ストーン【$τ0ne】
「十年前……礫日……その日は、とっても晴れてて、都市は活発で、あちらこちらから笑い声が聞こえる、いつもと変わらない日だったわ。
けど、正午過ぎにそれは起き始めた……ドゥネルよ。たくさんのドゥネルが世界中にいきなり姿を現したの」
「えっ?」
ドゥネルって、固有の生物……とかじゃなくて?いきなり現れた……?
「そして全てを無差別に虐殺していった。魔族も魔物も人も動物も……実に多種多様な方法で。潰されたり、体を反対にされたり、ミンチになるまで切られたり……まぁ実際に見ないとわからないわ。あの地獄は」
魔族、魔物……そんな興味引く単語が頭に入って来ないほどの衝撃。
「しかも、それだけじゃない。ドゥネルを見た人は狂ってしまうの」
「狂う?」
「訳のわからない事を叫んで、最後には衰弱して死ぬ。耐性がなければこうなる」
ドゥネルによる精神汚染、俺は平気なのか?
「そんな……じゃあ、どうやって対処したんだ?」
「対処、ねっ、ふふっ」
彼女は乾いた笑いを見せる。
「なにが可笑しい?」
「対処……出来なかったの」
そう喋るその顔に、笑顔はない。どこかから、生暖かい風が彼女の髪を揺らす。
「いくら倒してもすぐ何処かから、何処ともなく湧いてくる。その物量に押されて、王都さえも落ちた。負けに負けを重ねてもう十年、生き残りはひっそりと見つからない場所に暮らしてるの、私達みたいに。多少例外はあるけど」
「負け……人類の」
「そう、その通りよ」
なんてこった……ここは、崩壊済みの世界だった。帰る方法を探しに来たのに、これじゃ帰るどころの話じゃない。心拍数が上がっていく。
この人達も今を、生き残ることで精一杯だ。どうする? 他の場所を当たるしかないのか? 見つからない場所か……待て、例外?
「なぁ、さっき言ってた例外って?」
「ドゥネルと共に現れた神器を、いち早く活用して今も存続している町がある……という噂よ」
「噂か」
「えぇ、外とは連絡が取れないし、遠くにあるみたいでね」
なるほど、次の行くとしたらそこだろう。
「大体わかった。案内の邪魔をして悪かったよ。残りの棟を頼む」
「残りの塔は【病塔】よ。治療所だけど、誰も入れないわ」
「誰も?それはなぜ?」
「……昔に、ある病を持ち帰ってしまった人がいた。その病にかかった人は不死の人喰いとなり、それに噛まれたら伝染するわ。案の定塔内は化け物だらけになった」
ゾンビ……か。
「村全体に広がる前に、あの塔のみで抑え込んで結界を貼ったの。だから、まだ中に……」
「マジか、どうすんだソレ」
するとまた、彼女は、ははっ! と笑った。今度はより快活に。
「だからどうしようもないんだよ」
それは、優しく、全てを諦めてしまったような声。顔は下を向いていて、表情は見えなかった。
***
夜、俺は居住棟の空いた一室で横になる。ベッドの予備がないとのことで、冷たいコンクリートに頬をつけている。
だが、さっきの事を知って色々なことが頭で巡り、寝付けない。
———ツツー ツーツ
[起きてるかな?]
ムバーの声が聞こえる。
[さっきの話聞いてたか?]
[聞いてたよ。まさかまさかだね]
[ほ〜んと勘弁して欲しい。文明崩壊後ってポストアポカリプスかよ……」
[かなりヤバくて遠隔で聞いてても笑っちまったよな!? にしてもドゥネル、やっぱりそうだよな?]
その時、ヘルメが割り込んでくる。
[何の話?]
[ドゥネルって転移してきたんじゃねぇかって予想してたんだぜ、前々からな]
たしかに、固有の生物だと考えていたからどう発生するかなんて気にしてなかった。
[なるほど、いきなり現れたってんなら、その可能性は大きそうだな]
[その通りだぜぃ。だがあの姿は普通じゃねぇ。まだ謎はありそうで嬉しいぜ!? 真実はいつも一つだ!]
[なに楽しんでんだよ、オメェも帰らなきゃいけないんだろうが]
[まぁまぁ二人とも、しかし、有力な行き先が見つかったね?これは良いことだ]
[それなんだがなぁ〜]
とゴロンと転がり仰向けになる。
[いつ行けばいいかな〜マジ……そういや、アンタらは何処にいんの?]
[わっちらはまだ洞窟。何か要望が?]
[今はまだない。が……例の町への道が分かったら、先んじてその道を偵察しといて欲しいなと]
[分かったよテツ。あとこれはアドバイス、いつ行くかは君次第だが、今は身体を休めた方が良い。長い道のりになるだろうからね]
[わかってるさ。それに、出来るなら魔法ってやつを身に付けたい。銃とかは消耗品であまり気軽に撃てないんでな]
[へぇ、お前さんが魔法使いになるのかぁ、なら、30歳までまさか童貞を貫かなきゃな!]
ヘルメのへへへッと笑う声が脳内に響く。
[はいはい、通信切るぜ]
——プチッ
そうして、少しぼーっとしたまま天井を見る。窓からの月明かりが部屋をぼんやり照らしていた。
俺は羊でも数えて寝ることにした。
***
「ん……んん」
陽の光を直に浴びながら、目覚める。その時、何か身体に違和感を感じた。
別に寝違えたとかではなく、全身を触られているような……とりあえず目を無理やり開ける。
「やぁ」
見えたのは、微笑みかけてくる知らない美形。そして、俺の一糸纏わぬ身体。
「ダレーっ!」
ドーン!
俺はマンションの壁まで吹き飛ぶほど、思いっきり突き飛ばした。
「がはぁ!?」
結構ダメージ入ってそう。しかしフラフラと、身体をさすりながら立ち上がる。
「……いってて、まぁいいや。驚かせてしまい申し訳ありません。初めまして【エクンノ・ガン・クラット】です。ペグ君の友達です。これからよろしく」
そう言って、目の前の奴は笑顔でお辞儀をする。
黒髪黒目で中性的な美形、声も高めのイケボ、現代のキラキラした場所に生息する人間。そんな奴だった。




