こうなると思ってたのよ。ほんとよ
トモエに腕を引っ張られ、フェルナンは半ば引きずられるように城へ戻ってきた。
「ちょ、ちょっと……女神様、私は……!」
「女神じゃないって言ってるでしょ。ほら、歩く!」
そんなやり取りをしながら廊下を進んでいると――。
「ん……?」
角を曲がった先に、レオンが立っていた。
いつものように背筋を伸ばし、冷静な表情で書類を抱えていたが――。
「なっ……!」
フェルナンの姿を見た瞬間、その表情が崩れた。
「フェ……フェルナン……?」
声が震えていた。
フェルナンも目を見開く。
「……兄様……?」
次の瞬間、レオンは書類をそっちのけで、フェルナンに駆け寄り、肩を掴んだ。
「フェルナン! 生きていたのか……!」
普段の冷静さが嘘のように、レオンの声には感情が混ざる。
「え、ちょっと……」
トモエはぽかんと口を開ける。
「あんた達、兄妹……だったの?」
フェルナンは小さく頷いた。
「……はい。兄さんです」
レオンはフェルナンの肩を離し、深く息を吐いた。
「……消息を絶ってから……ずっとお前を探していた。どこかで生きていてくれたらそれでいいが、もし、死んでいたらと考えると……もう……兄さんは……おまえ……」
その声には、騎士団長ではない、ただの兄として、焦りと不安と後悔が混ざっていた。
「ああ……だから、最初会った時のあんた、疲れ切ってて、愛想悪かったのね」
トモエの言葉にレオンは苦い顔をした。
「……否定はしない」
フェルナンは申し訳なさそうに目を伏せる。
「兄様……私は……影守としての務めを果たせず……王国に戻る資格がないと……」
「馬鹿を言うな!」
レオンが珍しく声を荒げた。
「お前が戻ってきてくれただけで十分だ。資格など関係ない。俺は……ただ、お前が生きていてくれれば……それでいいんだ」
フェルナンは驚き、そして微かに涙を浮かべる。
「ふむ……」
トモエは腕を組んで二人を見つめる。
「……やっとわかったわ。最初にフェルナン見た時に、レオン。なんか、あんたに似てる気がしたのよ」
「似てると言われたことがないが……?」
「いや、私もね、なんであんたが思い浮かぶんだろうなって思ったんだけどねぇ。不器用で勝手に自分を追い込んで、何でも一人で抱え込むタイプって、そっくりじゃないっ。あんたたち兄妹だわっ」
トモエは豪快に笑い、レオンとフェルナンは同時に目を逸らす。図星でしかなかった。
「いい? 家族なんだから、これからはちゃんと話し合いなさい。似た者同士なんだから、互いに気遣うの」
トモエはフェルナンの肩に手を置く。
「じゃないと、次は、お兄ちゃんが勝手に消えようとするわよ?」
「そ、それは……絶対嫌ですっ」
「でしょう? あんた、お兄ちゃんにその気持ち植え付けるとこだったのよ?」
「あっ……」
トモエはフェルナンの身体の向きを変えると、そのままレオンの方へ押し出す。
「はい。分かったなら、ちゃんと謝って仲良くする」
フェルナンはレオンへ小さく頭を下げる。
「兄さん……ごめんなさい。私、もう……何も言わずに、消えようなんて……」
レオンは苦笑しながらも、フェルナンの肩にそっと手を置いた。
「こうして戻ってきてくれたんだから、もういいんだ。それより……俺も、もっと本気でお前を探すべきだった。……すまない」
「そんな、兄さんが謝ることじゃ……」
謝罪合戦になっている兄弟をトモエは満足そうに見守る。
「……なんか、いいことしちゃったわね」




