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マスター・オブ・ザ・ギア【Ma$ter 0F da GEAR】  作者: ポリニンゲン
駆動する鋼
9/18

ボーイ【β0y】

 太陽の光が、地上への階段に差し込む。


 今日も今日とて異邦の怪物(ドゥネル)を“狩りに行く”。 

 

 村の狩人は三人だけ。僕とプロネッタとエクンノ。誰か一人でも欠ければ今の村の生活は維持できない。


「あぁ、姉ちゃんが戦えたら…」


 ボソリと呟く。けれど、そんなこと言ってもどうにもならないし、僕にはその“資格”がない。昔、姉ちゃんは勇者“だった”のに。


 今は剣すらもうまともに振ることが出来なくなってしまっている。僕のせいで。けれども、ドゥネルと勇敢に戦うあの後ろ姿は、今も憧れなんだ。


——ザッ


 階段を登りきり、もう誰もいない草原へと足を踏み出した。背後では階段が揺らいで消えた。


 プロネッタの秘匿の魔法はいつ見ても凄い。僕にはできない魔法だ。だが僕だって負けてない。

 村一番の強さって、姉ちゃんに言われたから。


「速攻走破《Cスキップ》」


 そう唱えると、脚に光が宿った。魔法に変換しきれなかった魔力が溢れ出ているんだ。


 脚を曲げて、姿勢を低くする。

次の瞬間、風を追い越すように走り出した。

風は起きず、恐ろしい程静かな疾走。


 着ている黒いフードが風で暴れる。このフードは貰い物。姿を見えづらくしてくれる。


 今日の狩場は、近場でドゥネルが多い東の森。この森は最近おかしい事が起こる。

 

 僕のスキル【危機感知】が周りに何も居ないのに発動する。危機感知は、向けられる敵意や殺意を感知できる。ただし、見られている時限定。


 透明になれるドゥネル? それか透明なドゥネル? 本音を言えば怖いけど、最近貯蔵が少なくなってるから頑張ろう。


 およそ一時間をかけて東の森に到達したその時。


「煙?」


 森の中から一筋の白煙が立ち上っていることに気が付いた。僕は深く考える事もなく煙のほうへと向かった。火事か、人為的なものかは分からなかったが、それは気にしなかった。


 燃え広がったらまずい事になる。その一心だった。僕は火の元と思われる、ひらけた所に勢いよく飛び出る。空中で、目を向ける。


 そこには透明なガラス片や鉄屑、肉片、ドゥネルの死骸が数多く散乱している。

その中心に———人ではない人がいた。


***


 辺りの木を切り倒し、薪を燃やしていると突然人影が森から飛び出る。ソイツは、映像で見た通り黒いフードを被っている。Aだ!


 2日前のヘルメとの話を思い出す。


「いいかぁ? Aを探す上で重要な事は、Aに気付かないことだ。ハッキリ気付いてしまえば、それがデータ上での発見だろうと逃げられちまう。アイツの魔法の一つだろう」


「じゃあどうする?」


「こっちが無理なら、あっちに来て貰えばいい、だろ?」


 ムバーは説明する。Aがこの森に炎がある事を極端に嫌うことを。例えば小規模な山火事は直ぐに駆けつけ、炎を纏った化け物がいれば率先して狩ると言った具合だ。


 そんなこんなで、最悪の作戦が決まった。名付けて[これから毎日森を燃やそうぜ作戦]だ。


 Aがこの森を重要視しているならば、見に来るという予測で立てた作戦。


 とにかく薪を焚べ続けて、火事を演出する作戦だ。


 火を燃やしながら待ち続けて2日目。バッテリー、あらかじめ汲んでおいた水、弾、それらが切れないよう、ムバーに細かく状況を伝えていた。


 ヘルメは洞窟からドローンを動かし、危機的な状況になった際のバックアップをする役割だ。

 

 当然、待機中は化け物が何体も寄ってくる。それら全てをなんとか屠《ほふ》った。


 シミレーション後の現実世界での活動は、森の探索が主。これは初めての戦闘であり、やはり予想通りにはいかない。


 長時間待機の疲れからか、敵の攻撃を何回も喰らってしまった。それにメンテナンスも十分に行えない。腕のブレードが肝心な所で出ないなんてのも。


 着ている黒くてゴツい戦闘服と、硬い外皮プレートのお陰でとりあえず大事はない。


 しかしまぁ、死にそうになったら戻れ、とは言われてたものの、四肢欠損なしで生存を達成。

これは大きな進歩だ。


「待ってたぞ。火の中にアンタの姿が見えるくらいにな。ぺっ」


 地面にガムを吐き出す。2日間の不眠不休を実現させた得体の知れないガムだ。


 さて、俺らはAが一回様子見すると考えていたが、まさか普通に姿を現すとは。だが、やる事はプランAには変わらない。

 ここからは、もうミスれない。


「———!」(訳:な、なんなんだよ、キミ! その手は、脚はっ!)


 なにか、驚きながら喋ってる。Aの身体は思ったよりも小さいようだ。当然知らない言語。そこで手に持ったTZを放り投げ、手を上に高く上げ敵意がない、とジェスチャーを行った。


「?—!——?!」(訳:動くな!動いたら攻撃するぞ! キミ、その奇妙な見た目、もしかしてドゥネルなのか!)

 

 なぜだろう。さらに興奮したような???なんか不味いかもしれない。俺は出来るだけ自然な笑顔を作って、頷いてみる。


「————!!!」(訳:やっぱり!!!なんで笑ってるんだ!)


 Aが掌《てのひら》を翳《かざ》す。ん? これ、やっぱりダメな方に行ってるんじゃないか?

 そう思っていると焦りのせいか、待て! と両手を突き出してしまう。


「—————」(訳:魔法を使うのか!?くらえ!ビッグロック!)


 異様に興奮した様子のA。その手にはTHE 魔法陣といったものが浮き出る。


「(ダメか〜)」


 魔法陣に集中し、警戒をしていると無線から声が聞こえる。これはムバーか?


[上だ! 上!]


 見上げると、半径一メートルはあるだろう氷塊が急速に落下していた!


「あっぶねっ!」


 と前方に飛んで避ける。背後では落ちた氷が砕けず地面に食い込んでいる。その光景に背筋も凍る。

 

 アレをまともに食らった暁にはその時こそ、本当に死!

 

 もう手段は選んでられない。なんとしても当初の目的通り、生け捕りにしてやる!

 

「少し痛いぞ!覚悟!」ガチャッ


 TZを拾い、右足に狙いをつける。


「———!」


 再び魔法陣が現れる。今度は俺の足元に。

 尖った根が出現し、猛烈な勢いで迫り来る。


「あっぶね!」


 これも寸手のところでのけ反って避けるが、根は方向を変え追尾する。


———ダダダッ


 TZを根に向かって乱射する。

 尖った部分はバキバキと音を立てて消し飛ぶ。


「っ!」


 しかし残った根が脚に絡みつき、締め付られる。その最中、Aは再び魔法陣を展開して何かを唱えていた。


 バンッ!


 巻きつかれながらも正確に太腿のあたりを撃ち抜く。義体と無線で繋いでいるとはいえ、自動照準補正は伊達じゃない。


 彼の傷口から赤黒い血が吹き出した。

 

 よかった、動脈には当たってない。


「あがっ!」ガタッ


 彼は膝から崩れ落ち、フードが外れる。その隙に木の根を打ち抜き拘束から脱した。すぐさま近寄り捕まえようとしたその時、顔が見えた。


「あ……」


———それは年端もいかない子供だった。まだ中学生くらいで、色白の。この子に銃を向けて撃って、傷つけた。その事実が俺の手を止めた。


「———」ヒュッ


 彼がまた何かを唱えようとしたその瞬間。ムバーが横から幼い首目掛けて麻酔弾を打ち込む。パタリと倒れ込む小さな身体を見て、少し罪悪感が湧いた。

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