山場ね
牢屋での“口封じ”事件から数時間後。
政務室にはレオン、フェルナン、エルディオ、そしてトモエが集まっていた。
「……死んだか」
報告を聞いたレオンは、低く呟いた。
その表情は冷静だが、目の奥は鋭い。
「ねぇ、レオン」
トモエが腕を組んで問いかける。
「あんたなら、あの小汚い人がどういう人間か分かるんじゃないの?」
レオンは少し考え、答えた。
「奴は……先代王の側近だったが、優秀という話は聞いたことがない。王になった途端、酒浸りの贅沢三昧で、政務もせず、誰とも関わりを……」
そこでレオンは、ふと何かを思い出したように目を細めた。
「……いや、一人だけいたな」
「誰よ?」
「アーヴェルだ」
その名が出た瞬間、政務室の空気がわずかに揺れた。
その時、扉がノックもなく開いた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、白髪混じりの老兵だった。
「グランド。よく来てくれました」
エルディオが立ち上がり、嬉しそうに迎える。
グランドは深く頭を下げ、レオン、フェルナン、トモエにも丁寧に挨拶した。
「王子より、協力を仰がれましてな。前王の代から城に仕えておりますゆえ、何かお役に立てればと」
「あら、それは助かるわ」
トモエが微笑むと、老兵は照れたように頭を掻いた。
「今、アーヴェルという名が聞こえたが……?」
グランドがレオンに問う。
「ああ。それは……」
レオンは頷き、状況を説明した。
「ふむ。あやつか……」
聞き終わったグランドがへ、フェルナンも続ける。
「アーヴェルは……以前から不穏な動きがあり、影守として追ったことがあります。その時は……その、何も掴めませんでしたが……」
「怪しいわねぇ……」
トモエは顎に手を当てた。
「ま、ここは本人へ聞くしかないわね」
トモエの言葉に皆頷きを返す。
「正直言うとは思えんが、まあ、それしかないな」
「ここで悩むよりは、まず、接触した方が分かることも、あるかもしれません」
「私も、お供しよう」
グランドが一歩前に出る。
こうして、レオン、フェルナン、エルディオ、トモエ、そしてグランドの五人は、アーヴェルの私室へ向かうことになった。
皆、表情は硬く。言葉も交わすことなく、アーヴェルの私室へ向かうため、中庭に面した長い廊下を歩いていた。
その時――。
「――あっちだ! 追え!!」
中庭から兵士の怒号が響いた。
「何事だ!」
二階の廊下からレオンが声を張ると、中庭に居た兵士が答える。
「フレア殿です! 文官のフレアが不審な動きをしていたので問いただした兵が、突然、針で刺され……泡を吹いて倒れました! 今、追跡中です!」
「なんだとっ!」
レオンは走り出す。
「ちょ、ちょっと! 待ちなさいってば!」
トモエも慌てて追いかけ、フェルナン、エルディオ、グランドも続く。
捜索の末、一行は城の地下へと辿り着いた。
普段は誰も立ち入らない、薄暗い水路。
「こんな所に逃げ込むなんて……」
フェルナンが警戒しながら呟く。
その奥で、レオンが文官フレアを追い詰めていた。
「もう逃げ場はないぞ、フレア」
フレアは壁を背にし、肩で息をしている。
「……っ……レ、レオン様……わ、私は……!」
「知っていることがあるなら全て話せ」
レオンが一歩踏み出した瞬間――フレアの視線が、レオンたちの“背後”へ向いた。
「ひ……ひぃ……!」
その顔が、恐怖で歪む。
「うん?――」
レオンが振り返ろうとした、その瞬間。
ズブッ――。
鈍い音が響いた。
「――っ!」
フレアの胸に、一本の剣が深々と突き刺さっている。
「…………」
刺したのは張本人、それは――グランドだった。
「きゃあああああっ!!」
トモエが悲鳴を上げる。
フレアはそのまま崩れ落ち、動かなくなった。
「グランド……! 殺す必要はなかったのでは?」
レオンが低い声で問う。
「ふっ……」
だが老兵は静かに首を振った。
「甘い。こやつは……」
グランドは屈み、フレアの手を持ち上げて見せた。
そこには、細い針のような凶器が握られている。
「先の兵が言っていた毒針。騎士団長、もしくは王子を……隙を見て刺すつもりだったようだ……」
エルディオが息を呑む。
「そんな……!」
「やらねば、やられていた。それだけのことです」
グランドの声は冷静で、しかしどこか哀しみが滲んでいた。




