ボディ【B○di】
暗く、冷たく、何も聞こえない場所で一人揺蕩う。
あぁ、昔からな、どうにも大一番を逃すんだ。
皆のように上手くはやれない。
頭のいいやつ、要領のいいやつを見ていると、年々自分に期待しなくなる。身の程を叩きつけられるんだ。俺が俺のことをすごいやつだと勘違いしてたのは多分、高校生の時までだろう。
いやそう、実際、大一番だけじゃない。日常のささやかな事でも俺は……
その時、目の前を光が横切る。
迎えに来てくれたのか。少なくとも、あの世ではみんな平等であれば良いな。
—————ピカピカ ピカピカ
ん?なんだが光がチラチラして
—————ピピピピピヒピピヒピ
な、なんだこの音!
「かぁ!」バチっ!
「おぉ、生き返ったなぁテツヤぁ! 調子はどうだ?」
「……なんだっこれ」
体が動かない………力が入らない。全身が、身体が、い、痛い。鉄臭いような生臭いような匂いが鼻をつんざく。吐き気がする。
「ひっ」
背中に冷たい板の様なものが当たっていることに気づいた。首だけをかろうじて少し動かすと、金属板の上に素肌で仰向けになってることが分かった。
首が動ける範囲で周りを見まわす。
見えたものは俺に向かって伸びる数十本の黒色のケーブル。散らばっている赤い液体。すぐ横にある机。ヘッドギアっぽい機械が引っ付いた頭だけのマネキン。
やけにここは湿度が高い、身体中に嫌なベットリとした感触がある。天井に岩肌が見える。ここはどこだ?
頭の上に浮かんでいるライトが眩しい。しかもさっき聞こえた、低くて、抑揚のある声は一体......
あぁ、いや、そんなことより、生きてる?
それが理解できた時、少し安堵した。
「へへへっ! 焦ってんなお前さんよ! だが、、、落ち着いてくれよぉ? 少なくともここは安全だ。OK?」
その声と謎の機械音が響いて聞こえる。どうやら狭い場所にいるらしい。
ピタ、ピタ、と滴り落ちる水音が緊張を誘う。
「……誰だ」
「オレはヘルメ、わりぃが、これはあだ名だ。正式名称がややこしくてな、この名前で通らせてもらってる。そして俺もお前んとこのムバーと一緒で、AIだ」
「なに、、、そうだ、ムバーは?」
「呼んだかな、テツ」カチャ
音のする方にかろうじて動く頭を動かす。すると見覚えのある姿がガシャガシャと岩肌の地面を歩き回っていた。
それを見て俺の心は平静の一部を取り戻した。
「何が、あったんだ」
「あの人面に噛まれたのさ、丁度腰のあたりで、ガブリ、とね。幸いアレは君を飲み込まなかった。だが、君の状態は、生きてたけど悲惨そのものだった。聞きたいかい?」
「、、、いらん」
「そっか。では事の顛末だけ。噛まれたところは信号の場所と近かったんだ。だから、わっちは君の身体を、そこまで運んだ。なんとかね。そしてこの洞窟に居たのが」
「このオレさ! へへへっ運が良かったなお前ら! なぜってオレは手術のプロフェッショナルだからなぁ」
また、どこからともなく声が聞こえてくる。
「手術の?」
「おう、もっとも【機械化手術】の方だがな」
「……なんだって?」
「まぁ見ろ」
そうヘルメが言うと目の前にホログラムが浮かび上がる。そこには、今の自分の身体と思われるものが映っていた。ご丁寧に全面、側面、背面と。
そして……なんてこった。見える身体の大部分が銀や黒色の義体に置き換えられていた。
義体の上側にはカバーがなく、中身が剥き出しだ。複雑な配線が筋肉のような鉄糸の束に巻き付いている。
「し、信じられない。これが、俺の体?」
機械化されてる……これもSAみたいな超技術か!?
「カッコ良いだろ?」
「カッコいいというか、なんで?」
「お前、上半身と下半身がなき別れしたやつに通常の施術を施して生き返ると思うか? ムリムリムリムリムリだぜぇ」
そんな状態だったら、確かに命を拾えただけでも奇跡だったのかもしれない。しかし、勝手にサイボーグにされるのも大変なものだ。
「はぁ...」
「それになぁ、これからの為でもあるんだぜ。お前さんは足が遅かったから化け物に追いつかれた。だが、今ついてる足なら大抵の奴なら逃げ切れるだろうな。狂ってるだとか迷惑だとか、思ってるかも知れないが、【この場所】はもっと狂気に満ちている」
「そりゃ......そうだな」
「だからな、テツ、生きたいなら、お前さんは狂わなければ。クレバーにそしてタフに」
その声色は真面目だ。極めて真剣で、切羽詰まったようなものを感じさせる。確かに、俺は噛まれた時、本来死んでいた。
運が本当に良かった、この事を忘れてはいけない。せっかく預かったこのチャンス、死に物狂いで生き延びてやる。
「……分かった。ありがとう」
「と言ってもまず安静にしとかなきゃな。色んな手術をしたばっかだからよ。ちなみにその義体に電源は繋げてないし、体内発電機も付けてないから、今は動きはしないぜ」
「そうか、一応聞いとくけど、どんな手術を?」
「取り敢えず導入して性能が上がるものは全て入れた。健康、不健康な部位問わずにな。心臓だとか肺だとか、運動に重要な部位は置き換えた。神経系デバイスも同時に取っつけてある。そんで腰から下はほぼ義体。それに——」
「ちょっと待て、健康な部位もか? それって何か悪影響があったり……」
「健康上の悪影響はあるかもな、だが運動性能は上がったんだ。それくらいのリスクは承知しろよ? お前の機械化割合は73%、正直特殊部隊並み。多少じゃ死なない」
「ったく……マジかよ嬉しいな」
……いやまぁ、実際複雑だが身体機能が上がるなら正直嬉しい。これは嘘ではない。ただ、もう元の身体には戻れなさそうだ。
「さてと、怪我人にいつまでも喋らせるのはよろしくねぇな。ここからはサーバ電子空間上で話そうか。“サイコドライブ”開始だ、覚悟しな」
「なんだっ——」
———バチパチパチ
突如、脳みそが痺れた。
わぁ、機械になっちゃった!




