あんたはどうしたいのよ
牢の前に立つ騎士団長を見上げながら、トモエは腕を組んだ。
「ねえ……あんた、本当に今の王国がいいと思ってるの?」
騎士団長は眉一つ動かさない。
「……答える必要はない」
「それが答えになってるわよ。……いいとは言わないって」
「…………」
「街も城もボロボロで兵の皆は疲れ切ってる。逆に言うと、あんな汚い男の下で働くことに納得してる人間って、一人でも居るの?」
「……喋るな」
短く言い捨て、騎士団長は踵を返した。
トモエはため息をつく。
「頑固ねぇ……」
さらに数日が過ぎた。
牢の奥で座っていた青年――エルディオが、突然激しく咳き込み、そのまま倒れ込んだ。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」
トモエは慌てて駆け寄り、額に手を当てる。
「あんた、ちょっと、なんで黙ってたのっ! 熱出てるじゃない!」
トモエは鉄格子を叩きながら叫んだ。
「誰かー! 来てー!」
駆けつけた兵士は狼狽える。
「ど、どうした!」
「この子、熱があるのよ! お水と布っ。あと、寝かせる場所を――」
「で、ですが……許可がなければ……!」
「許可とか言ってる場合!? 死んじゃうわよ!」
兵士が困惑していると、重い足音が近づいた。
「……何事だ」
騎士団長だった。
トモエはすぐに説明する。
「この子、熱があるの! ちゃんとした場所で寝かせないと!」
騎士団長は短く息を吐き、鍵を開けて牢に入ってきた。
「おかしな真似はするな」
「しないわよ!」
騎士団長は王子の額に手を当て、静かに目を伏せた。
「……長くはないな」
「はぁ!? 何言ってんのよ!」
トモエは即座に否定した。
「ただの風邪が悪化しただけよ!数日ちゃんと寝かせて、栄養つければ治るわよ!」
「……お前は医者か」
「違うわよ! でも、あんたも医者じゃないでしょっ!」
トモエは胸を張った。
「でも、こんなのは誰だって分かるわよ! 風邪だって!」
騎士団長は冷たい目でトモエを見る。
「……信用できんな」
「ちょっと待ちなさい!」
去ろうとする騎士団長の背中に、トモエは怒鳴った。
「こんな若い子が、治る病気で死んでいくのが、本気でいいと思ってるの!?」
「王が出すなと言った。王の命令は絶対だ」
「王様王様って……あんた、自分はないの!?」
その言葉に、騎士団長の表情がわずかに揺れた。
「……黙れ」
低い声とともに、騎士団長は一歩、また一歩とトモエへ歩み寄る。
威圧感が空気を押しつぶすように広がった。
だが――。
「そんな威圧、効かないわよ!」
トモエは拳を握りしめ、勢いよく振りかぶった。
「あんな小汚い男に従ってるあんたなんかっ……怖くないのよ!」
――ぱしん。
トモエ的には“軽くビンタ”のつもりだった。
だが。
「……っ!?」
騎士団長の身体が、まるで大砲で撃たれたかのように吹き飛んだ。
床を滑り、壁に背中をぶつけて止まる。
牢の外の兵士たちが悲鳴を上げた。
「き、騎士団長ぉーーーっ!?」
当の本人であるトモエも驚き固まる。
「……あら、やだっ。あんたそんなに軽かったの? ごめんなさいねっ」
騎士団長は壁にもたれたまま、信じられないものを見るようにトモエを見つめていた。




