第5話:404号室、死に挟まれた虚無
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キミ旅館の木製の引き戸が、私が足を踏み入れると同時に軋んだ音を立てた。帳場の向こうでは、作り笑顔を浮かべた中年男が立っていた。私は流暢な日本語で、数日間の宿泊を願い出た。男は振り返り、棚から木札のついた鍵を一つ取り出した。
それをカウンターに置いた瞬間、空気が凍りついた。奇妙な沈黙が、私と男の間に流れ出す。
木札に刻まれていた数字は――『404』。
日本人にとって、数字の『4』は不吉の象徴であり、「死」を意味する。そして日本文学を研究する私にとって、404という数字は運命が悪意を持って仕掛けた皮肉のように思えた。二つの「死」が、ゼロという「無」を挟んでいる。死に挟まれた虚無。受付の男は何も言わなかったが、その眼差しには微かな後ろめたさが混じっていた。まるで、私に棺桶の切符を手渡したかのような目だった。
私は鍵を受け取り、二階へと続く廊下を進んだ。1953年に建てられたという古びた床板が、一歩歩くたびに軋んだ。外の霧雨のせいで、古い木材が1月の凍てつく湿気を吸い込み、低く擦れるような音を立てている。それはまるで、床下に埋められた何かが、必死に痛みを堪えて漏らす呻き声のようだった。
404号室の襖を開けた瞬間、濃密な冷気が私を襲った。この部屋の中は、外の廊下よりも遥かに寒かった。鼻を突いたのは、経年劣化で傷んだ古い畳の匂い。それと、長い間外気に触れていなかった部屋特有の、埃っぽい重苦しい空気だった。
襖を閉め、私は静まり返った部屋の中央に座り込んだ。ここでは、外に降る1月の霧雨の音が、分厚い木壁と天井に遮られて、酷く微かにしか聞こえない。その籠もった雨音は、私の精神をじわじわと追い詰めるような、強烈な孤立感を生み出していた。まるで世界から完全に切り離され、巨大な木箱の中に閉じ込められたかのような錯覚を覚える。
異国の暗闇の中で、私はただ一人。しかし、この凍りつくような静寂の中で、私の総毛が突如として逆立った。理性を揺るがすような、得体の知れない不快感が胸を突く。まるで、この密閉された木箱の中にいるのは、息をしている私だけではないかのような――。
エドはついにキミ旅館へと潜入し、不吉な暗示を持つ「404号室」へと収まりました。古い木造宿の隔離された空間が、彼の精神を少しずつ蝕んでいきます。
次回、疲れ果てたエドが洗面所で顔を洗おうとしたとき、彼の五感はある「致命的な異変」を察知することになります。この宿の水が隠している、悍ましい秘密とは一体何なのか。
恐怖がじわじわと触覚と味覚に迫る次回、第6話「変色する水」に続きます。
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