貌した。その悍ましい臭いが、宿全体を包み込む。
狭い廊下で、一気に集団パニックが巻き起こった。
「うわあああ! 気味が悪い! この水、鉄の味がする! 吐きそうだ!」
一人の日本人高齢客が、顔を真っ青にしてシャワー室から飛び出し、狂ったように床を指差した。詰まった排水口の奥から、ヘドロではなく、恐ろしく太く長い「黒髪の束」が配管を伝って溢れ出ていたのだ。それはまるで、床下に閉じ込められた誰かが、必死に外へ這い出そうと爪を立てた痕跡のようだった。
帳場の近くでは、アメリカ人から来た夫婦が激昂していた。
「オー・マイ・ゴッド! あなた、これを見て! 水が赤くなってる! 銅の匂い――いや、これは血の匂いよ! ここから出して!」妻が浴室の戸口から叫び、大柄な夫が古い受付カウンターを叩き壊さんばかりに殴りつけ、小柄な宿の従業員を怒鳴り散らす。「おい! この配管はどうなってるんだ!? 妻はこの泥水で顔を洗ったんだぞ! これは生物学的危機だ! 今すぐ責任者を呼べ!」
しかし、その日本語と英語の怒号の渦中、私の耳に、まったく別の叫び声が突き刺さった。私の、母国の言葉(インドネシア語)だった。
「ヤ・アッラー、お父さん! 水が酷く生臭いの! さっきこれでうがいしちゃった……ウッ、オエェッ! これ、血だよ、お父さん! 神に誓って血の匂いだよ!」
私は猛然と振り返った。狭い廊下の板張りの上で、インドネシア人の女性客がへたり込み、激しく嘔吐しながら泣き叫んでいた。その隣で、小さなバッグを抱えた夫が、私と受付に向かってパニック状態で叫ぶ。
「そこのお兄さん! 助けてくれ! 妻が何度も吐いてるんだ! 一体ここはどんな宿なんだ!? 水道水が死体のような臭いをしてるじゃないか!」
そのインドネシア人男性の口元には、まだ歯磨き粉の泡が残っていた。しかし、その泡は真っ白ではなく、赤みを帯びた水道水と混ざり合い、薄気味悪い淡いピンク色に変色していた。彼は舌に残るねっとりとした鉄の生臭さを消そうと、手で必死に舌を擦りながら、何度も床に唾を吐き捨てていた。
「お客様、どうか落ち着いてください! 単なる配管の故障です!」宿の主人が震える声で叫び、必死に群衆をなだめようとする。しかし、彼の泳ぐ視線は、貯水タンクのある遥か上の「屋根」へと向けられていた。
インドネシア語の「血」と「死体」という言葉を聞いた瞬間、私の心臓は巨大な鉄槌で打ち砕かれたようだった。全身の毛穴が収縮する。私の最悪の予感は、百度、的中してしまった。排水口の長い黒髪、湯気と共に蒸発する死体の生臭さ……。
――エミ。私の妹が、あの上の闇の中にいる。
キミ旅館は、一夜にして生き地獄へと変貌しました。流れ出る温水は赤く染まり、死体の臭気を放ち、外国人観光客たちの集団狂乱を引き起こします。そしてエドは、母国語の悲鳴を通じて、最も残酷な現実に直面することになりました。
全館に流れる水が、妹の隠された場所から来ていると知ったエドは、どのような行動に出るのか? そして、屋上への同行を迫られた宿の主人の反応は。
次回、第7話「南京錠の裏の真実」に続きます。
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