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第12話:狩人の巣窟と、血の告白録

#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス

私はコンクリートの床を転がる懐中電灯を蹴り飛ばした。その光束が、砕けた足首を抱えて悶絶する男の顔を正確に射抜く。怒りで震える手で、私は奴の顔を覆っていた黒いマスクを乱暴に剥ぎ取った。


心臓が停止するかと思った。マスクの裏から現れたのは、あの宿の受付の男だった。昨日、私がチェックインした際、温和な笑顔で深々と頭を下げ、404号室の鍵を手渡してくれたあの若い中居だった。


砕けた骨の激痛に苛まれながらも、男の顔からあの善良な仮面は完全に消失していた。口元が不気味に釣り上がり、冷酷な狂気(きょうき)を孕んだ笑みを浮かべる。奴は命乞いをするどころか、低く嘲笑うような声を漏らした。そして、極めて流暢で丁寧な日本語(敬語)を使い、私を侮蔑するように囁いた。


「素晴らしいですね、お客様。ただの外国人でありながら、そこまでの推論を組み立てるとは、我々の想定を超えていました」


「なぜエミなんだ? なぜ私の妹を殺した!?」

私はボルトカッターの鉄の先端を奴の砕けた傷口に突き立て、強く圧迫した。


激痛に顔を歪めながらも、この宿の底に隠された悍ましい真実が、ついに奴の口から吐き出された。彼らのサークル――日常の退屈に飢えた東京の富裕層たちで構成された秘密組織の狙いは、最初から「単独の外国人観光客(ソロトラベラー)」だけだった。彼らの監視網が、浅草寺で一人になっていたエミを捉えたのだ。彼らは、外国人の小娘なら、拉致しても数日間は誰も探しに来ない格好の「獲物」だと判断し、即座に実行に移した。


しかし、昨日の午後五時半、私のチェックインが彼らの計画を完全に狂わせた。インドネシア人の男が、自分たちのワゴン車をキミ旅館まで正確に追跡してきたことに、彼らは驚愕したのだ。


搬入口のワゴン車を私に監視されたため、彼らは遺体を外部へ搬出する陸路を失った。深夜、彼らは窮余の策として、エミを屋上の貯水タンクに沈めて隠蔽することを決めた。1月の極寒がタンクの底でエミの血液を凍結させると踏んでいたのだ。しかし、彼らは計算を誤った。朝、他の宿泊客たちが一斉に給湯システム(温水)を使用したため、熱気が血液を吸い上げ、全館の蛇口へと拡散させてしまった。彼らの「静かなゲーム」は、その排管の熱によって崩壊したのだ。


――ガキンッ!


突如として、階下から重厚な鉄の駆動音が響き渡った。宿の防犯システムが中央制御によって強制起動したのだ。全ての窓と出口が、厚い鉄板によって自動的に完全封鎖(ロックダウン)されていく。この密閉された木造の檻は、一瞬にして逃げ場のない地下監獄へと変貌した。


負傷した受付の男が、枯れた声で笑いながら呟く。

「手遅れですよ、外国人さん。仲間たちが今、この階へ登ってきている。あなたはもう、生きてここから出ることはできない」


私は動じなかった。インターロゲーション(尋問)が始まった瞬間から、私はコートのポケットの中のスマートフォンで、密かに音声録音アプリを起動させていた。奴の悲鳴、骨の砕ける音、そして富裕層による人間狩りサークルの全容が、極めて鮮明なデジタルオーディオとして記録されていた。


物理的な脱出路が閉ざされたことを察知し、私は脳をフル回転させた。キミ旅館の館内WiFiは、この部屋のメインサーバーと直結している。追っ手がインターネット回線を切断する前の僅かな隙を突き、私はかつて詩織から教わった簡易的な暗号コード(プログラム)を走らせた。数回の操作で、録音データを共有のクラウドストレージへと自動同期(アップロード)させ、そのリンクをジョグジャカルタのUGMの機関メール、そして東京の駐日インドネシア共和国大使館(KBRI)の緊急通報窓口へと同時に一斉送信した。


――キュッ、キュッ、キュッ、キュッ……。


外の廊下から、再び鴬張りの床板の軋み音が聞こえてきた。今度は一人ではない。四人だ。複数の重い革ブーツの足音が、木階段を駆け上がり、私が潜伏する制御室へと近づいてくる。


私はスマホの画面を消し、暗黒の闇の中で身を構えた。手の中の端末が静かに震え、最後の一行を表示する。

【アップロード完了。送信成功】


鋭利な凶器を手にしたサークルの構成員たちが、制御室の引き戸を外から蹴り破ろうとしたその刹那、私は床に転がる受付の男を見下ろし、極冷の日本語で言い放った。


「私の身体をこの宿に閉じ込めることはできても、お前たちの秘密は、一秒前に日本から消え去った(輸出された)ぞ」


――ドォォン!


引き戸が木粉を散らして爆破されるように破られた。強力な懐中電灯の目眩ましの光束が私の視界を真っ白に染め上げ、それと同時に、暗闇の刃が風を切る鋭い風切り音が室内に響き渡った。


善良な受付の男の正体は、退屈したエリートたちによる「人間狩りサークル」の実行犯でした。宿全体が物理的に完全封鎖される中、エドの知略は、犯人の自白録音をクラウド経由でKBRI(インドネシア大使館)とUGMへと送信することに成功します。


しかし、制御室の扉は破られました。凶器を持った四人の構成員が、この極めて狭く暗い部屋でエドを包囲します。


武力を持たない文学博士課程の学生が、四人の冷酷な殺人鬼を相手にどう生き延びるのか? 狭小空間におけるエドの「学術的生存戦略」とは。


物語は最大の死闘、第13話「狭小空間の生存論理(サバイバルロジック)」に続きます。

エドの知的な逆襲と、命懸けの防衛戦の行方が気になる方は、ぜひブックマーク登録と評価(★★★★★)での応援をお願いします!

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