死に急げ
箱が、箱が喋った!
「おい待ておい。何なんだアンタ!」
「わっちはAI。この箱を本体とする。えっと……アレクサだったかな、と同じ分類で考えてくれ」
「え、エーアイ……今こんなに進化してるのか……じゃあ俺のスマホから声がしたのは一体」
「ハッキングである。音声機能が故障していたもので少々使わせてもらった。さっき君に修理されるまで」
「アンタ勝手に人のものを……!」
とムバーは10本の足をムカデのように小刻みに動かし俺の周りを徘徊する。ガシャガシャと稼働音を鳴らしながら滑らかな動きで。
そしてピタリと止まり、その黒いレンズと目が合う。
「まぁまぁ、まずは情報共有からだ。あ、わっちのことはムバーと呼んでくれ。そして、君のことはテツと呼ばせてもらうよ」
なるほどハッキングで名前も知られているわけだ。この自称AI、怪しい。けれど俺を騙して何の意味があるのか……警戒しておこう。
「……そういえばここが何処か分からないとか言ってたな。じゃあまずどうやって来たのか聞こうか?」
「実はつい一日前は車庫にいたんだ。お客に届けられる直前さ。だが突然落ちる感覚がして外を見てみたんだが、なんと大自然の真上。そのまま落下して…さっきの有り様。つまりなぜここに居るのか、わっちにもさっぱり分からないのだ」
「……俺もいつのまにかここに居たから似たようなもんだな」
「そうさ」パカッ
するとムバーの側面から何かが上空に飛びだした。そしてその小さな黒い点にしか見えないものが、真っ直ぐ上に上昇していく。
静かに、迅速に。
「?」
「小型の偵察機だ。ここら辺の地形を見ておきたいからなしかもテツも大分オツカレのようであるし水場も探す………………おぅ?そう遠くない所に川があるじゃないか?ここからは歩きながら話そうか?」
「偵察機、ホント奇妙だなアンタ。まいいや、さっきから化け物しか見てなくてな、常識は消えかかってる。さ案内してくれ」ザッ
「りょ!」
こうして一人と一機は歩み始めた訳だ。
俺は今まで見てきたものを全て洗いざらい吐いた。といっても来たばっかなので言えることは少なかった。
そしてこれは会話中に分かったことだが、どうやらムバーは歩行機能が故障していたようだ。
故に信号を発信していたというのだが、応答は今のところないとのこと。
加えてカメラをオンにし化け物の観察、解析もやっていたそう。
曰く「生物学における重大な発見になるかもしれない」のだと。
さてお喋りも疲れてきた時、俺たちはまた奇天烈なものを見つけた。
それは地面にポンと乱雑に打ち捨てられていた。黒く光沢があるアタッシュケースだ。中に金でも入ってそうな。
「また変なものが落ちてるな」
「[SW-A]だ」
「なにそれ」
「レーザービームが打てる武器さ。馴染みないだろうけど、待っといたほうがいいよ」ガチャ
と言ってこちらにスーツケースを差し出す。
「はぁ……」
ケースは持ってみた所思ったよりも軽かった。そしてこのアタッシュケースから、レーザービームが出るという。多分…そうなのだろう。
なにか分からないが、疲れた。とにかく水を飲みたい気分だ。
そこから少し歩いていくと小川に到着した。
「まずは煮沸」
ムバーは何処からか折り畳まれた金属製のチップを取り出すと、たちまちコップの形へと変形する。それから二人で枯れ木やら落ち葉を集めてはムバーが着火。そうして水を煮沸した。
「できれば冷たい水が飲みたかったな」ゴクッ
文句を言いながら飲むも、渇いた喉に水分が染み渡る。
極上だ。ここまで水に感謝したことはこれまでなかった。生命の水、と言われるだけはある。
「……近くから信号が出されている」
「なに?信号って……助けか来てくれたのか?」
「分からない、この信号は見た事がない。しかし、一箇所から動いていないようだ」
「……案外お前みたいな奴かもしれないな。んじゃ後で行ってみるか」
「りょ————————
バシャーン!!
突如、川が破裂したように飛沫をあげる。急ぎ振り返るとそこには……
ゲ ゲ コ ゲコ
ナマズ頭のヒトの形をした青いナニカが川の中で立ちすくんでいた。




