崖はあるのかしら
残党たちが連行され、執務室にようやく静けさが戻った。
「……よかった……本当に……」
エルディオは胸を押さえ、まだ震える声で呟いた。
フ
ェルナンはエルディオの肩を支え、レオンは倒れたフードたちを確認している。
そんな中、トモエは腕を組んで首を傾げていた。
「……なんか、引っかかるのよねぇ」
その言葉に、三人が同時に振り向く。
「母上、どういう……?」
「トモエさん、何か気になることが?」
トモエは深く息を吐き、まるで探偵の様に部屋をウロウロしながら語り始める。
「いやね。少し前ならともかく……今のお城って、皆ちゃんと仕事してるでしょ?」
「……ああ。警備も以前より厳重になっている」
レオンが頷く。
「でしょ? 前ならともかく、今のお城に……誰にも気が付かれることなく、あんな人数が忍び込めると思う?」
エルディオとフェルナンは顔を見合わせた。
「たしかに……」
「そんなに簡単に入れるはずが……」
レオンの表情が険しくなる。
「……招き入れた者がいる、ということか」
「疑いたくはないけどねぇ……なんか、こう……引っかかるのよ」
トモエは指を立てて言う。
「サスペンスでもこういうのあるのよ。“内部に協力者がいた”ってやつ」
「さす……さすぺ……?」
エルディオとフェルナンが同時に首を傾げる。
「サスペンスよサスペンス。事件ものの話でよくあるの。犯人は外じゃなくて、中にいたってやつ」
レオンは腕を組み、深く頷いた。
「……なるほど。確かに、内部の者が手引きしたと考えれば辻褄が合う」
「でしょ?」
「調べてみるか」
レオンの声は低く、鋭かった。
「もちろんです」
「内部に居るとすれば、見過ごすことはできません」
フェルナンとエルディオが並んで立つ。
「二度も同じことはさせないわ」
トモエも両の拳を合わせ、力強く言う。
こうして、内部捜査が始まったのだった。
後日の昼間。
フェルナンとレオンが、あまり目立たぬように城内の聞き込みを行っている中。
政務室では、エルディオとトモエが待機していた。
「ねぇ、エルディオ」
「はい、母上?」
「……あんたが牢屋に入ってた時に“王”をやってた、あの小汚い人。あれ、どういう人間だったの?」
エルディオは少し考え、答えた。
「父上の側近だった人です。ですが……これといって優秀だったという話は聞きません。むしろ、影が薄いというか……」
「ふぅん……」
トモエは腕を組んだ。
「本人に聞いてみるしかないわね」
そう言って、トモエとエルディオは数人の兵士を連れて牢屋へ向かった。
牢屋へと続く扉前に着いた瞬間、トモエは眉をひそめた。
「……扉、半開きよ」
エルディオが息を呑む。
「まさか……脱走……?」
「ダメよ。こういうの、サスペンスでよくあるのよ」
「さす……ぺんす……?」
「いいから警戒しなさいっての」
トモエの言葉に、兵士たちは無言で頷き、慎重に牢屋の通路へ足を踏み入れた。
六つある牢の一番奥へ進むにつれ――。
「……っ!」
倒れた警備兵が数人、床に転がっていた。
「やだ……見たくないわよ……」
トモエは目を覆いながらも、足を止めずに進む。
そして、一番奥の牢に辿り着いたとき。
全員の視界に飛び込んできたのは、あの“王だった男”の刺殺死体だった。
胸元には深々と刃物が突き立ち、血はすでに黒く乾いている。
「っ……!」
エルディオが息を呑む。
兵士たちも言葉を失った。
トモエはしばらく沈黙したあと、ぽつりと呟いた。
「……二時間でたりる……のかしら?」
「え……?」
「サスペンスだとね、こういうの“口封じ”って言うのよ」
エルディオは青ざめた。
「じゃあ……内部に……」
「ええ。“協力者”どころじゃないわね。“黒幕”がいるわよ、これ」
牢屋の冷たい空気が、一層重く沈んだ。




