愛葬
――ぁぁぁ……にいちゃぁぁんっ……
幼い妹が、泣きながら俺の足にしがみついてくる。
その小さな手の震えが、やけに鮮明に伝わってくるのに――
俺は動けなかった。
目の前には、母の墓石。
風に揺れる一輪の花。
普段なら気にも留めないただの雑草が、
その時だけは、やけに鮮やかに見えた。
妹の頭を撫でてやることさえ、できなかった。
近くで起きた戦争。
勝ったはずの戦いだった。
なのに――
あいつらは関係のない俺たちの村まで襲ってきた。
家は焼かれ、
母は倒れ、
妹は泣き叫び、
俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。
国も、軍も、兵も。
それに関わる奴ら全員が嫌いだった。
こんな国、世界、全部――
滅んでしまえばいい。
そう思っていた。
あの日までは。
ある日、一人の騎士が村にやってきた。
少ないが物資を持ってきたという。
だが、俺はその騎士が差し出した物資をぶちまけた。
気のすむまで踏みつぶし、騎士にも殴りかかった。
所詮ガキの俺なんか、簡単に吹き飛ばせたはずだ。
だが騎士は、殴られながらもじっとしていた。
本物の戦場を知る者のはずなのに、
悲しげな顔で、ただ受け止めていた。
それでも騎士は毎日来た。
俺も毎日物資を踏みつぶし、殴り、蹴った。
だが――ある日、止まった。
妹が、騎士の前に立ちふさがったのだ。
やせ細り、ふらつきながらも、
必死に騎士を庇っていた。
その時、気づいた。
俺が毎日物資を踏みつぶしたせいで、
妹も何も食えていなかったことに。
守れなかった命を悔やみながら、
今守るべき命すら大事にしていなかったことに。
妹は倒れ、
騎士は謝罪と共に妹を抱えて家へ運び、
ベッドに寝かせた。
そして「少し待っていろ」と言い残し、
しばらくして戻ってきた騎士は、
新たな物資で料理を作った。
正直、不味かった。
腹が減っていても不味かった。
でも――
なぜかそのスープは全部飲めた。
妹も数日後には元気になり、
怒り、泣き、笑い、
いつもの生活に戻った気がした。
そして、騎士が訪ねてきた。
俺はもう物資を踏みつぶさなかった。
素直に受け取り、礼を言った。
そして頼んだ。
剣の稽古をしてくれ、と。
騎士は悲しい顔をして首を振った。
それでも俺は頼んだ。
妹を――最後の家族を守りたい、と。
騎士は呆れたようにため息をつき、言った。
「十五になったら訪ねてこい」
そして名を名乗った。
――騎士団長。
グランドだと。




