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不機嫌

山は好きだ。


 そこに息づく動植物達を美しいと感じる心があるから。


 ただし、その心は人間として余裕のある状況下のみな成立するものなのだと俺は現在激しく実感している。


 5時間、かれこれ知らぬ森を散策してみた。スマホで位置情報が拾えなかったから手探りで。


 不幸なことに滑落の最中にリュックサックがどっかに行ってしまったようだった。故、散策中は水も食事も取れなかった。


 そして6月とは思えない程肌寒い空気も自律神経を乱し気分が悪い。時間が経つにつれ擦った背中に鈍痛が湧きあがる。


まったくムカつく。不安になる。クソ。



 さて自語りもここら辺で、探索の成果をまとめよう。


 まず、この場所は元いた所ではない。


 斜面はあれど短く、多少凸凹はあるが、平らな地面が多い。見上げてみても他の山々はなく、だだっぴろい空だけが広がっている。


 そして先程述べたように昼なのに気温が低い。体感的には15度前後といったところか。そう、確実にあの山ではない。


 何故別の場所に?連れてこられたのか…記憶を失っているのか…分からない……何も。



 次にこの森には【化け物】が住んでいた。それは比喩ではなく、熊なんかでもなく本物の化け物だった。


 誰が驚かずにいられるだろう。胴体が木と同じ高さの大蜘蛛が練り歩いているのを見たのだよ。距離は離れていたか冷や汗が止まらなかった。


 しかし大蜘蛛一匹だけならまだ良かった。

最悪なことには他の化け物もいたという事実。


例えばそれはスライム状の何か……いや、スライムそのものだったり、あるいは無数の鋭い歯が全身から生えた狼だったり、転がる人骨の塊だったりetc...


 それも結構な頻度で居る。けれど索敵はそれ程得意じゃないようで、茂みに隠れればやり過ごせた。

 

 当然この世のものじゃないものに会って今でも嫌な心音がなっている。アレらが俺の頭が作り出した幻覚ならば良いのだが。


 そして最後に【人工物】を見つけた。


「アンタは……何者?」トン


 と指で銀色の箱を叩く。高さ30、横40、縦30cmピッタリの長方形、重さは正確にはわからないが持ち上げるのに全力を使うくらいには重い。

 

 それは人工物のじの字も見えない大自然の中、地面にポツリと置かれて白銀色に輝いていた。


 あまりにも不自然。人工物だろう、そう考え誰かが来るのを薄く期待しながら、今現在箱の横で休んでいる。化け物にビクビクと怯えながら。


「はぁ...」


 これからどうするか。サラサラとヒンヤリした箱を撫でながら考える。


———ブーブーブー


「……電話?」


 突如ポケットに入っているスマホが振動する。電波も届かない僻地だと思っていたが……行幸!この際何でもよろしい。


 取り出して画面を見ると映っていたのは、、、【顔】であった。


( ・∇・)←こういうやつだ。


「なんだ?なんなんだ?」


———こんにちは


 画面から声が聞こえる。

 受話器は取ってないというのにお構い無し。

 そしてその声は変声期を使ったような”変”としか言えない声だった。


「あー……どなた?」


「アナタの横に、鎮座しているものだよ。名前はムバー」


「はぁ…横」


 急いで左に右に目をやるがそこには誰もいない。急にそこにいる、なんてメリーさん的なノリではないようだ。


「あるだろう、そこの直方体」


「あぁ、これの持ち主か?」


「違う。それこそわっち、の本体、ぼでぃーなのだ」


「………何を言ってるのか分からない」


「ならば、良い。後に、しよう。それより、アナタ、ここが何処か……分かるかぁ?」


 声はやたらねっとり喋る。この声の主が分からないことに不安を覚えるが、この会話で帰るための手がかりが見つかるかもしれない。


「それが分からないから困っている」


「そうか、いっしょだ。はっはっは。じゃあ、アナタ、突然シツレイだが、横の銀箱に、わっちの言う通りにしてくれないか?大丈夫、必ずそれをやれば役に立つ。約束する」


 怪しさ満点1万点。危なそうだ。が


「分かった」


 そう言うしかない。他に手掛かりもない。行き詰まりのどん詰まり。なんでも良いから進展が欲しい。


「おーけぃ。まず、側面に六つのボタンがある。その内指定する2個を同時に、10秒間押して」


 と言うと画面には整列した6つのボタンの2番目、6番目を押すイメージ映像が流れる。


「これと、、、これか」カチッ


 言われた通りにすると、ギギギと音をならしながら上の面がパカリと開く。中にはギッシリと、よくわからない機器や回路が組み込まれていた。


 これが役に立つか?呆気に取られる俺をよそにムバーは続々と指示を出していく。


「次は————」


「それから———」


「それが終わったら————」


 指示は明確でいつもイメージ映像が流れるから分かりやすい。しかし手順が多い。箱内部の機械の取り外しなんかも中々手間がかかった。説明の長いインテリアを作っている気分だ。

 

 そうして1時間ほど格闘し、完成。終始何をしているのかわからなかったが達成感がある。目の前の銀箱に愛着が湧きそうだ。


「かわいいね箱ちゃん、今日ご飯とかどう?」


——ウィーン


 その時、箱が動いた。ウィンウィン鳴らしながら変形する。側面から鉄製の10本足、更には釘抜き(くぎぬき)のようなアームが2本生える。そして前面に黒いレンズがパチリと開いた。


「な、何が起こった…?」


「……改めて、わっちの名は多機能箱型自立機器、通称ムバー……今つけたが良い感じである。さて、ご苦労だったなテツヤ。約束通り役に立って見せよう」


 流暢だが変てこな声は銀の箱だった物から聞こえてきた。

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