第13話:狭小空間の生存論理(サバイバルロジック)
#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス
――ヒュッ!
暗闇を切り裂く、鋭い風切り音が響いた。一人目の暴漢が手にしたコンマドナイフの分厚い鋼刃が、私の胸元を直線的に狙ってくる。私は反射的に身を屈めた。ナイフはキミ旅館の木柱に深く突き刺さり、鈍い衝撃音を立てる。しかし、その鋭利な刃は私の厚手のウールコートを切り裂き、左腕と太ももの上部を深く抉っていた。傷口から生暖かい液体が激しく噴き出し、白い障子を禍々しい赤で染め上げていく。マイナス1度の極冷の夜気が開いた傷口を直撃し、全身の理性を焼き尽くすような激痛が走った。
体制を立て直す暇もなく、二人目の男が伸縮式の特殊警棒を振り下ろした。この狭い廊下で、鉄の棒が私の脳天を目がけて縦に一閃される。私は両腕を突き上げ、盗み出した重いボルトカッターの鉄柄でそれを受け止めようとした。
――グシャッ!
警棒は頭部を逸れたものの、私の左の鎖骨と肋骨を容赦なく叩き潰した。胸の奥から、骨が折れる鈍い破壊音がはっきりと聞こえた。凄まじい衝撃に私は激しく咳き込み、口から鮮血をぶちまけた。その血は、割れた窓から吹き込む初雪で白く染まり始めた床板を赤く汚していく。
――バチバチバチッ!
三人目の男が、青白い電撃を放つスタンガンを手に突進してきた。暗闇の中で響くその不気味な放電音が、私の精神を極限まで追い詰める。奴は私を生け捕りにし、悲鳴を上げる間もなく無力化しようとしていた。しかし、博士課程の学術的頭脳が瞬時に作動する。私はウールコートの厚い生地を絶縁体として利用し、スタンガンの先端をわざとコートで受け止めると、残された全力を振り絞って右足で奴の膝を蹴り抜いた。
同時に、両手で握った重いボルトカッターを、暗闇の中で狂ったように振り回す。鉄の塊は三人目の男の側頭部を正確に捉え、歯が砕け、頭蓋骨がひび割れる生々しい音が響いた。奴は耳から大量の血を流しながら床に崩れ落ち、激しく痙攣した。手からこぼれ落ちたスタンガンが、霧雨で濡れた畳の上で虚しく放電を繰り返している。
四人の暴漢を相手に、肉弾戦で勝ち目がないことは百も承知だった。最後方に控える四人目のリーダー格が、戦術用手斧を構え始めている。私は大きな攪乱を引き起こし、都市の非常事態システムを強制起動させる必要があった。
私は床を這い、その階の空き部屋へと逃げ込んだ。そして、小さな卓上に見つけたガスライターの火を使い、乾燥した敷布団と「畳」の端に火を放った。乾燥したイグサの畳が燃えるとき、わずか数秒で極めて濃密で、視界を完全に奪う白い煙を大量に発生させる。室内は一瞬にして猛烈な煙に包まれた。四人目の男の手斧が、煙の向こうから狂ったように振り下ろされ、凄惨な音を立てて障子紙をズタズタに引き裂いていく。
――ビーッ! ビーッ! ビーッ!
宿の火災報知器が、池袋の雪夜の静寂を切り裂いて激しく鳴り響いた。前章で私がKBRI(インドネシア大使館)に送信したデジタル非常通報は、すでに最高レベルの外交ルートを動かしていたのだ。大使館は日本政府に対し、「自国の民間人が国際犯罪組織によって館内に監禁されている」と強烈な圧力をかけていた。
――ドガァァン!
一階の頑丈な封鎖扉が、外部からの圧倒的な武力によって爆破されるように打ち破られた。入ってきたのは通常の地域警察ではない。警視庁の完全武装した特殊戦術部隊(SIT)が、濃煙を突き抜けて一斉に突入してきたのだ。彼らが目撃したのは、歴史あるキミ旅館の木造廊下が、凍てつく寒さで凝固し始めた血の海と化した、文字通りの屠殺場だった。
警察は、畳の煙に燻されて激しく咳き込む残りの暴漢たちを瞬時に制圧した。救急隊員たちが私の周囲に殺到する。コートがハサミで切り裂かれ、太ももの深く開いた裂傷から、白い骨の層が微かに露出しているのが見えた。隊員が施した圧迫止血の包帯は、数秒でどす黒い赤へと染まっていく。
煙と血生臭さが充満する廊下の隅に預けられた私の身体に、酸素マスクが被せられた。パトカーや救急車の赤色灯が激しく回転し、視界を真っ白に染め上げていく。その光の渦を見つめながら、私の意識はゆっくりと薄れていった。宿の外で鳴り響く救急車のサイレンの音が、大量失血による低体温性ショック(失血性ショック)で完全に暗転する前の、私の世界における最後の音だった。
初雪の舞う東京の街を、豊島病院へと猛スピードで疾走する救急車の中。私の頭元で鳴り続ける心電図の電子音は、酷くゆっくりとした弱々しいリズムを刻みながら、私の魂を冷たい死の境界線へと運んでいった。
キミ旅館の狭い廊下での凄惨な死闘は、警視庁特殊部隊によるドラマチックな突入によって幕を閉じました。エドは畳を燃やすという決死の知略で生き延びたものの、その肉体は骨折と深い裂傷により、失血性ショックの限界を迎えてしまいます。
救急搬送された豊島病院で、エドは果たして一命を取り留めることができるのか? そして、大使館と大学へ送信された自白データがもたらす、国際的な大波紋とは。
物語は治療と、新たなる法廷・組織戦の幕開けを迎えます。
次回、第14話「無菌室の覚醒」に続きます。
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