許してくれる、かしらね……
トモエが政務室の扉をノックすると、中から紙をめくる音と、かすかなため息が聞こえた。
「ちょっと休憩したらどう?」
トモエが扉を開けると、エルディオは難しい顔をして書類に目を通していた。
「あぁ……トモエさん」
トモエはお菓子とお茶が乗ったお盆をエルディオの机に置いて微笑む。
「頑張ってる子は糖分が必要よ」
「……っ」
エルディオの目が潤む。
「ありがとうございます……! こんな、僕のためにっ……」
「もう、大げさねぇ」
トモエが笑うと、エルディオもぎこちなく笑う。
「すいません。僕、こういうの……慣れていなくて」
「こういうの?」
「はい。その、誰かが……自分のために何かをしてくれる、ということに」
エルディオは少し俯き、静かに語り始めた。
「母は……幼い頃に亡くなり……。父……先代の王も忙しく、親子らしい時間はほとんどなくて……」
トモエは黙ってエルディオへ視線を向ける。
「だから……家族というものが……僕には、よく分からないんです」
エルディオはお茶を見つめ、小さく息を吸った。
「……トモエさん」
「なぁに?」
「その……あなたを……“母上”とお呼びしても、よろしいでしょうか」
トモエは固まった。
「ちょ、ちょっと待って。あんたには、ちゃんとお母さんがいたんでしょ?」
「はい。亡くなりましたが……僕を産んでくれた、大切な人です」
「なら、その人を差し置いて母親にはなれないわよ」
エルディオの肩がしゅんと落ちる。
「……そう、ですよね……」
その姿があまりにも寂しそうで、トモエは思わずため息をついた。
「……しょうがないわねぇ」
「え……?」
「呼ぶだけなら……お母様も、許してくれる……のかしらね……?」
エルディオの目が大きく開いた。
「……っ! よろしいのですか……!」
「ただし、勝手にはできないわ! 行くわよ!」
「え。行くってどこにっ?」
聞き返すエルディオに、トモエはタオルを頭に巻きながら言った。
「あんたのお母さんのお墓よ!」
その日の午後。
トモエとエルディオは、城の裏庭にある小さな墓地を訪れていた。
「…………」
そこには、先代王妃の墓が静かに佇んでいる。
「ここが……母上の……」
「なに湿気てんの。さ、早く掃除するわよ。雑草だらけじゃないの」
「は、はい!」
二人で雑草を抜き、石を磨き、掃除が終わる頃には陽が沈みかけていた。
「母上……」
花を供える。
エルディオは墓前に膝をつき、静かに手を合わせた。
「僕は……この国を、必ず立て直します。見ていてください……」
トモエもエルディオの隣にしゃがみ、手を合わせる。
「……安心してください。私がこの子を見守りますから。悪さしようものなら、ぶっ飛ばしてでも正しい道を歩かせます……」
優しい風が吹き抜け、墓前の花が揺れた。
まるで王妃が微笑みながら、二人を見守っているようだった。




