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第2話:足跡を消す線香の煙

#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス

2015年1月。東京は真冬の真っ只中にあった。骨を刺すような北風が、浅草・浅草寺の境内を吹き抜ける。正月ムードの残る境内は、外国人観光客で溢れ返っていた。その喧騒の中心で、私とエミは『常香炉(じょうこうろ)』の前に立っていた。巨大な青銅の香炉から、濃密な白煙が立ち上り、強い白檀(びゃくだん)の香りを周囲に撒き散らしている。この煙を浴びると、病が治り、幸運が訪れると地元では信じられている。


「エド兄さん、時差ボケで少し頭が重いの。すっきりするように、お線香の煙を浴びてくるね」

エミは小さく笑った。厚手のダウンジャケットのせいで、彼女の華奢な体躯が少し膨らんで見える。


「長居はするなよ。寒すぎるからな」

私はマフラーを直しながら答えた。


エミは一エミは一歩踏み出し、香炉を囲む観光客の人混みへと入っていった。その直後だった。突風が吹き荒れ、激しい白煙が常香炉の周囲を一瞬にして包み込んだ。視界が完全に遮られた。時間にして、わずか5秒ほど。


煙が風に流され、薄くなったとき――そこにエミの姿はなかった。


「エミ?」

私は声をかけた。返事はない。


人混みをかき分け、パニックになりながら彼女の名前を呼んだ。しかし、彼女が先ほど立っていたはずの木の床の上に、私の血の気を引かせるものが落ちていた。仲見世通りで買ったばかりの、東京タワーのキーホルダー。そしてそのすぐ隣には、一台のスマートフォン。エミの携帯だった。


これほど人が密集している場所で、なぜ悲鳴一つ上げずに人間を誘拐できるのか?


私が膝をつき、そのスマートフォンを拾い上げたとき、私の鋭い嗅覚が「ある異変」を捉えた。濃厚な白檀の香りの隙間から、鼻を刺すような化学物質の匂いがしたのだ。かすかに甘く、しかし致命的な匂い。


――クロロホルムだ。


私の探偵としての脳が、瞬時に状況を弾き出した。犯人は観光客に紛れて人混みに潜んでいたのだ。線香の煙が激しく立ち上り、周囲の視界が遮られたあの数秒の隙を狙った。犯人は背後からエミの口を、高濃度のクロロホルムを染み込ませたハンカチで塞いだのだ。医学生であるエミはその液体の恐ろしさを知っていたはずだが、わずか数秒で神経を麻痺させる薬物の前では、悲鳴を上げる暇さえなく身体の自由を奪われたに違いない。


そして犯人は、ぐったりとしたエミの身体を抱き抱え、まるで「煙を吸いすぎて体調を崩し、気絶した連れ」であるかのように偽装したのだ。周囲に一切の不審を抱かせることなく、その人間の皮を被った怪物は、エミを連れて人通りの少ない境内の脇道へと消えていった。


私の足がガタガタと震え出した。雪の舞う美しい東京の中心で、私は一つの冷酷な事実に直面していた。私の妹は、極めて冷静で、計画的で、そして凶悪な怪物に連れ去られたのだと。

わずか5秒の間にエミは跡形もなく消え去ってしまいました。

異国の地で一人、パニックに陥るエド。しかし、日本の警察は彼の必死の訴えをただの「観光客の迷子」扱い。


タイムリミットが迫る中、エドは東京留学時代の仲間たちに助けを求めます。そこで明かされる、犯人の恐るべき足取りと、彼らを襲う「謎の警告」とは――?


第3話「交錯する手がかりと、闇からの警告」に続きます。

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