第18話:大雪の夜の完全なる罠
#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス
その夜、東京は大雪に見舞われていた。豊島病院の窓の向こうでは、大粒の白い雪が絶え間なく降り注ぎ、街を凍てつくような静寂で包み込んでいる。私の病室はあえて漆黒の闇に包まれていた。酸素ボンベのかすかな吸引音と、心拍モニターの遅いリズムだけが響いている。
「ピッ… ピッ… ピッ…」。
ベッドの上では、分厚い毛布の裏で一つの人影が静かに横たわり、何本もの偽の医療用チューブに繋がれていた。
ス、スッ…
病室の引き戸が極めて静かに開いた。その蝶番の音は、外の吹雪の音にかき消されてほとんど聞こえない。白衣をまとった体格の良い中年男性が、非常に落ち着いた足取りで部屋に足を踏み入れてきた。彼は日本の病院の医師が着用するような白衣を身にまとい、顔の大部分を医療用マスクで覆っていた。
ラテックス製のゴム手袋をはめた彼の右手には、透明な化学液体が入った注射器が握られていた。それは、ジョグジャカルタで私の両親の命を奪いかけたものと全く同じ医療用毒物だった。
男は暗闇の中でベッドに近づいた。彼は度入りのメガネの奥から、横たわるその影を勝利に満ちた眼差しで見つめた。彼は私のS3の主査であり、私がこれまで最も尊敬していた指導教授だった。
「エド、哀れな私の教え子よ」男は静まり返った部屋の中で、極めて冷酷なジャワ語のへりくだった言葉で囁いた。「日本古典文学に関するお前の博士論文は確かに天才的だった。だが残念ながら、お前の人生の最終章は今夜、この東京で完結する」
彼は注射器を掲げ、ベッドに繋がる点滴のチューブへと近づけた。しかし、針の先がプラスチックのチューブを貫こうとしたその瞬間、男はハッと息を呑んだ。何かがおかしいと気が付いたのだ。ベッドの上の毛布は、人間の呼吸のリズムに合わせて動いていなかった。
カチッ!
天井の蛍光灯が突如として一斉に点灯し、目を眩ませるほどの白い光が室内を照らし出した。
指導教授は一歩後退し、眩しさに目を手で覆った。視界が再びクリアになった時、彼は驚愕で硬直した。ベッドの上の毛布が機械仕掛けのシステムによって自動的に剥ぎ取られ、そこには何本もの配線に繋がれた人間大の医療用マネキン人形が姿を現したのだ。
「2分遅かったですね、プロフェッサー」部屋の隅から冷徹な声が響き渡った。
指導教授は素早く振り返った。室内のバスルームのドアが開いていた。そこには、松葉杖に支えられて真っ直ぐに立つ私の姿があった。病院のガウンの下には、まだ分厚い包帯が巻かれている。私の隣には、鈴木 詩織がしっかりと立ち、その手にあるノートパソコンの画面には、ライブストリーミングの録画ビデオのグラフィックが表示されていた。
「エド?! なぜだ…お前は動けないはずだ!」指導教授はうめき、注射器を持つ手が小刻みに震え始めた。
「博士課程の学生の脳は、肋骨が数本折れたくらいでは麻痺しませんよ」私は冷静に答え、彼の目を真っ直ぐに見つめた。「あなたが昨日、アジスチプト空港で航空券を購入した瞬間から、詩織が国際線の搭乗名簿をハッキングし、あなたの偽造パスポートを追跡していました。インドネシア大使館と警視庁はすでに羽田空港であなたの到着を待っていましたが、私たちはあえてあなたをここまで引き込んだのです」
ズ、ズザーーーッ!
左右の病室の可動壁が、外から突如として力任せに開け放たれた。入ってきたのは看護師ではなく、警視庁の捜査一課から派遣された特殊部隊の面々と、インターポールの捜査官たちだった。何本もの自動小銃の銃口が、指導教授の頭部へと真っ直ぐに向けられた。
「動くな!」日本の警察の指揮官が鋭く叫んだ。
指導教授は手から注射器を床へと落とした。ガラス製の注射器は粉々に砕け散り、無菌室の床の上に純粋な毒液をぶちまけた。先ほどまでの冷静で傲慢な彼の顔は、今や窓の外の雪のように真っ白に変色していた。
「あなたのすべての発言、持ち込んだ毒物、そして過去5年間にわたり十数人のUGM学生を標的にした研究資金名目の連続殺人陰謀は、あなたがこの部屋に足を踏み入れた瞬間から、すべて録画され、インターポールの本部サーバーへ生中継されています」詩織は、視聴者数が数百万人へと達しているノートパソコンの画面を突きつけながら言い放った。
警察が前進し、指導教授の体を壁に押し付け、その両手に冷たい鉄の手錠をはめた。
彼の体が、今や国際メディアの記者たちのカメラのフラッシュで埋め尽くされた病院の廊下を通って引きずられていく際、指導教授は激しい憎悪の眼差しで私を振り返った。
私はその視線に怒りで返すことはしなかった。私はただ、ガウンのポケットの中にある、エミの形見である浅草寺の形をしたキーホルダーのペンダントを強く握りしめていた。私の妹の命を奪った怪物は、今、国際法の前に完全に失脚したのだ。
このサイバー戦争と学術的陰謀は、今夜、東京の地で幕を閉じた。
読者の皆様、第18話を最後までお読みいただきありがとうございます!
ついに黒幕である指導教授を、エドと詩織が仕掛けた完璧な「病院の罠」によって現行犯逮捕することに成功しました! 骨折の痛みに耐えながらも、頭脳戦で怪物を完全に圧倒するエドの姿に、スカッとしていただけましたでしょうか。
セクトの資金力と教授の権力をもってしても、世界中に生配信された証拠の前には無力でした。
さて、本作はいよいよ次回の【第19話(最終回・エピローグ)】をもって完結となります!
最愛の妹・エミちゃんを失った悲しみは消えませんが、エドはしおり、そして現地で助けてくれた仲間たちと共に、どのような結末を迎えるのか。物語の始まりの地である「浅草」で、エドがエミちゃんに捧げる最後の言葉とは……。
ここまで応援してくださった皆様、ぜひエドの旅の結末を最後まで見届けていただけますと幸いです!
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