ボーイ【β0y】
太陽の光が、地上への階段に差し込む。
今日も今日とて異邦の怪物を“狩りに行く”。
村の狩人は三人だけ。僕とプロネッタとエクンノ。誰か一人でも欠ければ今の村の生活は維持できない。
「あぁ、姉ちゃんが戦えたら…」
ボソリと呟く。けれど、そんなこと言ってもどうにもならないし、僕にはその“資格”がない。昔、姉ちゃんは勇者“だった”のに。
今は剣すらもうまともに振ることが出来なくなってしまっている。僕のせいで。けれども、ドゥネルと勇敢に戦うあの後ろ姿は、今も憧れなんだ。
——ザッ
階段を登りきり、もう誰もいない草原へと足を踏み出した。背後では階段が揺らいで消えた。
プロネッタの秘匿の魔法はいつ見ても凄い。僕にはできない魔法だ。だが僕だって負けてない。
村一番の強さって、姉ちゃんに言われたから。
「速攻走破《Cスキップ》」
そう唱えると、脚に光が宿った。魔法に変換しきれなかった魔力が溢れ出ているんだ。
脚を曲げて、姿勢を低くする。
次の瞬間、風を追い越すように走り出した。
風は起きず、恐ろしい程静かな疾走。
着ている黒いフードが風で暴れる。このフードは貰い物。姿を見えづらくしてくれる。
今日の狩場は、近場でドゥネルが多い東の森。この森は最近おかしい事が起こる。
僕のスキル【危機感知】が周りに何も居ないのに発動する。危機感知は、向けられる敵意や殺意を感知できる。ただし、見られている時限定。
透明になれるドゥネル? それか透明なドゥネル? 本音を言えば怖いけど、最近貯蔵が少なくなってるから頑張ろう。
およそ一時間をかけて東の森に到達したその時。
「煙?」
森の中から一筋の白煙が立ち上っていることに気が付いた。僕は深く考える事もなく煙のほうへと向かった。火事か、人為的なものかは分からなかったが、それは気にしなかった。
燃え広がったらまずい事になる。その一心だった。僕は火の元と思われる、ひらけた所に勢いよく飛び出る。空中で、目を向ける。
そこには透明なガラス片や鉄屑、肉片、ドゥネルの死骸が数多く散乱している。
その中心に———人ではない人がいた。
***
辺りの木を切り倒し、薪を燃やしていると突然人影が森から飛び出る。ソイツは、映像で見た通り黒いフードを被っている。Aだ!
2日前のヘルメとの話を思い出す。
「いいかぁ? Aを探す上で重要な事は、Aに気付かないことだ。ハッキリ気付いてしまえば、それがデータ上での発見だろうと逃げられちまう。アイツの魔法の一つだろう」
「じゃあどうする?」
「こっちが無理なら、あっちに来て貰えばいい、だろ?」
ムバーは説明する。Aがこの森に炎がある事を極端に嫌うことを。例えば小規模な山火事は直ぐに駆けつけ、炎を纏った化け物がいれば率先して狩ると言った具合だ。
そんなこんなで、最悪の作戦が決まった。名付けて[これから毎日森を燃やそうぜ作戦]だ。
Aがこの森を重要視しているならば、見に来るという予測で立てた作戦。
とにかく薪を焚べ続けて、火事を演出する作戦だ。
火を燃やしながら待ち続けて2日目。バッテリー、あらかじめ汲んでおいた水、弾、それらが切れないよう、ムバーに細かく状況を伝えていた。
ヘルメは洞窟からドローンを動かし、危機的な状況になった際のバックアップをする役割だ。
当然、待機中は化け物が何体も寄ってくる。それら全てをなんとか屠った。
シミレーション後の現実世界での活動は、森の探索が主。これは初めての戦闘であり、やはり予想通りにはいかない。
長時間待機の疲れからか、敵の攻撃を何回も喰らってしまった。それにメンテナンスも十分に行えない。腕のブレードが肝心な所で出ないなんてのも。
着ている黒くてゴツい戦闘服と、硬い外皮プレートのお陰でとりあえず大事はない。
しかしまぁ、死にそうになったら戻れ、とは言われてたものの、四肢欠損なしで生存を達成。
これは大きな進歩だ。
「待ってたぞ。火の中にアンタの姿が見えるくらいにな。ぺっ」
地面にガムを吐き出す。2日間の不眠不休を実現させた得体の知れないガムだ。
さて、俺らはAが一回様子見すると考えていたが、まさか普通に姿を現すとは。だが、やる事はプランAには変わらない。
ここからは、もうミスれない。
「———!」(訳:な、なんなんだよ、キミ! その手は、脚はっ!)
なにか、驚きながら喋ってる。Aの身体は思ったよりも小さいようだ。当然知らない言語。そこで手に持ったTZを放り投げ、手を上に高く上げ敵意がない、とジェスチャーを行った。
「?—!——?!」(訳:動くな!動いたら攻撃するぞ! キミ、その奇妙な見た目、もしかしてドゥネルなのか!)
なぜだろう。さらに興奮したような???なんか不味いかもしれない。俺は出来るだけ自然な笑顔を作って、頷いてみる。
「————!!!」(訳:やっぱり!!!なんで笑ってるんだ!)
Aが掌を翳す。ん? これ、やっぱりダメな方に行ってるんじゃないか?
そう思っていると焦りのせいか、待て! と両手を突き出してしまう。
「—————」(訳:魔法を使うのか!?くらえ!ビッグロック!)
異様に興奮した様子のA。その手にはTHE 魔法陣といったものが浮き出る。
「(ダメか〜)」
魔法陣に集中し、警戒をしていると無線から声が聞こえる。これはムバーか?
[上だ! 上!]
見上げると、半径一メートルはあるだろう氷塊が急速に落下していた!
「あっぶねっ!」
と前方に飛んで避ける。背後では落ちた氷が砕けず地面に食い込んでいる。その光景に背筋も凍る。
アレをまともに食らった暁にはその時こそ、本当に死!
もう手段は選んでられない。なんとしても当初の目的通り、生け捕りにしてやる!
「少し痛いぞ!覚悟!」ガチャッ
TZを拾い、右足に狙いをつける。
「———!」
再び魔法陣が現れる。今度は俺の足元に。
尖った根が出現し、猛烈な勢いで迫り来る。
「あっぶね!」
これも寸手のところでのけ反って避けるが、根は方向を変え追尾する。
———ダダダッ
TZを根に向かって乱射する。
尖った部分はバキバキと音を立てて消し飛ぶ。
「っ!」
しかし残った根が脚に絡みつき、締め付られる。その最中、Aは再び魔法陣を展開して何かを唱えていた。
バンッ!
巻きつかれながらも正確に太腿のあたりを撃ち抜く。義体と無線で繋いでいるとはいえ、自動照準補正は伊達じゃない。
彼の傷口から赤黒い血が吹き出した。
よかった、動脈には当たってない。
「あがっ!」ガタッ
彼は膝から崩れ落ち、フードが外れる。その隙に木の根を打ち抜き拘束から脱した。すぐさま近寄り捕まえようとしたその時、顔が見えた。
「あ……」
———それは年端もいかない子供だった。まだ中学生くらいで、色白の。この子に銃を向けて撃って、傷つけた。その事実が俺の手を止めた。
「———」ヒュッ
彼がまた何かを唱えようとしたその瞬間。ムバーが横から幼い首目掛けて麻酔弾を打ち込む。パタリと倒れ込む小さな身体を見て、少し罪悪感が湧いた。




