ウォーク【WOCK】
箱が変形……した!
「ちょ待ておい、何なんだアンタ!」ドン
腰を抜かして一言。
開いた口が閉じない。
凄まじい変形を経て今、アームを振っているコイツは...!?
「見ての通りロボットだ。それで、わっち自身はAIというやつ。知ってるだろ?」
「エ、エーアイ? 今こんなに進化してるのか……いや、いや、そんなことないだろ嘘つくな! 第一お前、さっきまで俺のスマホから……そうだ! 分かったぞ、遠隔操縦だな?」
「と言われてもねぇ、わっちはただのAIであるとしか言えないのだ。ま、君のスマホにハッキングした事は謝るけどね。素直にごめんなさい、だよ」
「ハッキングゥ…?」
ムバーは10本の足をムカデのように小刻みに動かし、俺の周りを徘徊する。機械の干渉音は小気味良く、一糸乱れぬ規則正しいリズムで足を動かしていた。
そして、ピタリと止まり、その黒いレンズを俺に向ける。
「まぁまぁまーまー、まずは自己紹介からだ。わっちのことはムバーと呼んでくれ。そして、君のことはテツと呼ばせてもらうよ」
テツ、テツヤのテツ……か。子供の頃に呼ばれていたあだ名。こんな所で呼ばれるとは。
「クソッ ホントなんなんだよアンタ」
「さっきの説明もう一回するかい、テツ?」
「そういうことじゃ……いいや、もう」
コイツはあまりに怪しすぎる。やっぱり怪物の一種なのか……? だが、今の状況はとりあえず、コイツとお話しするのが賢明だろう。
「……えとそうだな〜まず、ここが何処か分からないとか言ってたな。どうやって来たのか聞かせてもらおう?」
「それが、道を歩いていたら突然落下してね。一瞬暗くなったと思ったらこの森に居たんだ。つまりなぜここに居るのか、わっちにもさっぱり分からないのだ」
「……俺もいつのまにかここに居たから似たようなもんだな」
「そうさ」パカッ
するとムバーの側面から何かが上空に飛びだした。
その小さな黒い点にしか見えないものが、真っ直ぐ上に上昇していく。静かに、迅速に。
「?」
「小型の偵察機、ドローンってやつさ。ここら辺の地形を見ておきたいんだ。それに、テツもだいぶオツカレだよね?だから、水場も探そう……お、そう遠くない所に川があるじゃないか」
(偵察機……なんて奇妙なんだ。本当にAIなら軍事用か?)
いや、今は考えるのはよしとこう。ここでは常識は通用しない。
「じゃあ案内してくれ」
「おけぇい!」
「……調子の良いやつだなアンタは」
こうして一人と一機は歩み始めた訳だ。
チラチラと木漏れ日が頭を撫でる。どうやら日が昇ってきたようだ。この大地をただ少し暖かくしてくれる。冷たい風は、今は来ないだろう。
さて、俺は見てきたものを全て洗いざらい吐いた。といっても来たばっかなので言えることは少なかった。
対してムバーはここに来て3日目だと言う。
あの箱の状態でずっと居たらしい。
「わっちはAIだよ?指示がなければ動かない」
などと、言っていた。しかし謎にカメラだけをオンにし化け物の観察、解析もやっていたそう。
曰く「生物学における重大な発見になるかもしれない」のだと……さっき帰らなくても良いとか言ってたが、思いっきし帰る気満々じゃねぇか、と口から出そうになった。
途中、例の如く怪物を見かけたが、その時もじーっと様子を眺めていた。
さてお喋りも疲れてきた時、俺たちはまた奇天烈なものを見つけた。
それは地面にポンと乱雑に打ち捨てられていた、黒く光沢があるアタッシュケースだ。中に金でも入ってそうな。長らく置かれてたのか、土や葉に覆れている。
「また変なものが落ちてるな?中に何か良いものが入っていればいいが……?でもおかしいな、留め具がないぞ?」
「…」
アタッシュケースの口を無理やり開けてみようとするが、残念ながら固く閉ざされていた。ムバーは何も言わない。
「開かないな」
「それは[SW-A]だね。ただの荷物入れじゃない」
「なにそれ」
「武器だよ。電子を亜光速まで加速して打つ銃。光線銃っていうか、そんなもの」
「はぁ……それは……えとなんだったか……いわゆる、荷電粒子砲だろ? フィクションだ。からかってるのか?」
「いや、大真面目さ。確かに、君に馴染みはない。だが、これは君とわっちを守ってくれる。信じてくれ」ガチャ
と言って、アームを器用に扱い、こちらにアタッシュケースを差し出す。
「はぁ……」
ケースは持ってみたところ、思ったよりも軽かった。これなら持っていけるが……
レーザービームが出る? いやそんなわけない。せいぜい投げつけて脅かすだけだ。
なにか分からないが、疲れた。とにかく水を飲みたい気分だ。
そこから少し歩いていくと小川に到着した。驚くほど透明な水が、滑らかに流れている。川の匂いが鼻を突き抜け、爽快だ。
早速川に口をつけようとした俺を、ムバーが後ろから軽く叩く。
「知らない場所の川水は生で飲んではいけない。腹を壊しては、わっちじゃ治しようがないよ」
「……わかってるって」
ムバーは何処からか折り畳まれた金属製のチップを取り出した。それは、即座にコップの形へと変形し、そのコップで川水を煮沸した。
「冷たい水が飲みたい」ゴクッ
文句を言いながら飲むも、渇いた喉に水分が染み渡る。極上だ。
「……近くから信号が出されている」
「なに? 信号って、助けが来てくれたのか?」
「さぁね。けど、救助信号というのはマトを射ているかも。ずっと一箇所から動いていないようだし」
「……案外お前みたいな奴かもしれないな。んじゃ後で行ってみるか」
「おけぇ————」
バシャーン!!
突如、川が破裂したように飛沫をあげる。急ぎ振り返るとそこには……
ゲ ゲ コ ゲコ
ナマズ頭でヒトの形、青い肌のナニカ。
それが、川の中で立ちすくんでいた。




