ウェルカム【WELLcAM】
「改めて自己紹介させてくれ。アレは偽名でね……本当の名前は【ペグ・ナ・バレル】だ。ペグって言って良いよ」
「……分かった、ペグ。これからよろしく」
歩きながら、俺らは言葉を交わす。それにしても、偽名とは。まぁ当たり前か。
「村ってどんなところ?」
「村は良い所だよ、皆優しいし。暮らしに余裕があるわけじゃ無いけど」
「そうか…… こんな、体になんだが、俺は受け入れてもらえるかな」
俺は少し怯えた声で喋る。
「うん、きっと」
ペグは優しい笑顔で答えた。
幼さの残る端正な顔だ。
「歳……いくつなんだっけ?」
「24」
「24か…にじゅうよん!?」
驚き口が大きく開く。こ、この見た目で歳上なんてことあるのか!? いや! もしかしたら、この世界では一年がもっと短かかったり、歳の裁定が違ったりするんじゃないか?
しかし勘繰る俺を尻目に彼は言う。
「呪いだよ。体も、精神も、成長しなくなる呪い。10年前に掛けられてそのままなんだ」
「呪い……か」
魔法があるなら呪いがあってもおかしくない。
体と精神の成長をストップか、現代じゃ需要大有りだろうが、こんな歳で止まったら普通に厄介だろう。
「そりゃ辛いな……誰にやられたんだ?ソレ」
「ドゥネルだよ」
「呪いをかけるドゥネル、特殊個体か」
特殊個体。これは文字通り、特殊な能力を持つ個体に付けた仮称である。
ヘルメが観測した特殊個体は二体。光の球を浮かばせ、それを爆発させるもの。熱光学的に完全に透明なもの。
「特殊個体、それがテツの呼び方か。僕らは色付きと呼ぶ」
「色付きには、俺も出会いたく無いな」
そう言って森への警戒を増した。
こんな雰囲気で、俺らは話しながら歩いていく。一時間程経ったが、未だ着く雰囲気なし。
聞けば村までかなり遠いそうで、歩きでは六時間程かかるらしい。
クソッ、走れば一時間くらいで行けそうなものだけどな。でも……ペグがそんな速度で走れるとも……いや、聞いてみるか?
「なぁペグ、速く走れるか?」
「うん。魔力も回復したし……でも、良いのかい?速いよ?」
「俺も、なぜか速いんだわ」
ふふっと笑ってみせる。彼からしたらブラックジョークだろうな。しかし、いつまでもメソメソ演技してても、後になってから大変だろ?
「やっぱり強いよ、君も。見せよう——速攻走破」
そう唱える間、俺も義体の人工筋繊維の配置を変え、長距離走行形態へ移行した。
「いくよ!」
次の瞬間、そこには二つの残像だけが残った。
***
途中で狩ったドゥネルを担ぎ、到着するは草原。
すごい、ただだだっ広いだけ。低草がこれでもかとびっしり生えている。
「村は……?」
また騙された?
そう思い彼を見ると、何やら地面に触っていた。側には、中型ドゥネルの死体が数個。
「開くよ」
その言葉の後、触れていた草原が徐々に透明になる。
見えたのは地下へと続く終わりの見えない階段。しかし、アクトは迷いなく進んでいく。
俺も後ろを続くように、警戒しながら階段に踏み入った。
——コン コン
硬い音を反響させながら石階段を降りる。道の両脇にはランプが一定感覚で掛けられている。薄暗く、仄暗い一本道。そこは埃っぽく、乾燥していた。
「なぁ、いつ着くんだ?」
「もうすぐだ」
「ん?」
長い階段の先、そこにはいつの間にか扉が。
開きかけの扉の隙間から、光が漏れ出ている。
アクトは躊躇せず光の中へと進んでいった。
これは……入るべきかどうか。
怖いからSADを起動して顔だけ入れよう。
と引き延ばされた時間の中、先を覗いた。
「はっ!?」
すると驚愕。
見えたのは草原と聳え立つ三棟のマンション、遠くには牧場。そして、ペグの背中と、彼へと走り寄る子供達。
頭上には太陽が燦々《さんさん》と光り輝いていた。
まさにそこは、地下に広がる地上である。
故にコンクリート剥き出しの灰色で無骨なマンションの違和感が天元突破。6階建なのもよく分からない。
これも魔法なのか、なんて思いながら安全を確認して完全に体を入れる。振り返れば、そこには何も無い。
そして目の前では、お帰りだとかお疲れだとかの言葉が飛び交って、どうも眩しい。
「あれぇ、だれあれー」
幼い子供の一人が俺を指差した。
「お、おっおう、おれかい?」
「彼はテツヤって言うここにきた外の人、挨拶していきなさい」
子供達は、はいと力強く言えば、こっちに近寄ってきて一言。
「こんにちは!」
「ははっ、あぁ、こんにちは」
その元気に少し笑った。
そんな彼等の洋服には縫い目が多いようだ。
「!ねぇ、テツヤの手はなんで黒いの?痛い?」
「いや、痛く無いよ。これは魔法の手さ」
「へぇ〜すご〜い! 触らして!」
「良いよ、ほら触ってみな!」
俺がこんな風に戯れているその最中。マンションの入り口から慌てた様子の若い女が息を切らしながら姿を見せた。
髪も瞳も藍色、顔は端正でどこかペグと似ている?けれど服も髪もだらし無く荒れている。
「ペグっ!? ペグなのよね!?」
「うん! ただいま! 遅くなっちゃった」
「この馬鹿ぁ!」ガバッ
すごい勢いのハグだ。
ペグ、押し潰されちゃってる。そして彼女は何度も何度も頭を擦り付けては頬にキスし続ける。大好き大好きー、と言いながら。
「お熱いな」
顔に浮かび上がる苦笑。運に恵まれない俺にとっては、なかなか心にクるわけだ。
———ギロリ
藍色の目がそれを見逃さない。
「———お前、お前がペグを危険に晒したのね?! 許さない! 許さないわ! 私、とても怒っているの!」
敵意たっぷり。
「ちょっとペグこの人なに!?」
「僕の姉ちゃん!」
「えぇ!?」
まさかの姉の登場! 本当にあの洞窟では嘘しか言ってなかったのか!
「キィェェェェェェェ!!!」ダダダッ
しかも突進してきた!
き、奇声を上げている……ひぇ
どうする?殺すか!?
いや、殺すのはまずい。
しかし姉は止まらない。ペグも止めない。
彼女は拳を掲げ上げ俺に向かって振り下ろす!
その拳は……
スカッ
———トテッ
「えぇ…」
うん、SADを使うまでも無かった。
パンチ届いてないし、体勢崩して転んでる。
あり得ないほど戦闘に向いてない。
「あの……」
「こ、この外道! 私に近寄らないでっ! ぺグッ助けてぇ」
涙目だ……この世界に来て初めて俺より下の存在を見た気分。
弟とはえらい違い。わーきゃー騒いでしかもペグに助けを求めるって……なにこの人。
「はいはい姉ちゃん。テツ、みんなに紹介するからついてきて」
とペグは軽くあしらい、ドゥネルを担いでマンション内部へと入っていった。




