危なかったわ
数日後の夜。
トモエは、まだ灯りのついた執務室の前に立っていた。
手には、温かいハーブティー。
「まったく……夜更かしはお肌に悪いのよ」
ノックをする。
――返事はない。
「寝落ちしちゃったかな……」
苦笑しながら声をかける。
「入るわよー」
扉を開けた瞬間――。
「……え?」
トモエの目に飛び込んで来たのは、執務室の中央で、エルディオが数人のフード姿の男たちに囲まれている姿だった。
「エルディオ……!」
「母上……!」
エルディオがこちらを見て叫ぶ。
その瞬間、フードの一人が輪から離れ、刃物を手にトモエへ向かって突進してきた。
「母上!!」
エルディオの叫びが響く。
危ない。そう思った瞬間。
「――やめなさいよ!」
次の瞬間、フードの男は吹き飛んでいた。
「ぐふぁっ……!」
壁に叩きつけられ、そのまま動かない。
「…………」
トモエは拳を突き出した姿勢のまま静止している。
「……は?」
残党たちも、エルディオも、一瞬時が止まった。
「く、くそっ……!」
だがすぐに、別のフードがエルディオを羽交い締めにし、首元に刃物を突きつけた。
「動くな!!」
エルディオが苦しげに息を呑む。
トモエは、驚くほど冷静だった。
「ねぇ、あんたたち」
その声は、静かで、しかし鋭かった。
「王国を取り戻すって言ってるけど……取り戻せたら、この子より上手くできるの?」
フードたちが一瞬だけ動きを止める。
「今、この子から“国”を奪って……国民を納得させられるのかしら?」
刃物を持つ手が、わずかに震えた。
「暗殺なんて卑怯なことしてるあんたたちに、本当に国民が従うと思ってるの?」
その言葉は、残党たちの胸に深く刺さった。
「くっ……」
迷いが生まれた、その瞬間――。
「――っ!」
窓ガラスが割れた。
黒い影が飛び込んでくる。
「っ……!」
フェルナンだった。
彼女は一瞬で、エルディオを押さえるフードの腕を捻り、刃物を弾き飛ばし、床に押し倒す。
ほぼ同時に、執務室の扉が勢いよく開いた。
「諦めろ」
レオンと数人の兵士が剣を構えてフード達を取り囲む。
「く、くそっ……!」
残党たちは完全に戦意を失って、次々と武器を落とし、兵士に連行されていく。
「母上……! ご無事で……!」
エルディオは息を整えながら、トモエへ駆け寄る。
「ほんと、あんたが危なかったわよ……ほんとに」
トモエは胸に手を当て、深く息を吐く。
「むしろ、本当に危なかったのは……こいつらか……?」
倒れたフードを見下ろしながら、レオンはぽつりと呟く。
フェルナンとエルディオはその言葉に思わず苦笑したのだった。




