思ったことをすればいいのよ
壁に叩きつけられた騎士団長は、しばらく呆然としたままトモエを見つめていた。
「……な、何を……した……」
「軽く叩いただけよ。あんたが勝手に吹っ飛んだの」
トモエは腰に手を当て、ずんずんと騎士団長へ歩み寄る。
「役割が大事なのは分かる。王の命令は絶対とか、立場上とか、色々あるんでしょう。それは、わかる」
騎士団長は黙ったまま、トモエを見上げる。
「でもね、それって自分を殺してまでやることなの?」
トモエは指を突きつけた。
「王子だとか身分だとか関係ないのよ。自分より若い子が、目の前で死ぬかもしれないのよ? それでも“命令だから”って従うの?」
騎士団長の表情がわずかに揺れた。
「……私は……」
「思ったことをすればいいのよ」
トモエは静かに言った。
「誰かの命令じゃなくて、あんた自身が“どうしたいか”で動きなさいよ」
しばらく沈黙が落ちた。
やがて、騎士団長はゆっくり立ち上がり、牢の奥へ向かう。
倒れているエルディオを抱き上げると、短く言った。
「……お前も出ろ」
「え?」
「ついてこい」
それだけ言い残し、騎士団長は歩き出した。
医務室は慌ただしかった。
「これは……毒か?」
「いや、魔力の乱れでは……?」
「この薬草を煎じれば……」
「いや、こっちの方が……!」
兵士や医務官たちが、王子の周りであれこれ言い合っている。
そこへトモエが入ってきた。
「ちょっと! まず寝かせなさいよ!」
全員が振り返る。
「ね、寝かせる……?」
「当たり前でしょ! 熱があるんだから!病人そっちのけであーだこーだやってて治るわけないでしょ!」
トモエはエルディオの枕元に駆け寄り、布団を整える。
「それと、氷! 袋に詰めて持ってきて!」
「こ、氷……?」
「そうよ! 頭冷やすの! 早く!」
兵士たちは慌てて走り出した。
トモエはさらに周囲を見回す。
「で、台所はどこ?」
「だ、台所……?」
「お粥作るのよ! 食べやすい物食べさせて栄養つけなきゃ治らないでしょ!」
兵士は慌てて指をさす。
「あ、あっちです!」
「よし、案内して!」
トモエは袖をまくり、ずんずんと歩き出した。
その背中を、騎士団長は黙って見つめていた。
何かが変わり始めている――そんな空気だけが、医務室に静かに満ちていた。




