疾い走りと書いて疾走
太陽が沈み、凍え切った暗き夜。
この森に寝息は聞こえない。もし、寝息を漏らしたらきっと二度と起きられなくなる。
さて、耳を澄ませばなんらかの唸り声が飛んでくるこの森を、葉の茂った木々の間を、1匹の影が通り抜ける。
流れの速い急流を、水飛沫と共に影が横断する。眩い月光は飛沫に反射し、空間に散っていった。
その影の作る爆発的な暴風に、草木がざわめく。
その影の作る足跡は、地面を深く抉り取る。
そんな期待のニュールーキーに森の動物達も黙ってはいない。ソレの到来に向け、温かな歓迎をする為、己の全神経を五感に集中させる。
目の前に来た瞬間に四肢をもぎ、亡き者にするのに3秒もかからない。そんな自信をこの森に蔓延る全生物は持っている。
しかし、事はそうはいかない。いくものか。
なぜなら、その男は、鋼だからだ。
「だぁぁ!!」
・・・
「ふぅ」
長い走行と戦闘を終え、ようやく一息つく。周りには大小様々な肉片が散乱している。俺の身体も血と知らない液で塗れていた。
視界に表示されているTZ残弾数メーターは13。ここまでで少し使い過ぎたかもしれない。本来ならばターゲットを12体を倒し、6時間生存した時、残弾は24が理想的……だと、ヘルメが言っていた。根拠は知らない。
TF-P+Z、略称TZ。変な名もそのはず、これはヘルメの世界の武器だ。名付けの規格が違う。そして綴りは発音の当て字なので、メチャクチャ気味ではある。
といっても驚いた事にこいつは俺の良く知る銃だ。鉛玉が飛び出すタイプの単純なモノ。形も小さめのライフルといった感じ。まぁ、モデルガンでさえ握った事はないんだがな。
———ヌルッ
突如、大きな影が俺に落ちる。すぐに、義眼を左右それぞれ異なる方向に動かして情報を得る。
……なるほど、歩く骨の塊、背後を取らていたのか。動体検知センサーに反応しないとは。厄介だ。そんなことをSADによって圧縮された時の中、考える。
骨は、ガタガタ硬い音を鳴らして、鋭い爪の生えた腕を振り下ろす。
SADは処理能力を向上させるが、身体を素早く動かしちゃくれない。タイミングに集中し、その攻撃を身体を少し横にずらして回避した。
それと同時にTZを放棄し、フリーになった俺の両手の甲からは、薄い刃が突き出る。それは刃渡り50センチほど、深い青色の光沢を帯びている。
「おらよっ!」スパンッ
振り上げて、骨の腕を切断しながら後退する。しかしソイツは意に介さない。即座に同じような腕が、内側から無理矢理骨を掻き分け生えてくる。
それも今度は無数に、全て敵に向けられる。
ガタガタガタ
「やってみろ畜生!」スパパッ!
向かい来る無数の手を斬り続けるが、キリがない。このままではジリ貧だ。
もはや奥の手を使うしかない。腰に掛けたとある武器をガンマンのように素早く抜き取る。
それはメリケンサックに箱状の機械が付けられたような武器である。しかし握った瞬間、機械の一点が赤く点灯し、水平に、爽快な音と共に共に勢い良く展開する。
——ジャキッ!
まさに鉄扇。ただし、その円の弧にそって平らな発射口が備えられている。骨に鉄扇を向けると、赤い一本の光線がそのゴタゴタとした身体に引かれた。
「&SS!」ピピビ
持ち手を強く握った。
カチリとスイッチが押し込まれる。
———ザッパァン!
骨は光線に沿って綺麗に切られ、地面に倒れふした。
「お見事。袈裟斬りだぜぇ」
ヘルメの声が天から降ってきた。
「なんだ?」
「いやなに、今日はもう休んだ方が良いと思って、な?脳負荷がやばいぜ?へへへっ」
「……サイコアウト」
俺は気怠げに唱える。すると、周りの環境がノイズと化して消えさり、感覚が途絶えた。
***
「…」
目を開く。
一瞬の閃光に眉を顰めた。そのあと、周りの景色が見え始める。そこはつい先日、機械化手術を行なった手術台だった。
本調子じゃない体で、ブチブチと首の後ろに繋がれたケーブル群を引き抜く。細かい痛みが首元に流れ、顔を顰める。
「いっててて」グググ
固まった体を伸ばして、台から降りた。そのまま湿気の高く、暗い洞窟を進んでいく。機械が噛み合う音と湿っぽい水音が、脳内で反射していた。
ここには動物がいない、あるのは微生物と石、それと俺の愉快な仲間だけ。まぁ、及第点か。少し歩くと白い光が洞窟の奥の方に見えてくる。金属の加工音と共に。
「ムバー」
そこには謎の機械をいじるムバーがいた。
「お?おかえり。シミレーション帰りかな?ホラレーション食べな」ポイッ
棒状で包装紙に包まれたレーションをキャッチする。洞窟の奥のコンテナにあったゲロまずな奴だ。
「そりゃそうよ、ここシュミレーションしかないもん。そっちは何やってんの?」
「ヘルメの手伝いだ。ほらアイツ、自力で移動するのに少し難があるだろ?だから、動けるわっちが加工したり、運んだりしてるんだよ」
「要するに雑務係か」
「この世界に来る前の君と似た境遇で嬉しいよ、テツ」
「…どうしてそんなこと言うの( ;∀;)」
———ガシャン ガシャン ガシャン
その時、一定の間隔で金属音を鳴らして登場したのは、義体の一本脚に搭載された頭だけのマネキン……に装着された機械的なギアヘッド。それはつまり、ヘルメ本体だ。
「へへへっ!サイコドライブ直後でメンタルが不安定になってらぁw」
「笑わんといて……う…うぅ」ポロポロ
小粒の涙が沢山出る。マジモウムリ
「それはフリという奴だな、テツ?アハハハハハハハハハハハハハハハハ」
畜生!ムバーめ無機質に笑いやがって。
「ムバー、てめぇんとこのAI技術はオレらんとこと違うが、なかなか面白そうだなおい」
そう、実はヘルメとムバーはこれまた、別の世界同士から転送されている。
もはや、どう言う事なんだか………
「ところでテツヤよ、お前さん稼働しすぎだ。確かに、シミレーションで鍛えてもらうと言ったが、外敵で死ぬ前に過労死したら元も子もねぇ。休め休め、まだ急ぎじゃないからな」
とは言ってるが、今俺らは結構不味い状態だ。それは電力問題。いつもドローンを動かしたり、シュミレーションをやっていると、電力を馬鹿みたいに消費する。これが馬鹿にならない。
小型発電機とその燃料は有りはする。しかし目減りしていくのみ。ヘルメが1ヶ月で使った燃料は全体の2/3に達するという。この問題の解決策はさっさとAに会って、ヘルメが捜索に使う電力を減らす事。
これは最優先の問題なのだ。
「はやる気持ちは分かるが落ち着け、電力の節約には、シミレーション回数の削減が有効だろ?だから、速さもいいが効率の意識も大切だ。んま〜この事を考えても、よくやってるぜお前さん」
「……おぅ」
逸らした視線の先にある歯車が、空回りしていた。




