小さい年と書いて少年
太陽の光が、地上への階段に差し込む。
今日も今日とて異邦の怪物を“狩りに行く”。
村の狩人は三人だけ。僕とプロネッタとエクンノ。誰か一人でも欠ければ今の村の生活は維持できない。
「あぁ、姉ちゃんが戦えたら…」
ボソリと呟く。けれど、そんなこと言ってもどうにもならないし、僕にはその“資格”がない。昔、姉ちゃんは勇者“だった”のに。
今は剣すらもうまともに振ることが出来なくなってしまっている。僕のせいで。
だけど、ドゥネルと勇敢に戦うあの後ろ姿は、今も憧れなんだ。
——ザッ
階段を登りきり、もう誰もいない草原へと足を踏み出した。背後では階段が揺らいで消えた。
プロネッタの秘匿の魔法はやっぱり凄い。僕にはできない魔法だ。でも僕だって負けてないさ。
村一番の強さって、姉ちゃんに言われたから。
「速攻走破」
そう唱えると、脚に光が宿った。魔法に変換しきれなかった魔力が溢れ出ているんだ。
脚を曲げて、姿勢を低くする。
次の瞬間、風を追い越すように疾走した。
しかし風は起きず、足音も恐ろしい程静かであった。
着ている黒いフードが風で暴れる。このフードは貰い物で、姿を気づかれにくくなるものだ。
今日の狩場は、近場で、ドゥネルが多い東の森。この森は最近おかしい事が起こる。僕のスキル【危機察知】が周りに何も居ないのに発動する。
透明になれるドゥネル?それか透明なドゥネル?本音を言えば怖いけど、最近貯蔵が少なくなってるから頑張る。
それから、5分走って東の森に到達したその時。
「煙?」
森の中から一筋の白煙が立ち上っていることに気が付いた。僕は深く考える事もなく煙のほうへと向かった。火事か、人為的なものかは分からなかったが、それは気にしなかった。
燃え広がったらまずい事になる。その一心だった。僕は火の元と思われる、ひらけた所に勢いよく飛び出る。空中で、目を向ける。
そこには———血に塗れた、人ではない人がいた。
***
辺りの木を切り倒し、薪を燃やしていると突然、人影が森から飛び出す。ソイツは、映像で見た通り黒いフードを被っている。Aだ!
2日前のヘルメとの話を思い出す。
「いいかぁ?Aを探す上で重要な事は、Aに気付かないことだ。ハッキリ気付いてしまえば、それがデータ上での発見だろうと逃げられちまう。アイツの魔法の一つだろう」
「じゃあどうする?」
「こっちが無理なら、あっちに来て貰えばいい、だろ?」
そんなこんなで、この最悪の作戦が決まった。名付けて[これから毎日森を燃やそうぜ作戦]だ。Aがこの森を重要視しているならば来るという予測で立てた作戦。やる事は名の通りだ。
火を燃やしながら待ち続けて2日目。バッテリー、あらかじめ汲んでおいた水、弾、それらが切れないよう、ムバーに細かく状況を伝えていた。
当然、化け物は何体も寄ってくる。それら全てをなんとか屠った。初めての実世界での戦闘であり、やはりシミレーション通りにはいかない。
長時間待機の疲れからか、敵の攻撃を何回も喰らってしまった。それにメンテナンスもやりづらく、腕のブレードが肝心な所で出ないなんてのも。
着ているゴツゴツした戦闘服と、硬い外皮プレートのお陰でとりあえず大事はない。
しかしまぁ、死にそうになったら戻れ、とは言われてたものの、四肢欠損なしで生存を達成。
これは大きな進歩だ。
「待ってたぞ。火の中にお前の姿が見えるくらいにな。ぺっ」
地面にガムを吐き出す。2日間の不眠不休を実現させた得体の知れないガムだ。
さて、俺らはAが一回様子見すると考えていたが、まさか普通に姿を現すとは。だが、やる事はプランAには変わらない。
ここからは、もうミスれない。
「———!」(訳:な、なんなんだよ、キミ!)
なにか、驚きながら喋ってる。Aの身体は思ったよりも小さいようだ。当然知らない言語。そこで手に持ったTZを放り投げ、手を上に高く上げ敵意がない、とジェスチャーを行った。
「?—!——?!」(訳:動くな!動いたら攻撃するぞ!キミ、その奇妙な見た目、もしかしてドゥネルなのか!)
なぜだろう。さらに興奮したような???なんか不味いかもしれない。俺は出来るだけ自然な笑顔を作って、頷いてみる。
「————!!!」(訳:やっぱり!!!なんで笑ってるんだ!)
Aが掌を翳す。ん?これ、やっぱりダメな方に行ってるんじゃないか?
そう思っていると焦りのせいか、待て!と両手を突き出してしまう。
「—————」(訳:魔法を使うのか!?くらえ!アイスフォール!)
異様に興奮した様子のA。その手にはTHE 魔法陣といったものが浮き出る。
「(ダメか〜)」
魔法陣に集中し、警戒をしていると無線から声が聞こえる。これはムバーか?
「上だ!上!」
見上げると、半径一メートルはあるだろう氷塊が急速に落下するのが見えた。
「あっぶねっ!」
と前方に飛んで避ける。背後では落ちた氷が壊れず地面に食い込んでいる。その光景に背筋も凍る。
アレをまともに食らった暁にはその時こそ、本当に死!
もう手段は選んでられない。なんとしても当初の目的通り、生け捕りにしてやる!
「少し痛いぞ!覚悟!」ガチャッ
TZを拾い、右足に狙いをつける。
「———!」
再び魔法陣が現れる。今度は俺の足元に。すると、地面から尖った木の根が猛烈な勢いで突き出る。
これも寸手のところでのけ反って避けるが、根はミサイルのように方向を変え、追尾して来る。
———ダダダッ
TZを根に向かって乱射すると、尖った部分は消し飛んだが、全ては消滅しなかった。根は脚に絡みつき、どんどんとはい上がる。
その最中、Aは再び魔法陣を展開して何かを唱えている。
バンッ!
巻きつかれながらも正確に太腿のあたりを撃ち抜く。彼の傷口から赤黒い血が吹き出す。
よかった、動脈には当たってない。
「あがっ!」ガタッ
彼は膝から崩れ落ち、フードが外れる。その隙に木の根を打ち抜き拘束から脱した。
すぐさま近寄り捕まえようとしたその時、顔が見えた。
「あ、、、」
それは年端もいかない子供だった。まだ中学生くらいの。この子に銃を向けて撃って、傷つけた。
その事実が俺の手を止めた。
「———」ヒュッ
彼がまた何かを唱えようとしたその瞬間。
ムバーが横から幼い首目掛けて麻酔弾を打ち込む。
パタリと倒れ込む小さな身体を見て、少し罪悪感が湧いた。




