サイコ【PSΥKO】
サイコドライブ起動が確認されました
デフォルトモードネットワークからの接続が試みられています………接続成功
精神正常性診断を開始します
………問題無し
脳負荷量 フルドライブ可能範囲
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マインド・アップロード 開始します。
「(いてて……なんだ……このアナウンス?)」
痺れた意識の中、謎の声に困惑したその瞬間、体の内側が浮き上がるような感覚に襲われる。
そして、だんだんと、呼吸の感覚や肌の感覚を始めとする五感が全て薄れていく。
あれほど鬱陶しかった蒸し暑さは消えていき、目の前には何も無い。しかし、それでも思考は出来る。
「(……これが、アイツが言ってたサイコドライブ?!)」
意識と体が切り離されていく。やがて完全な分離が完了し、浮遊する意識だけが残された。その時の感覚は、この世にあるものでは例えようもない、不可思議なものだった。
そして、一瞬の暗転の後、外部から【情報】が一気に流れ込む。思わず、無い瞼をつむってしまった。
しかし情報は俺の周りで急速に何かの形を成していく。それと、同時に俺の体をも作り上げる。
……あぁ、これは、なんと見覚えのある光景だ。壊れた扇風機に付けっぱなしのクーラー、最近変えたベッド、古いデスクトップPC、机に散乱してる下手な文字のノートと水道代の明細書……ここはまさに
「おれの部屋」
この匂い、このベッド、間違いない!
「似てるだろ? へへっ」
背後からヘルメの低く、特有の抑揚のある声が聞こえる。その声は自分の部屋の匂いに安心を覚えていた俺を一気に現実に押し戻した。
しかし振り向くとそこには……少女がいた。可憐で、儚いを体現したかのような美しい銀髪。真っ白なフリフリに身を包まれた華奢な体。
「ヘルメ……なのか?」
「あぁそうだぜ。どうだこの姿、オレの趣味でな、可愛いだろう?」キャピ
彼は両手を丸めて顔の前に寄せ、上目遣いで見上げてくる。表情には確かな自信が見え隠れしている。癪だ。
「声が可愛くないぞ」
「おぉ文句を言いなさんなよ〜というか、あんま驚いてないんだな」
「……いやびっくりしてるが、この流れ、聞こえる言葉的にあれだろ、察するに電脳世界ってやつだろ? アニメとかで見たことあるぜ」
「ん〜正解だぁ。現実世界の身体は気にしなくて良いぜ、お前のムバーが色々やってくれてるぜ。そのキになったら下の世話もな。はははっ」
彼は妖艶にニヤリと笑う。所々に見える細い体の線がやけに目に入る。
これは詳しくは言えないが精神的に非常によろしくない。これで声が可愛かったら色々不味かった。
「下品なAIだ。そんな特殊じゃねぇ。揶揄うのもその辺にしてくれ……さっさと本題に入れよな」
俺は地面に座り込み、できるだけ怪訝な顔で言ってやった。
「へへっ、せっかちめ」ドサッ
ヘルメも腰を下ろした。少女らしからぬ、大きく胡座を描いた豪快な座り方だ。
両名が座ると目の前に将棋盤と揃えられた駒が一瞬で生成された。ヘルメは歩を掴み上げ、快活な音と共に将棋盤に打ち付ける。
「オレもお前さんらと同様、ここに飛ばされてきたわけでな。それが、あーだいたい一月前だったか。オレは格納されてた軍事用タンカーごと移動したんでな。そこにあったドローンで、ちとここらを少々調査してみたわけだ」
パチリ、駒を打つ音が鳴る。悲しいがオレに将棋の知識はほぼ無い。取り敢えず歩を一マス進めた。
「分かったことは?」
「目立ったことは化け物共と“お前以外の人間”、そして“魔法”だな」
俺以外の人。その言葉にやはり心が向く。俺以外に、ヒトが存在している、これは行幸だ。希望が湧き上がる。
言葉は通じないかもしれない、敵対してくるかもしれない。がしかし、協力してくれるなら大きな力となってくれるだろう。
「人間……コンタクトは?」パチ
「今のところ取れてない」
彼がそう言うと周囲に数十枚の画像が浮かび上がる。そこには、白い十文字入りの黒いフードを被る人影が森の中に立つ姿が映っていた。しかしその顔は見えない。
「そのニンゲン、仮称Aを森で見かけるのは半径5kmを監視して3日に一回くらいだ。大抵の場合、化け物を数体狩ってはどこかに行っちまう。とんでもない警戒心でな、オレが見てる事にも気付くバケモンだぜ」
すると画像が動き始める。
カメラの方向に頭を回すA、その直後、姿が一瞬で消えた。まるで最初からいなかったかのように森だけが残された。
「どうなってる? 追跡はしなかったのか?」
「これがな、Aは魔法を使って透明になれるんだ。補足した片っ端から逃げられちゃ、コンタクトも難しいわけだ」パチ
「魔法とはなんだ」
「そりゃよく知ってる魔法だよ。ファンタジーみたいな、な?」
周囲の画像が切り替わる。Aの手から魔法陣のようなものが出現し、鋭くとがった氷が放たれている。
「……そうか。そういうのも、あるんだな」パチ
なんというか、そろそろ全てを拒否せず受け入れられる様になってきた。
たとえ、その人間が実はタコの化け物だったとしても驚かなさそうだ。人間の適応力はすごい。
「さ〜て! ここまでが前提、ここからが本題だ!お前さんよ、この世界から出たいか?」
「そりゃ当然」
「へへへっ、訳あってオレも元の世界に戻りたい! このオレが同行すれば、地形のサーチ、敵性性物の発見、義体のメンテナンス、いろーんなところでお前さんの役に立てる。そして、お前さんがいれば、Aに接触できる可能性が上がってこっちも助かる。どうだ? 連れてってくれるか?」パチッ
なかなか上手いプレゼンだ。
「…いいぜ」
駒で散らかった将棋盤の真上に手を差し出す。小さな手がそれを握り返す。
金属で構成された冷たい手に触れていたのは、それもまた、凍っているように冷たい手だった。
「感謝するぜテツヤ。いきなりですまないが、お前さんにやってもらわなきゃいけないことがある。頼むぜ?」
「しゃあ来い!」
俺は気合いを入れる。新たな仲間ができたんだ。今まで以上に活発に動かなければ、
ちゃんと上手くやらなくては。




