一か所綺麗でもダメ
城が綺麗になったのは、それから数週間後のことだった。
廊下の埃は消え、壁は磨かれ、兵士たちの鎧も以前よりずっと光っている。
「よし。これでお城はひとまず合格ね」
トモエは満足げに頷いた。
だが、窓の外を見た瞬間、眉をひそめる。
「……街、汚いままじゃない」
城の周りは綺麗になったが、街の通りにはまだゴミが散乱し、建物の前には壊れた木箱や古い布が積まれている。
「一か所綺麗でもだめなのよ。家の中だけ片付けても、庭がゴミだらけじゃ意味ないでしょ」
トモエは振り返り、レオンに言い放った。
「というわけで――街の掃除、やるわよ」
「……街の、掃除を?」
「そうよ。あんたの騎士団も全員連れてきて」
レオンは一瞬だけ固まった。
「……騎士団を、清掃活動に?」
「当たり前でしょ。国を綺麗にするのに、偉いもへったくれもないのよ」
そこへ、エルディオが歩み寄ってきた。
「僕も行きます」
「えっ、エルディオ様!?」
「いけません! 危険です!」
周囲の兵士たちが慌てて止める。
だが、トモエはきっぱりと言った。
「いいのよ。こういうのはね、一番上の人間がまずやってるのを見せるのが大事なの」
エルディオは静かに頷いた。
「僕は……この国を変えたい。
そのために、できることは全部やります」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「……分かった。騎士団を動かす」
「よし、決まりね!」
翌日。
街の広場には、兵士、騎士団、城の使用人、そして王子であるエルディオまで勢揃いしていた。
「えー、皆さん!」
トモエが手を叩くと、全員が注目する。
「今日から街の掃除をします! ゴミ拾い、片付け、壊れた物の整理! やることは山ほどあるわよ!」
「はっ!!!」
兵士たちの返事は、以前よりずっと明るかった。
トモエは手際よく指示を飛ばす。
「そこの人たち、道の端から順に大きいゴミ拾って! レオンは重い物担当!」
「は、はい!」
「心得た」
「あ、あの、僕は何をすれば……?」
戸惑うエルディオへトモエは子供たちを指差す。
「あなたはあっちの子どもたちと一緒に掃除。王子様がやってるって見せるのが教育にもなるの」
「わ、分かりました!」
エルディオは子どもたちに囲まれながら、ぎこちなくゴミを拾い始めた。
街の人々は最初こそ驚いていたが、王子と騎士団が本気で掃除している姿を見て、次第に手伝い始めていく。
「王子様までやってるってんなら、流石にわしらもやらんとなぁ」
「騎士団には負けてられないわねっ」
「よし、皆! やるわよ! 私たちの街なんだから私たちが頑張らないと!」
地位など関係なく、王国全員で清掃活動する姿をトモエは腕を組み、満足げに見ている。
「うんうん。こういうのはね、皆でやるから意味があるのよ。……さて、じゃあ」
トモエは袖を捲り上げると、輪に加わるべく走り出す。
「皆もっとテキパキやるわよ!今日一日で終わらせるの!」
こうして、やがて歴史に残る、王国始まって以来の大規模な清掃活動日が始まったのだった。




