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第9話:レンズの裏に潜む暗号

#サイコスリラー #都市伝説 #ネットストーキング #大学の闇 #復讐劇 #国際陰謀 #泣けるホラー #サスペンス

濡れたコンクリートの床の上で、私の意識はゆっくりと遠のいていった。圧倒的な絶望と2度という極限の寒さに叩きのめされた身体は、物理的なショック状態に陥っていた。私は貯水タンクの傍らで、ただ膝を抱えて力なく座り込んでいた。夜の静寂を切り裂いていた私の慟哭は、やがて音を失い、擦り切れた微かな呟きへと変わり、最後には過酷な精神的疲弊によって視界が完全に闇へと反転した。


どのくらいの時間、意識を失っていたのかはわからない。私の意識を強引に現世へと引き戻したのは、池袋の凍てつく夜の静寂を切り裂く、警察車両(パトカー)の鋭いサイレンの咆哮だった。その音は、秒単位でこちらへと近づき、大きくなっていく。


腫れ上がった目をゆっくりと開いたとき、キミ旅館の屋上を包んでいた闇は、すでに禍々しい「赤」へと染め上げられていた。それは本物の血ではなく、階下に集結した無数のパトカーが放つ赤色灯の光。回転する凶々しい赤光が、古い木造の宿の壁板を執拗に叩いていた。


――バタンッ!


屋上への扉が内側から激しくぶち破られた。騒がしい足音が響き渡る。それは殺人鬼ではなく、工具の紛失に気づいた宿の主人と技術員、そして彼らに率いられて外階段を駆け登ってきた警視庁捜査一課の警察官たちだった。強力な懐中電灯の光束が、彫刻のように硬直して座り込む私を容赦なく射抜く。


「動くな! 手を上げろ!」

日本語の鋭い怒号が響いた。


私は無理やり立たされ、救急用の毛布を肩に掛けられた。眩しい照明の中に晒されながら、私は白い防護服を着た鑑識官たちがエミの遺体を貯水タンクから引き揚げる光景を凝視していた。青い遺体袋のジッパーが私の目の前で閉じられたとき、私はもう泣いていなかった。涙は枯れ果てていた。ここで、私の精神は決定的に変質した。胸を抉るような悲哀は、氷のように冷たく鋭い「殺意」へと凍りついた。


その夜のうちに、私は遺体の第一発見者、そして不吉な「404号室」の宿泊客という理由で、豊島警察署へと連行され、取調べを受けた。当初は外国人である私を疑っていた捜査官たちも、私のパスポートと移動ルートの整合性を確認すると、やがて追及を諦め、ノートPCの画面に一つのデジタルファイルを表示させた。


「被害者が失踪した夜の、宿のサーバーに残されていた防犯カメラの映像だ。君の妹さんは、酷く不可解な行動をとっている」担当の刑事が淡々と告げた。「医学部の過酷な学業ストレスによる、急性精神錯乱の可能性が高いと見てみている」


モニターに映し出されたのは、エミが最後に目撃された夜の、宿のエレベーター内の低解像度な白黒映像だった。音声のないその動画の中で、エミはエレベーターの隅に立っていた。そして突如として、奇妙な行動を始めたのだ。小さく跳ね、身体を回転させ、両手を一定のリズムで上下に動かしている。警察はこれを、幻覚によるヒステリックな踊りだと判断していた。さらに、エレベーターの扉が薄暗い三階で開いたとき、彼女は外に出るわけでもなく、扉の境界線に立ち、誰もいない虚無の廊下に向かって二分間近くも口を動かし、語りかけていた。


しかし、テキストの裏に隠された構造的意味を分析することを生業とする博士課程の脳で、私は警察の致命的な誤診を一瞬で見抜いた。


エミは踊ってなどいない。カメラを見つめる彼女の瞳は虚ろではなく、レンズの奥を鋭く、真っ直ぐに凝視していた。私は息を詰まらせ、喉の奥で血の味を感じた。エミの手の動き――それは、私たちが子供の頃、ジョグジャカルタの自宅でよく遊んだ「医療記号の暗号」と、緊急時のジェスチャーそのものだったのだ。


上下に揺れる彼女の手の動きは、衰弱していく心電図(EKG)の波形を模していた。それに続く指の形は、数字の暗号。彼女は私に、自分の身体に注入された薬物の種類を伝えていたのだ。そして、誰もいない廊下に向かって彼女が口を動かしていたとき、エレベーターの壁の鏡には、扉の足元に映る小さな異変が捉えられていた。――黒い革ブーツの先端が、外側から扉のセンサーを遮っている。エミは幽霊に話しかけていたのではない。カメラの死角(ブラインドスポット)に立つ殺人鬼の目の前で、必死に命乞いをし、時間を稼いでいたのだ。


私の視線はモニターの右上へと移った。エレベーターの操作パネルにある「開延長」のインジケーターが、不自然な規則性で点滅している。犯人は足で扉を抑えていたのではない。宿の中央制御室のコンピューターから、何者かが遠隔でこのエレベーターをマニュアル操作(上書き制御)していたのだ。自動反転システムは完全に遮断されていた。エミは鉄の箱の中に閉じ込められたネズミだった。エレベーターがどこへ動こうとも、殺人鬼は外部からそれを意のままにロックできたのだ。


午前一時十五分、映像が砂嵐(スタティックノイズ)へと反転して途切れる直前、エミは黒い影によって力ずくで外へと引きずり出された。しかし、エレベーターの扉が閉まるその一秒前、黒い革手袋をはめた不気味な手がレンズに向かって伸び、カメラのレンズを指差しながら、三本の指を突き立てた。


三本の指。


秘密組織の犯罪心理学において、数字の「3」は次の標的を意味する。そして、エミの次に予定されている標的は――この私だ。

警察の介入は、エドの悲しみを氷のような復讐心へと変えました。警察が「狂気」と片付けたエレベーターの防犯カメラ映像から、エドはその天才的な洞察力で、エミが遺した心電図(EKG)の暗号と、犯人の遠隔制御トリックを見事に暴き出します。


しかし、映像の最後に残された黒い革手袋の「三本の指」は、エドに対する明確な死刑宣告でした。エドはエミが命懸けで遺した医療暗号を頼りに、エレベーターを操作していた宿の内部の人間をどのように追い詰めるのか?


素人探偵(アンプロ探偵)の冷徹なる逆襲が始まります。

次回、第10話「制御室の狩人」に続きます。

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